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美しいくらし
老舗が守る味、守りたい町
桜なべ 中江
最終回 江戸カルチャーと下町人情の町【後編】

家内安全・商売繁盛の神様として信仰されている吉原神社。
女性の願いを叶えてくれる神社としても知られる

 国内外の観光客でにぎわう浅草寺の裏手にひっそりと広がる吉原。江戸時代から花街として栄え、東京のディープスポットとでもいうべきこの地域は、歌舞伎や小説などにも登場する歴史のある町でもあります。創業110年になる老舗「桜なべ 中江」店主・中江白志さんへのインタビュー後編では、おすすめ散歩スポットとこの町の魅力を掘り下げます。

吉原最後の名料亭と伝えられる「金村」。現在は中江さんが引き継ぎ、「桜なべ中江 別館金村」として会員制・完全予約制の特別な空間として提供している
町の輪郭からたどる吉原の面影
 江戸最大の遊郭があった吉原は、明治、大正、昭和、平成と時代とともに変わっていき、当時の様子を今に伝えるのは町の形だけとなりました。
 私たちの店の前に「吉原大門」という名の交差点があります。その⾓にあるのが、遊郭から帰る客が名残を惜しんで吉原を振り返った場所だとされる「見返り柳」です。そこからS字カーブになった通りを行くと、昔のメーンストリートだった仲ノ町通りに入ります。通り沿いには、吉原で唯一残った料亭であり、今は中江の別館として営業している「金村」があります。この辺りは、仲ノ町通りを中心として道路が碁盤の目のように走り、区画整理されているのが特徴です。町のつくりは江戸時代からほぼ変わっていないので、かつての姿を想像しながら歩いてみるといいでしょう。

吉原弁財天本宮の境内に建立された観音像


 仲ノ町通りを進むと、遊郭にゆかりの深い「吉原神社」が見えてきます。その近くにあるのが奥宮の「吉原弁財天本宮」で、関東大震災の際に亡くなった遊女たちが祀られています。さらに歩くと、旅行や航空の安全を祈願するお寺として知られる「飛(とび)不動尊」に到着します。ここは下谷七福神の一つですが、先ほど紹介した吉原神社は、酉の市で有名な鷲神社とともに浅草名所七福神としても親しまれています。こうして昔の面影を訪ねながら七福神巡りをするのも、歴史ある町ならではの楽しみ方かもしれませんね。

歴史に誇りを持ち、豊かな心で生きる
 私がこの町の好きなところは、人に感謝したくなるところでしょうか。今のご時世、

古くから「空飛ぶお不動様」「厄飛ばしのお不動様」として信仰されてきた飛不動尊
昔からの商売を続けるのもなかなか厳しい。それでも必死で生きている部分は隠して、町や人のために何かをしてあげたいという気持ちを持っている人がたくさんいます。だからこそ皆、地域のお祭りがあれば欠かさず寄進をし、進んで参加して盛り上げています。そんな下町らしい人情と江戸時代から続く歴史への誇り――それこそがこの町に暮らす人たちの心を豊かにしているのだと思うのです。



11月は酉の市でにぎわう鷲神社。午前0時の一番太鼓ともに始まり、丸1日執り行われる
 


(構成:小田中 雅子)


【桜なべ 中江】ホームページ http://www.sakuranabe.com/

【取材を終えて】
 店の前に立つと、大正建築のどっしりした佇まいや大看板に、創業112年という重みを感じずにはいられません。しかし、中江さんは「老舗という重圧は感じていない」といいます。23歳で跡を継いでからの30年は、「昔からあるものを守ったほうがいいという気持ちでやってきました」。その結果、とても楽しかったのだそう。「長く続けているおかげで、いろんな方との出会いに恵まれ、私自身の視野が広がります」。そう話してくれた中江さんの表情は明るく、すがすがしいものでした。ところで、先代は引退後にスキューバダイビングに挑戦するほど好奇心旺盛な方だそう。それを聞いてすぐに思ったのは、「中江さんの前向きな姿勢は先代譲り?」。人生を豊かに生きるコツも代々受け継がれているようです。

 老舗店主にインタビューした連載「老舗が守る味、守りたい町」は最終回を迎えました。記事で紹介した3店舗は、新刊『東京おいしい老舗散歩』(安原眞琴 著)に登場します。本を片手に、老舗の奥深い魅力にふれる町歩きを楽しんでくださいね。(H)



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WEBマガジンの連載「東京ぶらり老舗散歩」をもとに書籍化された『東京おいしい老舗散歩』(安原眞琴 著)を読んで、東京の下町を歩いてみませんか? 江戸文化研究家の安原さんが、歴史・文化・食が楽しめる散歩コースを案内します。詳しくは、かもめ新刊ナビをご覧ください。
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【さくらなべ なかえ】
[住所]東京都台東区日本堤1-9-2
[営業時間]火曜~金曜 17:00~22:00(ラストオーダー21:30)、土曜・日曜・祝祭日11:30~21:00(ラストオーダー20:30)
[定休日]月曜(月曜が祝日の場合営業、翌火曜日休業)

桜なべ中江さん周辺の散歩コースを、新刊『東京おいしい老舗散歩』で紹介しています。
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