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かもめアカデミー
「コルドバ歳時記」が伝える知恵 作家・東海大学名誉教授
太田尚樹
第2回 ものを持たず、快適に
 負を正に変える発想を持ち、聖と俗とを巧みに使い分けるしたたかさを持つスペインの地方人たち。彼らの中には、崖を掘り抜いた洞窟を棲み家にしている人々もいます。
※本文の最後にプレゼントのお知らせがあります。


洞窟住居の入り口
 21世紀の現代に、古代人のように洞窟で生活するというのは奇異な感じがしますが、実際には、スペインの洞窟住居には、遠くアメリカやイギリスの都会からやって来た人びとが定住してしまうケースが見られます。彼らは、都会の近代的な生活に馴染めず、疲れを感じていたのでしょう。夏のバカンスの時だけ洞窟暮らしを楽しむ人もいて、色々な生活パターンが生まれています。

 私は今から30年ほど前に、洞窟を棲み家とする人びとの暮らしに興味を持つようになりました。洞窟住居はスペイン南部に多く、特に多いのがアルハンブラ宮殿で有名なグラナダの周辺です。

 2001年に、グラナダから200km東に行った山岳地帯のクエバス・デル・アルマンソーラという集落へ行ったのですが、この地の洞窟住居群は、今から3000年ほど前、銅の採掘に来たフェニキア人たちが坑道の一部を住居にしていたことから始まったと言われるものです。枯れたペンペン草が生えているだけの崖地に、廃墟のような入り口が突如あらわれて仰天しましたが、廃墟のように見えるのは入り口の部分だけなんです。住居の内部の壁は白い漆喰で塗り直され、掘り進めて拡張された部屋も作られていて、そこで生活が営まれているのです。

ラ・マンチャで出会ったジプシーの一家
 洞窟住居の特性を、1年間の生活サイクルと上手く合わせているのがジプシーたちです。
 ヨーロッパの放浪の民ジプシーは、都市型の人、つまり都市に定着している人もいますが、スペイン全土には、一説には200万人を超すジプシーがいると言われています。彼らは、ルールや時間にしばられるのを嫌う自由人ですが、どうやって洞窟住居を利用しているかと言いますと、スペインは夏は酷暑、冬は非常に寒いので、そのときだけ洞窟住居へ戻ってきます。洞窟の内部は気温がいつも一定で、20℃くらいに保たれているので、快適なわけです。彼らは、春と秋は外で働いて、真夏と真冬は洞窟住居に戻ってきて、蓄えた食糧でのんびり生活するわけです。言ってみれば、アリとキリギリスの物語のアリのような生活ですが、これもまた固有の土地、気候風土が生み出した人間の生き様の一つですね。

 洞窟生活を快適に営むための秘訣は、物を持たないことです。いつも彼らは移動を意識していますから、余分な物を持つということは邪魔なわけです。余分な物を持たずに生きようとするスタイルは、最近は日本でも注目されるようになりましたね。スペインの洞窟に住んでいる人たちは、それをいつもやってきたわけです。

アルマンソーラの洞窟住居の寝室
 洞窟住居の中は、薄暗い光が入り込みますが、あとは静寂と闇の世界になります。なにしろ隣の家とは50〜100mほど離れていますから、静寂そのものです。そして、家族が増えるごとに、洞窟をまた掘っていって、部屋の数を増やしていくわけです。
 一番贅沢な人は、丘の頂上に洞窟を掘って暮らしている人びとです。東西南北に、それぞれ春夏秋冬に合わせてベランダを作り、夏は北側、冬だったら南側のベランダに出て、遠くをながめている。不要な物は持たずに、そういう生活をしています。彼らの言葉で言えば、それが「文化のレベルが高い暮らし」です。彼らの自負心はまんざら嘘ではないと私は思います。


※次回は、スペイン地方人の生きる知恵がつまった「コルドバ歳時記」の魅力に迫ります。


【プレゼントのお知らせ】

 太田尚樹さんの著書『コルドバ歳時記への旅』(東海教育研究所)を抽選で3名の方にプレゼントします。ご希望の方は、住所、氏名、年齢、電話番号をご記入の上、12月26日(金)までに下記アドレス宛てメールでお申し込みください。(※プレゼントは終了しました)
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【おおた・なおき】
1941年東京都生まれ。作家、東海大学名誉教授(スペイン文明史、比較文明論)。
著書に、『コルドバ歳時記への旅』(東海教育研究所)、『サフランの花香る大地ラ・マンチャ』、『アンダルシア パラドールの旅』(以上中公文庫)などのスペインに関する著書のほか、慶長使節に関する『ヨーロッパに消えたサムライたち』(ちくま文庫)、『支倉常長遣欧使節 もうひとつの遺産』(山川出版社)、昭和史をテーマにした『満州裏史 甘粕正彦と岸信介が背負ったもの』、『天皇と特攻隊』(以上講談社)、『伝説の日中文化サロン 上海・内山書店』(平凡社新書)など多数がある。
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