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美しいくらし
いつか訪ねたい世界の美しい村 トラベル・ジャーナリスト
寺田直子
第1回 コロンジュ=ラ=ルージュ

※このWEB連載原稿に加筆してまとめた単行本(『増補版 フランスの美しい村を歩く』が好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。


 観光とは「平和産業」だと思っています。その国や場所が平和でおだやかな美しさをたたえる存在であるから多くの人が訪れる。
 そして、わたしたち旅する人間が美味しいものを食べたり、お土産を買ったりと楽しみながら現地で使うお金が地元の雇用と経済を支える。地元の生産物、加工、流通といったすべてにかかわる六次産業的な主要産業であり、それでいて人の心を豊かにし、学び、成長させてくれる人生において欠かせない体験。それが観光=旅だと考えています。
 国によって観光の在り方はそれぞれですが、このところ静かなブームとなっているのがテーマパークやガイドブックに載っているような大都市、観光名所ではなく、小さいけれどほかにはない魅力を持った村々や地域、自然の中を自分のペースでたどる旅があります。そのきっかけを作ったのが、「フランスの美しい村」というコンセプトです。

コロンジュ=ラ=ルージュ村(Collonges-la- Rouge)に行くには、パリ・オーステルリッツ駅からブリーヴ=ラ=ガイヤルド駅(Brive-la-Gaillarde)まで 直行列車で約4時間15分。駅から車で約20分(D38(県道38号線)経由)
 「フランスの美しい村」は、1982年に設立された協会です。歴史的、文化的に貴重な自分たちの村を保全するとともに、観光客の誘致に結び付けて活性化を促したい。そんな思いを持ったコロンジュ=ラ=ルージュ(コレーズ県)の当時の村長が発足。彼は、その前の年にフランスの村々を撮影した一冊の写真集を手にしたことからこの「美しい村」のコンセプトを考えつきました。結果、村長の考えに賛同する66の村が参加、1982年3月6日に正式に協会が誕生。今でも本部はきっかけとなったコロンジュ=ラ=ルージュ村に置かれています。
 2013年現在、「フランスの最も美しい村」協会に登録されているのは157村。希望すればどこでも参加できるわけではなく、協会では以下のような基準を設け、この基準を満たさなくなった場合は登録が抹消されます。

・人口2000人以下で、都市化されていない地域であること
・歴史的建造物、自然遺産を含む保護地区を最低2ヶ所以上保有していること
・協会が定める基準での歴史的遺産を有すること
・歴史的遺産の活用、開発、宣伝、イベント企画などを積極的に行う具体的事例があること

リムーザン、ケルシー、ペリゴールの3地域が交わるあたりに位置するコロンジュ=ラ=ルージュは、赤い砂岩の建物が特徴。村の名もそこに由来する。©ATOUT FRANCE /R-Cast
 村の素朴な美しさ、歴史・環境的価値があるからこそ外から人が訪れるのだということを理解しているから何も加えず、何も壊さず。当然、村人も普段通りに暮らしています。
 道路は未舗装の砂利道、宿泊施設も簡素な民宿のみ。もちろんコンビニやスーパーもありません。村によっては古城、数世紀にわたる木造建築の住居など中世の面影を残し、時が止まったような錯覚を起こすほど。観光客向けの整った施設になじんだ私たちにはあるがままの村の風景は新鮮な驚きであり、今までになかった観光の在り方に気づかせてくれます。
 見せかけではない長い時間をかけて、はぐくまれてきた村の存在こそがかけがえのないものであるということに気づかされます。


赤い砂岩でできた家屋
©ATOUT FRANCE /Jean Malburet
 「フランスの最も美しい村」のコンセプトはゆっくりと周囲にも影響を与え、その後にはベルギー、イタリア、カナダでも同じような協会が誕生。日本でも2005年に「日本で最も美しい村」として発足、2012年には各国の協会がひとつとなって「世界で最も美しい村」が生まれています。最近はひとつずつ村を訪れてすべての美しい村を制覇するのを楽しみに訪問するファンも増え、ゆっくりと美しい村のムーヴメントが始まっています。
 小さいけれど宝石のようにきらめきを放つ美しい村。そこにはゆるぎない日々の暮らしと故郷への誇りがあります。いつかは訪れてもらいたい。そんな愛すべき世界の村を、ご紹介していきたいと思います。

14世紀から16世紀に建築されたヴァシニャック城とその庭園。全体が赤い砂岩でできている
©ATOUT FRANCE /Jean Malburet
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【てらだ・なおこ】
トラベルジャーナリスト。東京生まれ。日本及びシドニーでの旅行会社勤務を経て、フリーランスライターとして独立。旅歴約40年。訪れた国は約100カ国。ホスピタリティビジネス、世界の極上ホテル&リゾートに精通。雑誌、週刊誌、ウェブ、新聞などに寄稿するほか、ラジオ出演や講演など多数。豊富な取材経験を活かし、インバウンドを含め日本の地方の活性化、観光立国化に尽力、関連セミナー、ワークショップ、講演などに登壇するほか、山口県観光審議委員(~2017)、青森県の観光アドバイザーを務める。2013年、第13回フランス・ルポルタージュ大賞インターネット部門受賞。JATA ツアーグランプリ審査員(~2018)。Yahoo!Japan ニュース・エキスパートとして「サスティナブル」「レスポンシブル・ツーリズム」を軸に最新の旅トレンドを発信中。著書に「ホテルブランド物語」(角川書店)、「ロンドン美食ガイド」(日経 BP 社 共著)、「イギリス庭園紀行」(日経 BP 企画社、共著)、「泣くために旅に出よう」(実業之日本社)、「フランスの美しい村を歩く」(東海教育研究所)など。「ホテルブランド物語」は韓国で翻訳出版され、ホテリエたちの教本的存在になる。現在、東京都・伊豆大島を拠点に執筆のかたわら古民家カフェ Hav Cafe を運営。
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