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食べるしあわせ
ようこそマナブちゃん食堂へ 東海大学農学部名誉教授
片野 學
第3回 「チンチンチン」をやめて「トントントン」に
 8年間、ほぼ毎日のように学生と一緒にお昼ごはんを手づくりし、味わい、それを写真として記録に残してきた片野先生。そのお昼ごはんの魅力に迫る連載の第3回では、おいしく食べるだけでなく、作ることの楽しさに目覚めた学生たちのエピソードを紹介します。

※この記事は、好評発売中の『頭が良くなる食生活』(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)の第6章・第7章を再構成し、その一部を書籍未掲載の写真や文章とともにまとめたものです。WEB連載「頭が良くなる食生活」はこちらをご覧ください。

初めは面白半分でもいいのです

撮影:新本真太郎(スタジオ サラ)
 この連載の第1回でも紹介したように、学生の皆さんは無料で「マナブちゃん食堂」のお昼ごはんを食べられる代わりに、食材の下ごしらえや味噌汁の味つけ、盛りつけ、配膳、後片づけなどを担当してもらいます。タマネギの皮むき、ゴボウやサトイモの土落としなど食材の下準備はいくらでもあり、学生諸君の力は大歓迎です。

 調理を楽しみ、上手に包丁が使える学生も少しはいますが、男子学生に限らず自宅通勤の女子学生の大半は、包丁など握ったことのない人がほとんどです。最初は面白半分ですが、同じ調理を繰り返すことによって、包丁の使い方や美しい盛りつけ法などを自然に学んでいくようです。

 ある年の1年生には約2カ月間、毎週のようにキンピラゴボウを作ってもらいました。ゴボウとニンジンの千切り、ときにはレンコンのイチョウ切り、ヒジキや油揚げを加えて、一番搾り菜種油で炒めます。調味汁は、水に有機醤油、麺つゆ、和風つゆ、さらに自然米酢、自然海塩、摺りおろしニンニクとショウガ、豆板醤、赤酒も加えます。

 マナブちゃん食堂では砂糖は基本的には使いません。ニンジンや赤酒などの食材と、調味汁からにじみ出てくる自然の甘さに頼ります。ある学生の弟さんはキンピラゴボウが嫌いで食べたことがなかったそうですが、マナブちゃん食堂で学生が調理したキンピラゴボウを自宅に持って帰ったところ、弟がおいしいといって食べたそうです。

「○○の素」は使いません

 「○○の素」や「出来合いのお惣菜」などを使わずにお昼ごはんを作っていると、「先生、マーボー豆腐、キンピラゴボウ、浅漬け……全部作るんですか?」という驚きの声が上がりますが、何度も調理の過程を見て、完成した料理を味わううちに、「なんだ、意外と簡単なんだ。自分でも作ってみよう」という気になるようです。

 ちなみに麻婆豆腐の場合は、ひき肉とみじん切りしたタマネギを菜種油またはバージンオリーブオイルで炒め、水の代わりに鶏がらスープを加えて煮ます。ジャガイモ、サトイモ、カボチャなどを加えることもあります。赤味噌と合わせ味噌で調味し、豆板醤、すりおろしのニンニクとショウガを加えて煮込み、最後に大きめに切った豆腐を加え、豆腐の形が崩れないように静かに撹拌。最後に水溶き片栗粉を加えてトロ味をつけ、細切り、あるいはみじん切りした長ネギをフライパン一面に敷き、小口切りした小ネギをトッピングして完成です。

天ぷらやコロッケにも挑戦しました

 2013年度は定年退職の年。「この学年が最後の年」というある種の感慨を覚えた年です。この記念の年、マナブちゃん食堂では新たな挑戦をしました。それは、揚げ物をお昼ごはんの定番メニューに加えることです。私の記録によれば、5月9日から天ぷらを揚げ始めました。

 天ぷら油は菜種一番搾り、小麦粉と自然塩、生卵で衣を作り、具材にはゴボウ、レンコン、カボチャ、シシトウ、ピーマン、ナス、ジャガイモ、シイタケ、エリンギなどの野菜類と、キビナゴ、イカ、キスなどの魚介類を用意。下準備は私がしますが、揚げは学生に担当してもらいました。

 天ぷらに続き、7月からはコロッケにも挑戦しました。ジャガイモ、サツマイモ、ニンジンを茹で、タマネギと赤タマネギスライス、キュウリを加え、自然塩とマヨネーズで調味したポテトサラダにひき肉や魚介類を加え、小麦粉とパン粉をまぶして揚げると、コロッケが簡単に出来上がります。
 コロッケにかけるソースも自家製で、トマトケチャップとウスターソースをベースに、焼き肉のたれや有機醤油、マヨネーズ、ニンニクとショウガのすりおろし、豆板醤などを加えて作ります。
 二度と同じ味はできませんが、学生たちには「自分の好きな味のソースを作ってごらん」と言って託してしまいます。

 その後、ブタ肉などの肉類を使った揚げ物にも挑戦。カツカレーやカツ丼など、メニューの幅も広がっていきました。さらに11月からは、皮から作るギョウザにも挑戦。調理の技を学生とともに日々磨いていきました。

            * * * * * *

撮影:新本真太郎(スタジオ サラ)
 レトルト食品やスーパーやコンビニの惣菜などの台頭により、現代日本人の食生活はまな板と包丁を使わず、電子レンジを多用する食生活になっています。とにもかくにも、まな板と包丁を取り戻し、料理を楽しむ人を増やすことが求められています。「チンチンチン」をやめて「トントントン」に――あなたのご家庭でも、ぜひ心がけてください。


*お昼ごはんの写真は片野先生が撮影したものです。

(構成・編集部)
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【かたの・まなぶ】
1948年東京都生まれ。東京大学農学部農業生物学科卒業後、イネの根に魅せられて大学院に進学。農学博士。食生活の実践と研究を通して、食と農の重要性を訴えている。
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