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美しいくらし
「千年村」に学ぶ持続可能な暮らし 早稲田大学教授
中谷礼仁
第3回 住んでいる地域はどんな場所?
 突然ですが、あなたが住んでいる地域には消防団がありますか? 古い神社や旧跡、祭礼は残っていますか? 地元に大工さんや左官さんはいますか? こんなことを調べていくと、あなたの地域の特徴がわかるんです。もしかしたら、あなたの地域は「千年村」かも!?

―― 古文書に収録された地名に基づいて「千年村候補地」をピックアップし、現地への訪問調査を経て「千年村」が認証されるわけですが、その基準はどのようなものなのでしょう。

(写真:編集部)

 地域の特性を知り、客観的に評価するための基準として、「環境」「地域経営」「交通」「集落構造」の4項目からなる「千年村チェックリスト」をつくりました。具体的には、集落の立地や水源、過去の災害と対策などの項目からなる「自然とのつきあい方(環境)」、消防団や氏子といった組織、祭礼や伝承など「集落を支える仕組み(地域経営)」、古くからある道や水運、鉄道など「人とモノの往来(交通)」、そして遺跡や旧跡、古民家の存在や、左官業、在来工務店などの有無といった「集落の骨格(集落構造)」について検討するリストです。

地域の祭礼は世代をこえた人々の交流や文化を継承する場に

 「千年村」として認証されるためには、集落の基盤が長期にわたって持続していることを前提に、上記4項目のうちひとつ以上を満たすことを求めています。「千年村チェックリスト」は、プロジェクトのWEBサイトからダウンロードできます。チェックリストを振り返る自己評価欄もあり、すべて記入していくと自分が暮らす場所の特性を客観的に把握する手掛かりになる仕組みです。ぜひ中学生や高校生たちの夏休みの課題などで活用してもらい、自分たちの地域を理解するツールにしてもらえればいいと思っています。

―― チェックリストには、過去から現在までの地域の暮らしが把握できる項目が並んでいるんですね。たしかに、このように多様な視点から自分の住む地域を見直したことはありません。このリストに基づいて、地域から自主的に「千年村」の認証を求める例はあるのでしょうか。

 初めての例は、三重県津市大里睦合山田井(奄芸郡田井郷)です。プロジェクトのWEBサイトを通じて認証に関する問い合わせがあり、チェックリストの提出、現地確認審査を経て2017年度に認証されました。
 中心人物は、かつて航空機部品の会社に勤めていた若者で、実家の稲作農家を継いだことが申請のきっかけだといいます。実家がある地域は、とてもよい場所だけれどそれを伝える手段がない。収穫した米をどのように他と差別化して売ろうかと考え、思案していたら見つけたのが「千年村」だったわけです。

山田井地区の住民たちが「千年も続いてきたのなら、未来へ千年続かせたい」とイベント「どてらマルシェ」を立ち上げた

 地域からの応募による初めての「認証千年村」への申請ですから、さまざまな過程で意見交換を繰り返してきました。あらためて気づいたのは、いくら美しい景観があったとしても、彼のように地域の中心となる“人”がいなければ「千年村」たりえないこと。
 そこで、自分の集落が「千年村」であることを発見し、「認証千年村」として地域を持続的に運営していける管理人制度で「認証千年村」を運営してもらおうと考えました。

―― ひとまとまりの集落といっても、多様な考え方の人たちがいると思います。管理人はどのような人なのでしょう。

 申請のためには、チェックリストに書き込む内容について集落の住人の合意がなくてはなりません。調査をスムーズに進めるためには自治会長の承認も必須です。ですから、管理人にはさまざまな意見や価値観をまとめるネゴシエーター的な役割と、「千年村」認証から認証後の地域活性まで、地域運営への継続的な意欲が求められるのです。

 山田井地区の管理人の場合、おいしい米をつくり、「千年村のお米」として他と差別化して販売していきたい、そのブランド力を地域全体に生かしたいというはっきりしたモチベーションがありましたから、申請から認証までの流れもスムーズでした。このように、認証を得る目的と「千年村」というブランドを使ってその後の地域運営をどうしたいかなどの意欲が明確なら、その集落の未来も当面は明るいと思います。

 「千年村候補地」が集中している茨城県では、行方市のように行政が「千年村」のブランドに地域活性化への可能性を見いだす例も出てきました。奈良時代初期に編纂された『常陸国風土記』にある多くの地名が現在も霞ヶ浦周辺で確認できる行方市は、日本でいちばん「千年村」が多くありそうな場所です。行政が管理人になるのは難しいので、認証を求める地域に対して行政がサポートするシステムをつくろうと、市と検討中です。

12月22日(日)に「千年村大会2019」を開催

 このように、地域自らが申請した集落を含み現在12カ所ほどある「認証千年村」ですが、さらに増えれば、「千年村」同士の交流も活発になるでしょう。村同士のコラボレーションで「千年村マーク」を入れた「千年村酒」もできるかもしれないと、楽しみが広がります。
 そうした実践的な活動のひとつとして、2019年12月22日(日)午後1時から日本橋三重テラス2階で「千年村大会2019」を開催します。当日は活動報告や認証千年村の紹介と授与式、座談会、それに「妄想千年村食堂」を開設して「千年村」で収穫したおいしいご飯を食べられるコーナーも設けます。ぜひ多くの皆さんに来てほしいですね。(つづく)

―― それは楽しそう! カモメのるーと、ぜひ一緒に伺います。次回(最終回)は、多発する自然災害や少子高齢化など不透明な私たちの“これから”にとって、「千年村」が何を示唆してくれるのか伺います。

(写真提供:千年村プロジェクト、構成:白田敦子)

【千年村プロジェクト】mille-vill.org
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【なかたに・のりひと】
1965年東京生まれ。早稲田大学創造理工学部建築学科教授。建築史、歴史工学。今和次郎が訪れた民家を再訪しその変容を記録する活動の主宰を経て、「千年村プロジェクト」を行う。ユーラシアプレートの境界上の居住文明調査でアジア、地中海、アフリカ各地を巡歴。日本建築学会著作賞、同作品選奨受賞。『動く大地、住まいのかたち プレート境界を旅する』(岩波書店)、『実況 近代建築史講義』(LIXIL出版)『今和次郎「日本の民家」再訪』(共著、平凡社)、共訳にG.クブラー『時のかたち 事物の歴史をめぐって』(鹿島出版会)など著書多数。
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