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子どものこれから
未来と今を創る「子どもの権利」 早稲田大学教授
喜多明人
第1回 条約批准で何が変わったか
 18歳未満のすべての子どもたちの最善の利益の原則に立ち、生存と発達が保障され、自由に意見を述べて参加する権利を確保しようとする「子どもの権利条約」。1989年11月20日に国連総会で採択され、日本は1994年4月22日に批准しました。国連採択から30年、日本が批准して25年となる今、日本の子どもたちの権利は十分に守られているのでしょうか。子どもの権利条約を社会に根づかせるための研究や施策の充実、普及啓発に取り組む早稲田大学の喜多明人教授とともに、あらためて考えます。

――日本が「子どもの権利条約」を批准して25年が経過しました。最近は、子どもの権利に関するパンフレットを配布する学校もあると聞きます。

 子どもの権利条約に関する啓発活動は学校でこそ行われるべきですが、その意義をしっかりと子どもや保護者に説明している学校は、それほど多くはないでしょう。残念ながらこの条約の認知度はまだまだ低く、その趣旨が正しく理解されていないように感じます。

 文部科学省の調査によると、全国の小中高校などでのいじめの認知件数は2016年(平成28年)に約32万件、17年(平成29年)は約42万件、18年(平成30年)には約54万件と年々増加しており、18年の児童相談所による児童虐待相談対応件数は約16万件に達しています。しかも、自死に至る重大な事件が増えている。これは大変深刻な問題です。子どもの権利が社会に浸透しているとは言い難い状況です。





――子どもの権利条約批准後、国内ではどのような施策が講じられてきたのでしょうか?

 国や自治体、民間レベルでさまざまな取り組みが行われてきましたが、特に重要なのは、2016年6月に児童福祉法が改正され、子どもの権利条約が基本理念として総則規定に据えられたことです。日本の子どもに関する法律の根幹に同条約が明記されたことは、とても大きな意味を持っています。また同条約は、「子ども・若者育成支援推進法」(2009年)や「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」などにも、基本原則として掲げられました。

 こうした法改正は、自治体における子どもの権利条例づくりやNPOなど民間団体による地道な普及啓発活動によって実った成果ともいえるでしょう。自治体では子どもの権利条約の批准を機に、国に先がけて同条約を地方自治の中で生かしていく取り組みが始まりました。1990年代には、いじめや虐待、集団暴力などが大きな社会問題となっていました。
 このような問題を解決するため、神奈川県川崎市(2000年制定)をはじめ、総合的な子どもの権利に関する条例づくりが進められ、2018年現在46自治体で制定されています。また、子どもが安心して相談し、救済につなげることができる第三者相談救済機関も、兵庫県川西市の「子どもの人権オンブズパーソン条例」(1998年制定)を皮切りとして32自治体(18年現在)に広がりました。

 さらに2000年代には、ユニセフが提唱した「子どもにやさしいまち(A child friendly city=CFC)」を基軸に、子どもの権利条約総合研究所(2002年設立。国連NGO、非営利特別活動法人)の呼びかけで、「『地方自治と子ども施策』全国自治体シンポジウム」を2002年から毎年開催。100をこえる自治体の職員や議員、市民が参加しています。
 このほか、子どもの権利条約ネットワーク(NCRC)をはじめとする子ども支援団体の連携も進展しました。NCRCのリードで1993年から始まった「子どもの権利条約フォーラム」は、毎年条約採択月である11月に、日本各地にある子ども関連のNPOを事務局として開かれています。

 上述のような活動が続けられているにもかかわらず、いじめや虐待などが増え続ける背景には、子どもの権利に対する無理解や誤解があると私は考えています。条約採択から30年、批准から25年の節目の年を迎えた今、これまでの成果をしっかりと確認したうえで、もう一度原点に返って子どもの権利とは何か、なぜ必要なのかを問い直し、条約の意義について正しい理解を促して、社会に浸透させていかなければなりません。(つづく)

――次回(第2回)は、子どもの権利条約締結の背景や批准後の日本の状況を振り返ります。

(構成・川島省子)

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【きた・あきと】
1949年東京都生まれ。早稲田大学文学学術院文化構想学部教授。文学博士。日本教育法学会・教育政策学会理事。子どもの権利条約総合研究所顧問。子どもの権利条約ネットワーク代表。川崎市、目黒区、知多市、長野県などで子どもの権利条例制定に従事。『学校環境と子どもの発見』『子どもの権利 次世代につなぐ』(ともにエイデル研究所)など著書多数。
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