× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 新刊・既刊案内 お問い合せ
今回のイチオシ記事は・・・
好きこそ服の上手なれ。 Artisan salon de gisoオーナー
庄司博美
第1回 「フィッティング・コンシェルジュ」って何?

 「Artisan salon de giso(アルチザン・サロン・ド・ギソー)」は、華やかな東京・銀座の中央通りから数筋奥まったビルの9階にある仕立屋さん。オーナーの庄司博美さんは「フィッティング・コンシェルジュ」という、ちょっと耳慣れない肩書を持っている。誰もが何気なく身につけている洋服を巡る、深くて広い話をお聞きします。



──「衣食住」は、人間が生きるために必要なものを端的に表した言葉なのだとか。それにしても、なぜ「衣」が最初なのだろう。英語では食住衣となるところ、日本語ではゴロがよいから衣食住になると聞けばそんな気もするが、果たしてそれだけ……? そんな「?」が、庄司博美さんに会い話を伺ううちに「!」と納得。まずは、「フィッティング・コンシェルジュ」という肩書について。

 「お洋服のことならどんなことでもご相談を」という思いを込めました。昔はどこの町にも一軒は洋品屋さんがあり、仕立や修理や選び方など洋服に関することなら何でも相談に乗ってくれたものですよね。私もそういう存在としてお客さまのお役に立ちたいと思っていたものの、適当な肩書が見つからない。デザイナーも仕立屋もどこかしっくりこないし……。そんな話をアメリカ帰りのお客さまに相談したところ、「それはコンシェルジュになりたいということだよね」と。長く海外でビジネスをしていた方ならではのアイデアですよね。独立したばかりのころですから、もう10年以上も前のこと。コンシェルジュは今でこそホテルなどでお客さまのさまざまな要望に応えるスタッフとして認知されてきましたが、当時は「何、それ?」という感じでした。


──そうそう、いつか雑誌で読んだことがある。ヨーロッパのホテルにコンシェルジュが登場したのは19世紀のことで、それ以来、一流ホテルの条件として優秀なコンシェルジュの存在は欠かせないそうだ。オペラやバレエの入手困難なプラチナチケットや三ツ星レストランの予約など、お客さんのあらゆる要望に「決してNO とは言わない」のがコンシェルジュの誇りなのだとか。庄司さんは、さしずめその洋服版ということになる。でも、体型や好みが千差万別なお客さんの要求にどのように応えるのだろう。

 例えば女性のパンツ丈の場合、足首の太さに対して何センチ上げるとより美しく見えるのか。鏡の前に立っていただいて、1センチ、2センチと調整しながら最適の丈を決めていきます。パンツ丈にもトレンドがありますから、お客さまの体型やデザインを加味して、着る人と洋服と両方の個性がより生かされて美しく見えるようフィッティングしていきます。

──なるほど、だから「フィッティング・コンシェルジュ」。庄司さんの店では仕立てだけではなく既成の服の直しもしてくれる。直しといえば、長袴みたいな輸入ものパンツの丈詰めや、いつの間にか勝手に縮んでしまったスカートのウエスト周りを広げるくらいが関の山の私。でも、庄司さんの仕事は全然違う。あくまでもその人に合うように、着る人の体型が美しく見えるように洋服を作り変えていく。庄司さんの手にかかると、母親が大切に着ていた数十年前のコートが、今風に着こなせる娘のコートとして蘇ることもある。

 代々受け継がれる衣類といえば和服がイメージされ、洋服はどうしても消耗品のように考えられがち。でも、丁寧に作られた洋服は世代をこえて着ることができます。何年も前に作られたフランスやイタリアの有名なメゾンの服をフィッティングするといつも感じることですが、実際に解体してみると生地の始末やミシンのかけ方など、ものすごく手間がかかっている。それは日本の昔の職人さんの仕立てでも同様です。型崩れしないように見えないところに芯を貼るとか、動きの影響が出やすいところにはミシンを1本余計に入れるとか、伸び止めテープを貼るとか。また、摩耗しやすい部分には最初から手当てをするなど、とにかく仕事が丁寧で、見えない部分の作業に手間暇をかけているんです。だから型崩れもしないし何年も着ることができる。普通なら完成されている服の縫製をほどく機会などありませんから、ヨーロッパのトップメゾンの職人さんの仕事ぶりや日本の優秀な手仕事を目の当たりにできるのも、私の仕事の幸運なところですね。

──わかる、わかる。母から譲られた仕立てもののコートは、形は古いけれど傷まない。でも衝動買いした流行のコートは、3シーズンを数えたらもうヨレッとしちゃった。ひとことで洋服といっても仕立てはさまざま。巷にファストファッションがあふれる今は手間暇かけて丁寧に仕事をする職人が減ったし、流行でどんどん服を替えることが当たり前のようになって、服のあり方が変わってきているのだと思う。そんな流れにあらがうように、庄司さんはスクッと立っている。それが歯を食いしばって踏ん張るのではなく、なんとも軽やかでしなやかで。

 日常生活の中には、汚れたら捨てても惜しくない服が必要なシーンもあるでしょう。でも、やはり長く愛着を持って着られるような洋服を仕立てるのが洋服の一つのスタイルだと、より多くのお客さまに知っていてほしい。日本には、それができる多くの職人がいたし、それを育ててきたのはほかならぬ一人ひとりのお客さまでした。

 先日、あるお客さまがお母さまから譲られたツイードのジャケットをお持ちになりました。20年近く前のものですが、生地も仕立てもしっかりしているので捨てられないからと。やはり形やバランスが今とは合わないので、結局ほぼ全部解体して、お客さまの体にフィットするように作り替えました。そのとき、お母さまの思いを橋渡ししているように感じて、とても感動しました。フィッティング・コンシェルジュの仕事は、お客さまのご要望によって内容も幅も広がる。ご要望があればあるほど、私のやる気に火がつくんですよ。

──そう話す庄司さんは、ほんとにうれしそう。パンツスーツのパンツを場合によってはスカートに変身させてしまうなど、まるでオーダーメードのような庄司さんのリメイクは、デザイナーでも仕立屋でもできない。それは、「お洋服のことならどんなことでもご相談を」という真摯は思いが作り上げてきた庄司さんならではの仕事。さまざまな出会いと飽くなき探究心の賜物だ。次回は、フィッティング・コンシェルジュ誕生までの道のりについての話を。お楽しみに。


(構成・白田敦子/写真・前田光代)

【Artisan salon de giso(アルチザン・サロン・ド・ギソー)】
営業時間:11:00~19:00
TEL:03-5856-9223
E-mail:syoji@artisansalondegiso.jp
ページの先頭へもどる
【しょうじ・ひろみ】
1974年兵庫県生まれ。大阪樟蔭女子大学、文化服装学院で服飾を学ぶ。卒業後、オーダーメードのアトリエでアシスタントデザイナーを経て、2001年に東京・目黒に有限会社偽装デザインオフィス設立。ギンザ・コマツ、株式会社ワールドなどとフィッティング・コンシェルジュとして契約し、08年に期間限定でギンザ・コマツ内にArtisan salon de gisoを開店。09年、ギンザ・コマツ建て替えにともない銀座1丁目に移転。
記事一覧
新刊案内