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きれいをつくる
ピンチをチャンスに変える心のカギ「AQ」とは? 目白大学社会学部長
渋谷昌三
最終回 逆境の等身大の姿を見つめるためには?

※このWEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『AQ -人生を操る逆境指数』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。


 社会心理学者・渋谷昌三先生に伺う「AQ講座」。最終回となる今回は、親友とのケンカや仕事のプレゼンでのミス、お酒の席での失態など、「もう立ち直れない!」と思うような日常生活の中の失敗を乗り切るヒントを伺います。未来がずっと明るくなりますよ。

●その失敗、何パーセントが自分のせい?

 ここで一つ質問させてください。
 もし外出先で思いがけない雨に降られたら、あなたの気持ちは次のどちらに近いでしょうか。

A「外出前に予報を確認すべきだった。傘を持って来られたはずだった」
B「きょうは天気が変わりやすいな。こういう日もあるだろう」
 
 Aを選んだ人は、失敗やうまくいかないことがあった時、それを「自分のせいだ」ととらえる、つまり内因的な要因で起こるととらえがちです。
 Bを選んだ人は、失敗やうまくいかないことを、「自分以外の原因もある」ととらえる、つまり外因的な要因だと考えるタイプです。そして外因的だととらえる人の方がAQが高い傾向があることがわかっています。


 ミスや失敗をした時、その原因を「自分のせいだ」と思いやすい人と、「この失敗の原因は自分だけにあるわけではない」と考える人では、その後の行動が違ってきます。 
 たとえば――優しかった彼が急に冷たくなってしまった。毎日欠かさずメールがあったのに、もう一週間も音沙汰なし――。
 そんな時、Aを選ぶタイプは、
「私のどこがいけなかったんだろう」
「何か彼が嫌がることをしてしまっただろうか」
「そういえば最近仕事のことで悩んでたのに力になれなかった」
「彼を支えられない私はダメだ」
「だから嫌われたんだ」
など、どんどん自分を追いつめていきがちです。まるで彼とうまくいかなくなった責任はすべてが自分にあるかのように感じて苦しむのです。

●困難の正体は、思ったほど怖くない

 AQが高い人は、逆境にぶつかった時、「目の前に横たわるピンチは一時的なもので、自己原因も影響を及ぼす範囲も限られている」と考えるのです。
 すると逆境の大きさ、姿をより正確にとらえることができ、むやみに怖がることがなくなります。「結果を自分で変えられる余地は十分にある」という気持ちはここから生まれます。
 「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という諺がありますが、逆境を前にして「怖い」と足がすくむのは、その正体がはっきりしないからです。誰でもよくわからないものは怖いし、向かっていく勇気も、克服する自信も持てないでしょう。しかしそれがどんなものか、どうすればクリアできるか明らかになれば、気力がわいてきます。
 「でも、失敗の原因をよそに求めたり、たいしたことないって考えるのは、困難から逃げていることにならない?」
 そう思ってしまう人もいるかもしれません。
 しかし、この考え方は責任逃れをするものではなく、むしろ失敗から冷静に反省材料を学ぼうとすることにつながります。目の前にある逆境の等身大の姿を見つめるため、具体的にどう行動すればいいのか判断しやすいのです。今、自分は何を考え、どうすればいいのかがわかり、行動に移しやすくなるのです。

●証拠のない悲観的な予測はしないようになる

 仕事や目標のある課題などでうまくいかないのは辛いことですが、人によってはもっと苦痛に感じる種類の困難もあります。深刻な精神的ダメージを伴うような失敗です。

 親友とケンカして、自分の性格についてひどくこきおろされた。 
 お稽古ごと発表会で観客の前で大失敗の大恥をかいた。
 職場の酒席で飲み過ぎて、上司に顰蹙を買うような失言をしてしまった。

 そんな、心に傷を負いそうな出来事があった時、「しばらく立ち直れない」と思ってしまう人は多いでしょう。
 AQを高めると、こうした失敗にもめげないようになります。なぜなら、その出来事に?悲観的にとらわれる気持ち?が減っていくからです。
 こうした精神的ダメージがなぜ後を引くかというと、その後について悲観的なビジョンを持っているからです。
「私みたいな人間からは、友達は離れていってしまうだろう」 
「みっともない姿をさらした。軽蔑されてしまうに決まってる」
「上司は激怒したはずだ。この先の会社人生はもうおしまいだ」
 そんな悲観的な未来を予想して、どんどんダメージが悪化していきます。
 でも、よく考えてみるとその予想には、何の根拠もありません。AQが高い人は、そのことをよく理解しています。だから「現実」だけをとらえ、よけいな不安や悲しみを抱えて苦しむことをしないのです。
 欠点を指摘されたからといって、親友との関係が壊れるとは限らない。
 発表会の失敗を引きずったままか、次の機会にそれを取り戻せるかは自分次第。
 酔っぱらってちょっとハメをはずしたのか、本当にひどい失言をしたのか、冷静に判断して次の行動を決めよう。
 このように現実だけをとらえ、悲観的な予想は切り離して考えると、未来はずっと明るい手応えのあるものだということがわかってくるでしょう。

(構成・株式会社トリア 小林麻子)
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【しぶや・しょうぞう】
1946年神奈川県生まれ。学習院大学卒業後、東京都立大学大学院博士課程終了。心理学専攻。文学博士。山梨医科大学教授を経て、目白大学社会学部長。非言語コミュニケーションを基礎とした研究領域である「空間行動学」を開拓。『「身近な人」との人間関係がラクになる心理学』(大和書房)、『ほんとうの自分が見えてくる心理学入門』(かんき出版)など人間関係やビジネスに生かす心理学に関する著書多数。
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