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子どものこれから
あんずとないしょ話 画家
蟹江 杏
第1回 ゆいちゃんとじいじのオムライス(上)

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『あんずとないしょ話』が2017年5月22日に発売されます(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。





『不思議の国のアリス』をはじめ、さまざまな物語の世界を伸びやかな線と印象的な色使いで描く版画家・蟹江杏さん。全国各地で展覧会を行うかたわら、福島・相馬や東京・新宿をはじめ、子どもたちとのアートワークショップも、数多くプロデュースしています。そんな杏さんが子どもたちに目線を合わせてインタビュー。「パパやママにはいえないけれど、杏おねえちゃんになら言えちゃう!」という子どもたちの思いを、一枚の版画に仕立てる新連載です。

――今回のないしょ話のお相手は、ゆいちゃん。東京・立川で老舗のすき焼きしゃぶしゃぶ専門店を経営している「じいじ」が大好きな5歳の女の子です。杏さんが「ゆいちゃん、今日はよろしくお願いします」とあいさつすると、「よろしくおねがいしまーす!」と元気な返事が返ってきました。

「わぁ! ゆいちゃんはごあいさつがしっかりできるのね!」
「ほいくえんでならったの」
「保育園では何をするのが好き?」
「えんていであそぶことです」
「保育園のお庭で? お外で遊ぶことが好きなんだね。ほかには?」
「ねること!」
「寝ることが好きなの?! ひとりで寝るの?」
「ううん……ママと」
「ママと一緒じゃないと寝られない?」
「うん。でも6さいになったらひとりでねてる子もいる」
「ゆいちゃんも6歳になったらひとりで寝るの?」
「ねたいけど、ちょっとこわい。……ほいくえんでね、おとまりほいくがあるの」
「保育園に泊まるんだ。さみしくない?」
「うん……でも、するってきめたから」
「挑戦するの?」
「はい! ちょうせんします!」

――ちょっと不安な気持ちを抱えながらも、お泊り保育に挑戦する気は満々のゆいちゃん。保育園には仲良しの男の子もいます。でも、やっぱり一番大好きなのは……。

「じいじ」と弟のそうまくん。ちょっとオネムかな?
「ゆいちゃん、好きな子はいるの?」
「はい! ほいくえんのおともだちでね、いつもとってもやさしいの。あとね、イケメンのせんせいもすき! じいじをいれたら3人だよ」
「選ばないのね(笑)。じいじのどこが好き?」
「ぜんぶ! じいじはオムライスをつくってくれます! ケチャップでハートとか“ゆい”ってかいてくれるの」
「いいね。かわいい!」
「それをくずすと、ゆい、ちょっとだけナミダでます。ゆいがたべられてるとおもっちゃうから」
「そうなんだ。さみしかったの?」
「おばあちゃんがびょうきになって、ママがおみせのおてつだいをして……。ゆい、ママとあそびたかったけれど、ママはたいへんだからってガマンしたの」
「えらいね。ママのこと心配してあげたんだ」
「でもちょっと、ナミダでた。そうしたら、じいじがゆいに“とくべつだよ”ってオムライスをつくってくれたの」
「ゆいちゃんが頑張ったから、おじいちゃんが特別に作ってくれたんだね」

――「外で遊ぶのも好きだけど、お絵描きはもっと好き!」というゆいちゃんの言葉に、「やったあ!」と杏画伯。色鉛筆を用意して、お絵描きタイムが始まりました。

「ゆいがおんなのこやるから、ピンクとオレンジときいろ。あんずちゃんはおとこのこいろね」
「男の子の色と女の子の色はどう違うの?」
「おとこのこいろだと、あたまが、ゆい、おとこなのかなっておもっちゃうんだよね。だから、おんなのこいろのほうがすき。そういうことある?」
「うん、わかる、わかる。杏がゆいちゃんくらいのときは、自分が女の子か男の子かわからない時期もあった。そういうこと?」
「うん、そういうこと」
「男の子になりたいとかは、ないの?」
「うーん、ない」
「私はあったんだよね。自分はなんで女の子なんだろうって思ってたよ、いつも」
「ゆいはおんなのこがいい」
「どうして?」
「えーとね、かわいいドレスとかあります。あと、かみがたもかわいいから」

――色鉛筆でのお絵描きに飽き足らなくなってきた二人は、紙を千切って女の子や男の子の人形を作り始めました。ゆいちゃんは女の子を、“時計が大好きな「いまなんじちゃん」”と命名。即興人形劇が始まりました。

「ゆいちゃんは時計が好きなの?」
「うん。すき」
「どうして時計が好きなの?」
「だって何時かわかんなくなると、ゆい、アレコレアレコレなっちゃうから」
「時間がわからないと、不安なんだ」
「うん。だって、おとまりほいくのとき、いやだもん」

――“いまなんじちゃん”は、ママの帰りを待っているゆいちゃんの大事なお友だちだったようです。“いまなんじちゃん”がいれば、今度のお泊り保育も大丈夫そう。そんな、ゆいちゃんの夢はというと?

「将来なにになりたい?」
じいじのおてつだい。じいじのお店やりたい。」
「どんなお店にしたいですか?」
「ケーキとかいろんなのにしたい」
「どんなケーキ?」
「いちごとか、あんずちゃんが好きなの!」
「えー! 私が好きなの作ってくれるの?!それは楽しみ!」

「じいじ」のお店の前で



――弟の泣き声が聞こえると心配そうに気遣うゆいちゃん。小さいながらも大好きな家族を思う気持ちは大人に負けていません。女の子同士のないしょ話を楽しんだ杏さんは、どんな絵を描いてくれるのでしょう。次回をお楽しみに!

構成:宇山由花(アトリエANZ)、写真:高尾斉

【蟹江杏さんのホームページアドレス】
http://atelieranz.jp/
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【かにえ・あんず】
画家。東京都生まれ。「NPO法人3.11こども文庫」理事長。「自由の森学園高等学校」卒業。ロンドンにて版画を学ぶ。2021年11月「Penクリエイターアワード2021審査員特別賞」受賞。美術館や画廊、全国の有名百貨店、その他国内外の展覧会への出展や絵本・壁画制作・講演など活動は多岐にわたる、文部科学省復興教育支援事業ではコーディネーターとして参画。東京の新宿区・練馬区・日野市などの都市型アートイベントにおいて、こどもアートプログラムのプロデュースも手がける。そのほか、絵本専門の文庫(福島・相馬、千葉・東金)の運営やアートワークショップなど世界の子どもたちをアートでつなげる活動をしている。
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