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子どものこれから
「自分から動ける子」にする親の傾聴力 日本精神療法学会理事長
松本文男
最終回 これはNG。やる気をくじくダメ言葉
 話をきちんと“傾聴”すると、相手はしっかり受け止めてもらえたと感じます。そんなビジネスで利用される“傾聴”を、子育てにも生かす連載の最終回。今回はやる気をくじくNGワードを取り上げます。

つい言っている言葉が心にダメージを与える
 子どもへの受け答えの際につい言ってしまう言葉の中には、その子のやる気やいきいきとした感情に冷水を浴びせるようなものもあり、親に不信感を持つ引き金となってしまいます。とくに次の7つは心を傷つけてしまうこともあるので注意しましょう。

?「○○しなさい」と指示語で要求を強いる
 「○○しなさい」「そんなのはダメよ」などの指示語や強制語で親の一方的な要望を強いるのは、子どもの心には届かない言葉です。

?「そんなことじゃ受験で失敗するよ」など将来を持ち出す
 「○○しないと留年だよ」「そんなことじゃ受験で落ちるよ」など、将来のことを持ち出して現在の行動を否定したり、それを変えようとするのは脅しのようなもの。反発は感じても、親が意図する子どもの将来に対する危機感には結びつきません。

?「前はいい子だったのに」など過去のことを持ち出す
 「小さいころはそんなこと言わなかった」「小学校のころは素直だったよね」など、過去を持ち出して今の言動をたしなめるのはナンセンス。子どもは成長するのが当たり前であり、いつまでも親の手の中にいるわけではありません。成長を「喜ばしいこと」と感じられる言葉を選びましょう。

?「気が弱いからね」など、性格を持ち出して言葉を返す


 子どもの言葉に返事をする際、「気が弱いよね」「すぐに怒りっぽいから」など、性格的な欠点を指摘するのはやめましょう。子どもにとっては、親に自己否定されるつらい言葉です。そう言われても「直そう」という気持ちにはなかなかなれません。


?「好き嫌い直せば成績も良くなる」などしつけと混同する
 「早寝早起きになれば勉強もはかどる」「何でも食べれば成績がアップする」など、生活面のしつけを引き合いに出して本人の関係ない行動を指摘しても、説得力はありません。「親は勝手なこと言ってる」という不信感になりかねないので注意しましょう。

?「こんな子じゃ情けない」など、悲しいそぶりを見せる
 「こんなふうに育って情けない」「親の気も知らないで」など、親が悲しい思いをしているということを脅迫的に使わないようにしましょう。子どもは親が思う以上に、親の気持ちに敏感なもの。こういわれるとたまらない気持ちとなり、行動が制限されたり、反対にさらに親に反発心を感じるようになります。

?「恥ずかしくて顔向けできない」など世間体を優先する
 「ご近所にみっともない」「親戚に顔向けできない」など、世間体や体裁を気にする反応をすると、子どもは自分が「大切にされていない」と感じます。何より配慮したいのは、その子の心であり、その子自身です。世間体を優先させたと感じさせるようなやりとりにならないように気をつけましょう。

「親の期待」は初めから“種明かし”を
 いかがでしょうか? なんとなく「避けるのが難しそうなトラップ」のように感じる方もいるかもしれませんが、実はどれもシンプルなひとつの法則に従っただけのものです。それは、「子どもも一個の大切な人格である」ということです。
 これらのNG7項は、いずれも大人同士の関係の中で発言したならトラブルになったり、その人を傷つけてしまうようなものでしょう。相手が大人であるなら当然言わないような言葉を、なぜか相手がわが子だと平気でぶつけてしまうのですね。
 
 けれど、当然ながら子どもも親とは別の人格を持った、尊重されるべき一人の人間です。たとえわが子であっても、「言葉をお聴きして、お返しする」という気持ちが大切なのです。その気持ちさえ忘れなければ、子どもを傷つけるような言葉をうっかり口にするようなことはなく、自然とこれらのNG語は言わなくなるでしょう。
 また、わが子に期待を持てばそれだけ、親の言葉は要求や要望の形をとりがちです。とはいっても「子どもに親の期待を押しつけるな」というのは、理想論でもあるでしょう。どの親であれ、多かれ少なかれ自分の子に期待を持つのは当然の感情です。
 
 そこで、期待を持つことを否定するのではなく、最初から“種明かし”しておくのがいいでしょう。たとえば受験でも「あなたがあの学校に入学してくれたらうれしいとは思う。でも、どうしてもというわけじゃないし、あなたの希望を優先すればいい。その程度の気持ちよ」などと、最初から伝えておくのです。
 子どもは親が考える以上に親の存在、思惑を気にしています。親の期待についても、実情よりも強くとらわれていることも多いのです。ですから、「期待がない、とは言わない。でも、さほど重いものじゃない」と教えてあげることで、子どもはホッと気を緩めることができるのです。
 
 子どもは、親の姿勢や言葉で見違えるように変わります。そのスピーディーな変化に、私はいつも子どもの中にある可能性を感じて驚かされています。ぜひご家庭で、お子さんの言葉に真摯に耳を傾けてみてください。きっとこれまで以上に豊かで、信頼に満ちたあたたかな親子関係を長く続けていけると思います。


(構成・株式会社トリア 小林麻子)
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【まつもと・ふみお】
長野県佐久市出身。1947年京都大学理学部卒業。1953年東京大学大学院医学部博士課程修了。シカゴ大学大学院博士課程修了。1983年より長野大学教授、郵政省専任カウンセラーを20年間務める。C.R.ロジャーズに師事し、クライエントを中心に据えたカウンセリングが信条。医療機関や教育機関と連携した活動も多い。現在、NPO法人日本精神療法学会理事長、国際精神療法学会理事(東アジア担当)、日本傾聴療法士会会長。主な著書に『悩む十代心の病』『こんな時どうする』(東京法令出版)、『心の診察室』『心の談話室』(近代文藝社)ほか多数。近著『子どものやる気を引き出す「聴き方」のルール』(大和書房刊/1300円)で、親子の傾聴レッスンを展開。
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