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子どものこれから
「自分から動ける子」にする親の傾聴力 日本精神療法学会理事長
松本文男
第2回 親子の傾聴で子どもは必ず心を開きます
 相手の話の意図を少しもずらさずに、まるごとしっかり受け止める――ビジネスの現場などで使われることの多い“傾聴”を、子育てにも生かす連載の第2回。わかりやすい会話例をもとに、どのようにしたら子どもが満足できるような聴き方ができるのかを紹介します。
※本文の最後にプレゼントのお知らせがあります。


親の要求を伝えることが最優先になっていない?

 子どもの話をつい「つもり聞き」している人にお勧めなのが、「親子の傾聴」です。これは、親が子どもの話をしっかり受け止め、子どもが満足できるような聴き方をする方法です。その具体的なノウハウを伝えていきましょう。
 親子間の傾聴をお勧めしていると、子どもの話を聴こうとは思うものの、なかなか理想どおりにはいかない、という声をよく耳にします。そういう親御さんは、たいていわが子に「自分の思い通りにしてほしい」という強い要求を抱えているようです。

 たとえば、どのご家庭でもありがちな、次のような会話を見てみましょう。
<例A>
子「ねえママ、このゲームすっごくおもしろいんだよ。このキャラがねえ……」
親「えー? またゲーム? いいけど宿題やったの?」
子「やったよー、でね、このキャラがね」
親「じゃあ、明日の時間割そろえた? 体操着は?」
子「……まだだけど……」
親「早くやっちゃいなさい。ゲームの話はまた後で聞くから。ね?」


 この例の親は、わが子に「ゲームよりも宿題や明日の支度を優先させる“ちゃんとした子”でいてほしい」という気持ちを抱いているのがわかります。そしてそれが先に立つあまり、子どもの話、つまり子どもの気持ちを遮ってしまっています。

 さらにもう一つの例を見てみましょう。
<例B>
子「あ~あ、明日の英語テストゆううつだなあ」
親「あら、テストがあるの?」
子「うん。だけど勉強が進まなくて……」
親「ちょっと、大丈夫なの? しっかりしてよ。来年は受験なのよ」
子「わかってるよ。でも進まないんだからしょうがないじゃん」
親「そんなこと言って。やる気のない子ねえ」
子「うるさいな。もういいよ!」


 この例では、親が子どもの学習態度への不安で心がいっぱいになり、子どもの気持ちを受け止める余裕がありません。勉強が進まずにつらいと感じている子が、そのモヤモヤを言葉にしているのですが、親がそれに共感や受け止めの返事を示さないので、子どもは自分を否定された気分になってしまっています。

まずは親の「こうしてほしい」を棚上げして聴く
 こうした行き違いの一番の原因は、「こういう子でいてほしい」「こういうふうにしてほしい」という親の要求の伝達を優先していることにあります。
 けれど、本来会話というのは、どちらか一方の要求のみを通すような、そういうものではないはずなのです。聴いてほしい人がいて、聴いてほしいことがあるから言葉が出てくる、そんな自然な欲求を満たし合うものですね。それがなかなかできない親御さんが、とても増えているように感じます。

 子どもの話をすべて、しっかり受け止めるには、まずは親の「こうしてほしい」を棚上げにしてみることをお勧めします。すると子どもの話がもっとシンプルに、ありのままの状態で心の中に入ってくるでしょう。それを素直に受け止めることが、親子傾聴のファースト・ステップ、最初の心構えです。

 そして言葉をそのまま受け止めたら、その言葉から感じ取れる、子どもの気持ち、感情を読み取ることに集中してください。「この子は今、どんな気持ちでこの話をしているんだろう」「どんな感情をわかってほしいのだろう」ということに思いをめぐらせるのです。
 相手の気持ちをくみ取って同意したり、言葉を返してあげたりというのは、とてもシンプルで基本的な会話の役割です。そのシンプルなやりとりを、子どもと交わす会話にも思い出してほしいのです。

 こうした前提に立てば前段の会話例も、もっと違ったものとなります。
<例A’>
子「ねえママ、このゲームすっごくおもしろいんだよ。このキャラがねえ……」
親「へえ、そうなの? どんなふうにおもしろいの?」
子「あのね、ここをこうやるとね、戦ってどんどんレベルアップするの、ほら!」
親「うわあ、本当だねえ。びっくりしちゃうね」
子「そうなんだよ。僕も最初はびっくりしたんだ。それでねえ……」


<例B’>
子「あ~あ、明日の英語テストゆううつだなあ」
親「あら、テストがあるの?」
子「うん。だけど勉強が進まなくて……」
親「そうなの。それでゆううつな気分なのね」
子「そうなの。やらなきゃって焦ってはいるんだけど、そうするとますますわかんなくなっちゃってさあ」
親「焦るほど不安になっちゃって、たまらないんだね」
子「うん……。不安になっちゃうんだ……」


 どちらの会話も、事実ではなく、その子の「感情」を受け止めることに重点を置いています。ゲームをしていること、明日テストがあることなどは、ここでは大きな問題ではありません。重要なのは「今、目の前の子が、どんな気持ちでいるか」ということです。それをしっかり受け止めて、その気持ちを親なりの言葉で返してあげる。これが傾聴のやり方です。

 ここで注意したいのは、言葉を返す時にただ「オウム返し」にしても、相手は「聴いてもらった」という実感がわきにくいということです。あいづちのテクニックとしてオウム返しというハウツウがありますが、親子傾聴の場合、それはできるだけ使わないようにしましょう。相手の言葉を表面的になぞるより、そこから一歩踏み込んだ深いとらえ方、共感の仕方がとても大切です。

(構成・株式会社トリア 小林麻子)

【プレゼントのお知らせ】

 松本文男さんの近著『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房)を抽選で5名の方にプレゼントします。豊富な会話例がわかりやすい、親による傾聴の入門書。3歳から思春期まで幅広く役立ちます。
 ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、2015年1月30日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました

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【まつもと・ふみお】
長野県佐久市出身。1947年京都大学理学部卒業。1953年東京大学大学院医学部博士課程修了。シカゴ大学大学院博士課程修了。1983年より長野大学教授、郵政省専任カウンセラーを20年間務める。C.R.ロジャーズに師事し、クライエントを中心に据えたカウンセリングが信条。医療機関や教育機関と連携した活動も多い。現在、NPO法人日本精神療法学会理事長、国際精神療法学会理事(東アジア担当)、日本傾聴療法士会会長。主な著書に『悩む十代心の病』『こんな時どうする』(東京法令出版)、『心の診察室』『心の談話室』(近代文藝社)ほか多数。近著『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房刊/1300円)で、親子の傾聴レッスンを展開。
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