時間と場所の制約という壁は、子育て中の女性の多くが働くときに直面する悩みです。この問題を解決するためにポラリスが考え出したのが、チームで仕事を請け負う「セタガヤ庶務部」です。チームで働くことでどんないい点があるのでしょうか? 具体的な仕組みを教えてもらいました。意外なニーズを見つけた!
子育て中に地元・世田谷のNPO法人で子育て支援活動にかかわっていましたが、予想外だったことがあります。パソコンを使った見積もり作成など、自分では当たり前だと思っていた会社員時代の事務経験が重宝され、生かせたことです。その経験をもとに、仕事を依頼したい事業主と働きたい人材の活用を仕組み化したのが、セタガヤ庶務部という事務チームです。
最初は、NPO法人時代の知人から頼まれた名刺入力などの仕事を請け負いながら、自分たちが納得して心地よく仕事ができる仕組みや、労働に見合った賃金を探ることから始めました。1年間の試行錯誤の末、2012年8月に事業として本格的にスタート。今では顧客管理や取材テープ起こしから、サイト制作、マーケティングまで仕事の幅が広がり、およそ200人の女性が登録しています。子どものお昼寝中など、育児や家事の合間の時間を有効に使って働くため、報酬については1カ月で数千円から1、2万円を手にする人が最も多い層です。
メンバー同士で助け合う
写真提供: 市川望美さん
いちばんの特徴は、どんな仕事も必ず複数人のチームで受けて進行状況を共有すること。でも、これって「合理性」や「効率」という視点で考えるとマネジメント側にとっては結構な手間なんです。
60分の長さのテープ起こしを例にすると、60分すべてを1人に依頼するとやり取りは1対1で済みますが、それを20分ずつ3人に分割して担当してもらうと1対3のやり取りが必要になる。さらに、スキルのバラつきがあれば、それも考慮してクオリティをチェックしなければならない。業務を細切れにする分、マネジメントにエネルギーが必要になるため、一般企業はなかなかやりたがりません。
ですがこのやり方こそポラリスが一番に大切にしたいこと。バックアップ体制があるからこそ、「やってみよう」という意欲を生み、「子どもの急病など突発的なトラブルが起きても、メンバー同士で助け合えるから大丈夫」という安心感につながります。お互いを気遣いバックアップできる「シゴト軸のコミュニティ」だからこそ、会社としても安心して「セタガヤ庶務部にお任せください」と言うことができます。
「一人で最後まで責任を持てないから、今働くことを選択しない」という女性たちが地域の中にはたくさんいます。今の労働環境にはマッチしないかもしれませんが、意欲も能力もある人たちが安心して力を発揮するため、部分的な効率性や合理性ではなく、多少の手間をかけても「全体最適」できるチームつくっていく。そのほうが結果的には“いい仕事”につながると考えています。
価値ある最初の一歩
実は転勤族の妻も多いんですよ。夫に辞令が出たらすぐに引っ越さないといけないので、自分自身の仕事のキャリアを継続するのが難しい。そのたびに働く場所はもちろん、自分の居場所も新たに探さなければいけない壁があります。でも、セタガヤ庶務部ならインターネットでつながっているので、どこでも、いつでも仕事ができる。世田谷区に住んでいたけれど夫の転勤でオーストラリアに行きますという人も、引っ越して3日後ぐらいには今までどおり仕事をしています。
一人では踏み出せなくても、「仕事を共有する仲間がいるならやってみたい」という、チャレンジする一歩に大きな意味があります。それが、復職する機会がなかった女性たちの眠っている能力を生かすきっかけになる。私はそう信じています。
――事業開始から4年が経った現在、およそ200人にものぼるセタガヤ庶務部のメンバーの中には、会社勤めをしていた人だけでなくフリーとして働いていた人などもいて、職務経歴の幅も広がっているそうです。でも、仕組みをつくればそれでいいわけではありません。次回は“未来のための新しい働き方”のカギとなる、メンバーの意識改革について教えてもらいます。【非営利型株式会社Polarisのホームページ】
http://polaris-npc.com/(構成:村田智子、撮影:馬場邦恵)
*この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース17期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets