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きれいをつくる
ピンチをチャンスに変える心のカギ「AQ」とは? 目白大学社会学部長
渋谷昌三
第1回 ささいな違和感がやがて大きな逆境に

※このWEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『AQ -人生を操る逆境指数』が絶賛発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。


 「彼は天才だ!」というときに聞くのは知能指数を表すIQ(Intelligence Quotient)、「彼女は思いやりがあってよく気がつくんだよ」というときによく使われるのは心の知能指数を表すEQ(Emotional Intelligence Quotient)。どちらも高いほうが人生明るい……と思うのはちょっと早い。山あり谷ありの毎日を前向きに生きるためには、AQ(Adversity Quotient)の高さが必要なのです。では、AQって何? さあ、AQを知るための扉を開いてみましょう。


●ささいな困りごとを見過ごすと後ろに大きな困難が

 私たちは日々、小さなつまずきを経験しながら生活しています。

 職場でうっかりミスが続き、上司に叱責された。
 家族とケンカして、昨日から会話がない。
 近所の人とゴミ出しのことで、ちょっとした行き違いがあった。
 先週から体調が悪くてどうしてもやる気が出ない。
 
 そんなささいな「困ったできごと」は、しばしば私たちの日常に表れて、小さな引っ掻き傷のようにチクっとした違和感のもととなったりします。
 そういう時、あなたはどうしているでしょうか。
「いちいち気にしないようにする」
「あまり深く考えないでスルー」
 日常の中の小さな不安に接した時、そんなふうにやり過ごそうとする人は多いでしょう。また社会全体も、
「小さなことでくよくよするな」
「すぐに落ち込むのは心が弱いせい」
 など、ささいなことを気に病むのは「褒められないこと」という風潮が主流ですね。

 でも、こうしたささいな違和感は、むしろ深刻にとらえた方がいい結果につながると私は考えています。なぜなら小さな不安はその背景に、さらに大きな問題や困難の種を抱えていることが少なくないからです。ですから、小さい不安のうちに解決しておくと、のちのち大きなダメージを防止することにつながるのです。

●「心の不安」を見ないふりすると、「逆境」に

 「このところちょっと咳が続いてる」という人が、「風邪が長引いてるんだろう」「季節の変わり目で体調を崩したんだろう」と放置していたら、実は大変な病気だった、などということがあります。体の不調は「早期発見、早期治療」がよいとされ、健康診断や人間ドックも推奨されています。
 心の健康も体のそれと同じなのです。早期に解決しておけば快適な状態が維持できますが、放置しておくと解決するのに労力のかかる大きな問題となってしまいます。

 それなのに私たちはトラブルの兆候に気づきかけても、「これくらいで考え過ぎ」「クヨクヨするのはよくない」などと目を背けやり過ごそうとします。まるでその方が人間的に度量があって賢明な態度でさえあるような気がしてしまうのです。けれど、
「これくらい、ケンカとも言えないだろう」
「こんなミス、気にしない気にしない」
 などと不安を軽くやり過ごしていると、やがて何倍ものピンチとなって、目の前に立ちふさがることもしばしばです。すぐに解決できるはずだった困りごとが、大きな「逆境」に姿を変えてしまうのです。

 上司に叱られるほどミスが続くのは、仕事の手順に重大な誤りがあるのかもしれません。それなら初期のうちに対応しなければ、大きな損失につながることもあります。
 近所とのゴミ出しトラブルを軽く受け流していたら、「あのウチはとんでもない非常識家族だ」と噂を立てられ、地域から孤立してしまった、などということもあります。
 小さなつまずきが、人生に立ちふさがる壁のような逆境にまで膨らんでしまうと、解決に大変な気力が必要となるでしょう。なかなか決着できないことや、解決策が見つかりにくいほどこじれていることもあります。

 ですから、少しでも気になることがあったなら、それを見過ごさない、見逃さないことが、最終的には幸福な人生の獲得につながるのです。
 とはいえ、慌ただしい毎日の中で小さな問題を見過ごしてしまうことも多くあります。ささいな違和感を看過しないためにはどうすればいいのでしょうか。

(構成・株式会社トリア 小林麻子)

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【しぶや・しょうぞう】
1946年神奈川県生まれ。学習院大学卒業後、東京都立大学大学院博士課程終了。心理学専攻。文学博士。山梨医科大学教授を経て、目白大学社会学部長。非言語コミュニケーションを基礎とした研究領域である「空間行動学」を開拓。『「身近な人」との人間関係がラクになる心理学』(大和書房)、『ほんとうの自分が見えてくる心理学入門』(かんき出版)など人間関係やビジネスに生かす心理学に関する著書多数。
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