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美しいくらし
「千年村」に学ぶ持続可能な暮らし 早稲田大学教授
中谷礼仁
最終回 生きる場所をあらためて選びなおす
 少子高齢化や空き家問題、都市集中や過疎、そして多発する自然災害などなど。「なんだか未来はあまり明るくないみたい」なんて思っていませんか? 最終回は、千年もの長きにわたり生き抜いてきた「千年村」が、私たちの“これからの暮らし”に示唆してくれる知恵などについて聞きます。

―― これまでの話から、“なんとなく住みやすいところが、実はすごくいいところ”なのだと、あらためて気づくことができました。

(写真:編集部)

 「千年村プロジェクト」のWEBサイトで公開しているチェックリストは、住む場所を選ぶときにも役に立ちます。“ここに住みたいなあ”と思ったら、リストにいろいろと書き込んでみる。不動産の選び方が変わってくるかもしれませんよ(笑)。
 リストの項目のように多角的に場所を見る目を養い、客観的に検証することは、生活しやすいかどうかにとどまらず、生きのびられる場所を探ることにほかなりません。「千年村」のように“なんとなく住みやすいところが住むにはいいところ”という気づきを多くの人が持てば、現在のような東京一極集中の様相も変化してくるのではないでしょうか。

―― 日本の「千年村」のような集落は、ほかの国にもあるのでしょうか。

 日本の場合、私たちが「千年村」の候補地選定に用いた古文書のように千年以上前の資料がきちんと残っているので、比較的、探しやすい。実は、このような例は、世界的には珍しいんですよ。古代の遺跡や建造物が遺るヨーロッパでも、政争や戦争で記録が欠けている時代があったりするので、連綿とした集落の歴史を見ることは難しいことが多いのです。

中国・黄土高原の集落では崖地に横穴を掘った「ヤオトン」という古来の住居と新しい建築物が共生している

 私は、そうした中でも東アジアでは比較的「千年村」を見つけることができると考えています。2年前から、中国の西南部、アジアの源流の地といわれる雲南省で、古い集落の研究をしていた雲南大学の先生や学生たちと一緒に「千年村」の調査をしており、今年の夏も現地に行きました。私たちの「千年村プロジェクト」の手法が、中国の古い集落を調査する際にも有効かどうかなどを検証しています。いずれは、そうして見いだした中国の「千年村」と日本の「千年村」との交流へ広がっていけばいいですよね。

―― もしかしたら、「世界千年村シンポジウム」が開けるかもしれませんね。楽しみです。「千年村」が今日の私たちに示唆してくれるものとは?

 「千年村プロジェクト」は、いわば“生活の幅を広げるためのツール”です。自分はどこで、どのように生活していくのか、その選択肢を広げるツールとして、このプロジェクトを活用してもらえればいいのです。プロジェクトのWEBサイトには私たちが古文書からピックアップした「千年村候補地」をプロットし、公開しています。実際に休みの日に車で候補地めぐりをしてみたら面白いですよ。第1回「カギは『壊れていない場所』にあり!」で紹介した“疾走調査”のように、まずはバーッと走ってみるだけで、いろいろなことがわかります。
 そうすることで、あらためて自分の住んでいる場所を見る目が変わります。このプロジェクトは、将来にわたって引き継がれる優れたアプリケーションだと自負しています。「千年村」の再発見や認証、交流などの動きは、満ち足りていてガツガツしていない「千年村」の住人たちのように、ゆっくりジワッと広がっていけばいいですね。

―― ご自身は、これからどんな場所に住みたいと思っていますか?

イランとイラクの国境に近いクルディスタン地域の山間にあるパランガン村

 実は近々、ネパールに行くんです。現在、私はチベットやミャンマー、ネパールなどの高地民族の暮らしや生き方に興味があります。ものすごい高地で、人間として最も生活しにくい場所に暮らす人たち。いわば、“なんとなく住みやすい”という「千年村」とは対極の地域で生活する人たちですよね。でも、その人たちがそこで生きているのには必ず何らかの理由があります。その理由によって長い時間をそこで生きている。
 このようにさまざまな条件の場所で人間の暮らしを見て、「さて、自分はどこに住もうか」と夢想するのは楽しいものです。いつか、『風の谷のナウシカ』に出てくるユパ様みたいになれたらと思います(笑)。(おわり)

―― いえいえ、世界中の古い集落を訪ね歩き「千年村」を見出し続ける中谷教授は、もはやユパ様の“同僚”みたいな人かも!? 自ら生きる場所を、あらためて選びなおす――。「千年村」の存在は、便利と快適さに溺れる私たちの慢心をいさめ、普通に“これから”を生き抜くために大切でシンプルなことを気づかせてくれるように思います。

(写真提供:千年村プロジェクト、構成:白田敦子)

★千年村を体感し、語り合う「千年村大会2019」
カモメのるーと一緒に行ってきました!



 12月22日に日本橋三重テラスで開催された「千年村大会2019 シュウカクとオスソワケ」に、「かもめの本棚」広告宣伝担当・カモメのるーと一緒に行ってきました!
 当日はあいにくの氷雨模様でしたが、会場には約50人の参加者が集まりました。前半は、プロジェクトの説明のほか、東京初の「千年村」となった東京・武蔵村山市岸地区への認証授与式も。この地区の里山では、住民がボランティアとともに産廃置き場になっていた田んぼを復元したり、伝統食の再現などの活動をしています。参加しているボランティアは、なんと約400人。魅力のある場所には、多くの人が集まってくるんですね。

 活動報告では、中谷礼仁教授の研究室に所属する中国人留学生も登壇し、雲南省千年村調査について報告。都市化が進み高層住宅への移転を促される中国の農村部の中でも、住民たちが結束し、集落を挙げて結婚式を祝うなど日ごろから絆を大切にして地域の暮らしを守っている村があることなどが紹介されました。

 後半の住民たちによる座談会では、「多くの人とのつながりが持続可能な集落をつくる」「物々交換など金銭に頼らない経済がある」「外部からの視点が地域を再認識するきっかけになる」などの言葉が。やはり、“持続可能な暮らしのカギは人と人とのつながりにあり”ということなのでしょう。
 会場では三重県の津市山田井で収穫された米のおにぎりやみそ汁なども販売。あちらこちらで千年村グルメを楽しむ人たちの輪が広がりました。「千年村」ロゴマーク入りにTシャツやトートバッグなどのグッズ開発も紹介され、千年村の特産品や参加者持ち寄りの「おすそわけ交換会」も開催。日々の生活を慈しむ住人たちの明るさと、彼らを包み込んできた場所の力を“おすそわけ”してもらった1日でした。
(編集部)


【千年村プロジェクト】mille-vill.org
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【なかたに・のりひと】
1965年東京生まれ。早稲田大学創造理工学部建築学科教授。建築史、歴史工学。今和次郎が訪れた民家を再訪しその変容を記録する活動の主宰を経て、「千年村プロジェクト」を行う。ユーラシアプレートの境界上の居住文明調査でアジア、地中海、アフリカ各地を巡歴。日本建築学会著作賞、同作品選奨受賞。『動く大地、住まいのかたち プレート境界を旅する』(岩波書店)、『実況 近代建築史講義』(LIXIL出版)『今和次郎「日本の民家」再訪』(共著、平凡社)、共訳にG.クブラー『時のかたち 事物の歴史をめぐって』(鹿島出版会)など著書多数。
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