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子どものこれから
未来と今を創る「子どもの権利」 早稲田大学教授
喜多明人
第2回 子どもの権利は“わがまま”?
――子どもの権利条約を批准して以降、さまざまな施策が講じられたにもかかわらず、いじめや虐待の件数は増加しています。その背景にある、「子どもの権利に対する無理解や誤解」とは具体的にどのようなことでしょう?

 そもそも、1994年の条約批准の際に日本政府がとった政策的枠組みに問題があったと考えています。政府は、日本では子どもの権利条約の内容は現行法で保障されており、法令等の改正は必要ないとの立場をとりました。さらに、「権利と義務をともに正しく理解させる」「教育目的を達成するために必要な合理的範囲で……校則を認める」「(意見表明権は)必ずしも反映させることまでを求めているものではない」といった文部省(現・文部科学省)による学校生活を想定した通達(1994年5月20日文部事務次官通知)により、子どもの意見表明や参加の権利行使について歯止めがかけられてしまいました。

 「権利ばかり主張するから義務を果たせなくなる」「子どもは未熟なのだから大人の言うとおりにすべきだ」といった考えは、今も根強く残っています。政府による条約の位置づけやこうした考えから、「日本ではすでに子どもの権利は満たされており、このうえさらに子どもの権利を主張するのは“わがまま”だ」ととらえられるようになってしまったのです。
 また、「この条約は発展途上国における子どもの人権環境を改善することを主目的としている」といった事実に反する説が流布したことも、日本社会への子どもの権利条約の浸透を妨げた大きな要因といえるでしょう。

――では、子どもの権利条約はどのような背景、目的で締結されたのでしょうか?

 この条約のルーツは、第一次世界大戦後の1924年に国際連盟総会で採択された「ジュネーブ子どもの権利宣言」にあります。ここでは、子どもの権利の実現が人類の存続をかけた課題であることや、二度と戦争をおこさないことなどが宣言されました。第二次世界大戦後の48年には国際連合により「世界人権宣言」が、59年に「子どもの権利宣言」が採択されます。しかしこれらは法的な強制力をもたなかったため、「戦争やホロコーストを繰り返さないための防波堤」として、国際児童年の79年にポーランドが条約化を提案し、国連総会で採択されました。

 審議を牽引したポーランドは、子どもをケアの客体ではなく権利の主体としてとらえ、子どもの意見を尊重する「意見表明権」を提唱しました。そのバックボーンにあるのは、小児科医・教育者として孤児院の院長を務めた同国のヤヌシュ・コルチャックの思想です。コルチャックの思想を受けて、ポーランド政府は、結婚や職業の選択、医療、教育、レクリエーションなど、子ども自身の成長や生き方、人生の選択において子どもが自分の意見を表明でき、大人はその意思を尊重すべきとする条約原案を提出し、それが「子どもの権利条約」の第12条(子どもが意見を表す権利)に反映されました。

 こうした経緯を知れば、子どもの権利条約が発展途上国や先進国を問わず、世界中の子どもたちの権利を守るために締結されたものだと理解できるでしょう。私たちは、条約の背景や本来の目的をしっかりと認識したうえで、子どもの権利を尊重し、保障していかなくてはなりません。それが、いじめや虐待といった子どもの問題の解決につながるのです。(つづく)

――次回(第3回)は、日本の若者の現状と子どもの権利との関係について考えます。

(構成・川島省子)

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【きた・あきと】
1949年東京都生まれ。早稲田大学文学学術院文化構想学部教授。文学博士。日本教育法学会・教育政策学会理事。子どもの権利条約総合研究所顧問。子どもの権利条約ネットワーク代表。川崎市、目黒区、知多市、長野県などで子どもの権利条例制定に従事。『学校環境と子どもの発見』『子どもの権利 次世代につなぐ』(ともにエイデル研究所)など著書多数。
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