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美しいくらし
東京ぶらり老舗散歩 江戸文化研究家
安原眞琴
最終回 雪月花の寺を訪ねて①
 地球温暖化のせいでしょうか、近頃は9月になっても、なかなか暑さがおさまりませんね。そこで、秋の訪れを感じさせる年中行事の力を借りて、季節感を取り戻しましょう。その行事とは〈お月見〉です。旧暦の8月は、今の暦では9月か10月になりますので、季節の上では秋です。お月見とは、その8月15日の満月を愛でる行事です。最終回「東京ぶらり老舗散歩」では、月を感じながら〈谷中〉〈日暮里〉を散策し、最後は〈月見団子〉にちなんで、老舗のお団子屋さん〈羽二重団子〉で休憩しましょう。

谷中に流れていた川

HABUTAE1819 羽二重団子日暮里駅前店(荒川区東日暮里)
 散歩のはじまりは、東京メトロ千代田線の〈千駄木駅〉から。ここは、谷中・根津・千駄木を合わせて〈谷根千〉(やねせん)と呼ばれる、下町情緒が味わえる人気のエリアです。まずは、定番のスポット〈谷中銀座〉に向かいましょう。

 駅を出て、〈団子坂〉とは反対の〈三崎坂〉(さんさきざか)方面に進み、〈菊見せんべい〉という、創業明治8年(1875)の老舗のお煎餅屋さんが見えたら、その角を左折しましょう。

 この道は、知る人ぞ知る〈よみせ通り〉という商店街で、途中を右折すると谷中銀座になります。どことなく道が曲がっているのは、大正9年(1920)年に暗渠になるまで〈藍染川〉が流れていたからです。

 下町ブームも手伝って、昔ながらのお店に加え、パン屋さんやカフェなどの新しいお店も増えています。珍しいものでは、〈指人形笑吉〉というお店もあります。指人形のお店兼劇場で、指人形劇や、指人形が描く似顔絵などのパフォーマンスが、気軽に楽しめます。

 よみせ通りを少し進むと、右手に〈谷中銀座〉の入口があらわれます。狭い道の左右に、小ぶりのお店が軒を連ねているので、パッと見ただけではどんなお店があるのか分かりません。このゴチャゴチャした感じに、入る前から好奇心がくすぐられてしまいます。

 すぐにでも商店街に入っていきたくなるところですが、ちょっと待って! お店の屋根を見上げてみてください。どうですか? 野良猫のオブジェが目に入りましたか? さまざまなかっこうをしたカワイイ猫のオブジェは、散歩の疲れを癒やしてくれるとともに、下町気分も盛り上げてくれます。

谷中銀座ではたくさんの猫の像に会える
 さて、いよいよ谷中銀座に入っていきます。魚屋さんや八百屋さんなどの食料品店から、洋服屋さんやお茶屋さんまで、色々な種類のお店があって、見ているだけで飽きません。しかも、メンチカツや抹茶アイスなど、その場で食べられる、いわゆる買い食いできるものも売っています。

 谷中銀座を進んでいくと、ゆるやかな階段に突き当たります。ここが、テレビのロケでもよく使われる〈夕やけだんだん〉です。人気の秘密は、階段をのぼると、上半分に空、下半分に谷中銀座が見えるのですが、その光景がどことなく昭和レトロなのと、たくさんの本物の野良猫に会えることです。

江戸時代から続く行楽地・日暮里
 〈夕やけだんだん〉をのぼれば、そこは〈諏訪台地〉の頂上です。まっすぐ進むと〈日暮里駅〉があり、そこから先はまた下り坂、いわゆる〈谷〉になっています。つまり頂上は、〈尾根〉のような感じで、横に長く、幅は狭くなっているのです。

 〈諏訪台通り〉と呼ばれる、尾根づたいに左にのびる細い道を入ると、台地の端に突き当たります。ここに、この辺りの総鎮守〈諏方神社〉(すわじんじゃ)があります。元久2年(1202)に信州の諏訪神社から勧請されたと伝わります。ただし、ここの神社は、「諏訪」ではなく「諏方」と書くので、ご注意ください。

尾根のような諏訪台地
 諏訪台地は、江戸時代から風光明媚な行楽地として人気がありました。駅名にもなっている〈日暮里〉という町名も、江戸時代以来、日が暮れるのも忘れるほど、四季折々の美しい景色が楽しめる行楽地であったことに由来します。

 諏方台通りは〈尾根〉ですので、道の片側は〈崖〉になっています。途中には、ごく最近まで富士山が見えた、〈富士見坂〉と呼ばれる坂もあります。
 その坂付近の崖側は、花の名所として名高い場所でした。そこには、〈修性院〉をはじめ〈青雲寺〉や、明治以降廃寺となった〈妙隆寺〉などのお寺があり、それぞれの境内の庭園に、桜やツツジなどのたくさんの花が植えられていたのです。そのため、これらのお寺は〈花見寺〉と呼ばれていました。

 ところで、〈花〉と言えば、〈雪月花〉という言葉がありますね。四季の自然美を総称する言葉ですが、実は、ここには〈雪見寺〉〈月見寺〉〈花見寺〉がすべて揃っているのです。いかに風光明媚な場所だったかが分かりますね。(つづく)

【makoto office 安原眞琴公式サイト】
http://www.makotooffice.net/

【イラストと地図:鈴木 透(すずき・とおる)】
1965年福島県生まれ。「釣りキチ三平」などを制作する矢口プロダクションを経てフリー。

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『東京おいしい老舗散歩』が2017年11月に発売されます(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。
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【やすはら・まこと】
1967年東京都生まれ。文学博士。専門は日本の中世・近世の文学、美術、文化、女性史。吉原文化の最後の継承者を5年間取材したドキュメンタリー映画「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」を2013年に発表。立教大学・法政大学・大正大学・東武カルチュアスクールなどで講師を務め、天台宗総合研究センター、日本時代劇研究所などの研究員でもある。NHKカルチャーラジオ「歴史再発見 芸者が支えた江戸の芸」を2016年に担当。著書に『「扇の草子」の研究――遊びの芸文』(ぺりかん社)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社)、『東京の老舗を食べる』(亜紀書房)などがある。
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