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フランスの魅力は地方の元気にあり! 日仏生活文化研究家
吉村葉子
第1回 「自分の生まれた土地が一番」のフランス人
 フランスといえば、多くの日本人が思い浮かべるのは「パリ」。でも、プロヴァンス地方やアルザス地方といった個性的な地域をはじめ、「フランスの最も美しい村」と呼ばれる新たな観光ブランドが生まれるなど、フランスにはほかにも数えきれない見どころがあります。地方の人気を支えているのは、おとぎの国に迷い込んだようなメルヘンチックな景色や、中世の街並みがそのまま保存されている歴史文化財だけではありません。世界中から訪れる観光客を魅了するヒミツとは? フランス在住歴が長く、日仏双方の生活文化について多くの著書がある吉村葉子さんに、フランスの地方の魅力と元気の源について、5回にわたってお聞きします。

個々のアイデンティティを重視するフランス人
 20年ほど暮らしていたパリで、私は多くの個性的なフランス人と会いました。どのフランス人も日本にはいない、それぞれにユニークな方々。唯一、共通していたのは、皆さん自分のアイデンティティーをしっかり持っていたことです。

夜の凱旋門(パリ)
' Atout France/Patrice ThØbault
 ここでいうアイデンティティーとは、自分のルーツである生まれ育った場所が、“生きていくための基盤”になっているという強い意識。「地を足につける」という言い回しがありますが、フランスの学校では、自分たちがその土地の歴史・文化の継承者であることを十分認識させたうえで、自分の頭で物事を徹底的に考える習慣をつけさせる。つまり、哲学がフランス教育の基本にあるのです。
 幼いころから哲学に親しんでいる彼らだからこそ、たとえ世界中のどこにいても、自分らしく物事を捉え、自分の意見をはっきり言える。臆することなくオリジナリティーを表現できるのだと思います。

 パリにはフランス全土から優秀な人材が集まってきますが、それはトップエリート養成学校「グランゼコール」がパリに集中していることに大きな理由があります。だからといって故郷を忘れたわけではありません。政治・経済の重要なポストにつき、国を引っ張る立場になっても、彼らの根っこには「自分の生まれた場所が一番」という揺るがぬ信念があり、今も“おふくろの味”を求めて郷土料理を食べさせるレストランに通います。パリにさまざまな地方料理のお店がひしめいているのは、そうした事情もあるのです。

「私はフランス人である以前に、ブルターニュ人」
 東京で私が親しくしているフランス人の一人、ベルトランさんは、フランス西部に位置するブルターニュ地方の出身。私の住んでいる神楽坂に「ル・ブルターニュ」という本場のクレープ屋さんを開いています。日本にそば粉を使った本格クレープや塩キャラメルを広め、行列のできるお店として有名ですから、ご存じの方も多いでしょう。
 ブルターニュ地方について少し歴史的な補足をしておきますと、フランス革命以前、中世のころまでこの辺りはブルターニュ公国と呼ばれ、イギリスから移住してきたケルト系民族が住んでいた独立国家でした。つい数十年前まではケルト語系のブルトン語も使われており、ここに住む人たちは自分たちをフランス人とは呼ばず、誇らしげに「ブルトン人(またはブルターニュ人)」と名乗ります。質実剛健を好み、頑固者がそろった土地柄です。 
 そんなアイデンティティーを持つベルトランさんは、日本に来る前、スイスのジュネーブで高級レストランのディレクターとして働いていました。そこで将来の伴侶となる日本女性と出会い、日本にやってきます。そして、神楽坂の地であえて経験のないクレープの店を開くことにしたのですが、理由は明白でした。彼のキャリアからすれば、高級フランス料理店が自然の流れだったかもしれません。しかし、「自分自身がつくる店なら、むしろ自分のアイデンティティーに根ざしたトラディショナルなものを」と考えたのです。

ブルターニュ名物、そば粉のクレープ
' Atout France/Michel Angot
 ブルターニュ地方の特産品といえば、そば粉。それを使うクレープは、ブルターニュ地方を代表する名物料理です。ベルトランさんは農家の出身で、祖父母はそばを育て、家の暖炉でクレープをつくっていたというのですから、しごく当然の選択だったのでしょう。
 ちなみに、私がブルターニュ地方に取材で訪れた際、テキスタイルデザイナーのル・ヴィレックさんとの会話の中で、ベルトランさんの名前が出たのはうれしかったですね。
「東京から来たのなら、ベルトランを知っているでしょう。彼は、ブルトンの出世頭なんです。先週も私の店にきて、新しくオープンするクレープ屋さん用の小物をたくさん買って帰りましたよ」
 ベルトランさんはブルトン人が誇る、サクセスストーリーの主人公なのです。

――地方それぞれの郷土色が濃い国・フランスには、郷土愛の強い国民性が育っていることが、吉村さんのお話から伝わってきます。次回は、吉村さんの“フランス地方を旅するスタイル”についてのお話です。(つづく)

【吉村葉子さんの公式サイト】
http://www.yokoyoshimura.com/

(構成:宮嶋尚美)
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【よしむら・ようこ】
1952年神奈川県生まれ。立教大学経済学部卒業。1979年から2000年まで、約20年間をパリで暮らす。生活の拠点を東京に移してからも、頻繁に日仏を往復。教育、芸術、経済、食文化など幅広いジャンルでフランスの地方やヨーロッパ全域を取材。日仏文化の比較論にとどまらず、フランス人とフランスという国を凝視することで見えてくる、私たち日本人に役に立つ彼らのエスプリに注目。著書に『お金がなくても平気なフランス人 お金があっても不安な日本人』(講談社文庫)、『徹底してお金を使わないフランス人から学んだ本当の贅沢』(主婦の友社)ほか、多数。
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