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美しいくらし
小さな村だからできること NPO法人小さな村総合研究所・代表理事
小村幸司
第2回 それは丹波山村から始まった
 関東でいちばん人口が少ない村、山梨県丹波山村にあるNPO法人「小さな村総合研究所」。北海道から九州までの各地域でいちばん小さな7つの村(島しょ部を除く)が連携する「小さな村g7サミット」をバックアップサポートしています。インタビュー取材の依頼をしようと事務局に電話をすると「ソンミンタクシーです!」と元気な声が。え? ソンミンタクシーって?

――高齢化や人口減少が進む小さな村では交通機関や移動手段の確保が大きな課題だと思いますが、丹波山村では画期的なアイデアが実現しています。

 2017年12月に運行を開始した「村民タクシー(ソンタク)」ですね。受付の電話番号が「小さな村総合研究所」の事務所と同じなので、初めて電話をかけた人は「ソンミンタクシーです」と言われて驚くんですよ。

丹波山村民のみならず観光客の足も支えるソンタクの面々

 丹波山村の公共交通はJR青梅線奥多摩駅からの路線バスだけで、それも1日4~5本のみ。そこで、公共交通の空白域に認められている国の制度を活用し、車を運転できない高齢者らのためにボランティアのドライバーが自家用車を使って有料で運転手を務めるシステムを考えました。ドライバーは安全運転講習を受け、もちろん本業優先。現在は村民のほぼ1割が登録しています。利用者からの要望を聞いているうちに、どんどん「ソンタク」して、柔軟にカスタマイズ化されているようです(笑)

 利用実績を調べたところ、利用者の半数以上は、雲取山や大菩薩嶺などへ登山に訪れる観光客でした。車中はドライバーによるミニ観光案内所と化していて、後日お礼の電話をもらうなど、村のファンづくりに貢献してます。一方で、実は高齢者の利用は思ったほどではなかったのですが、集落から2キロほど離れた山の中に住んでいるおばあちゃんが「いざという時には迎えに来てくれるという安心感ができた」と言ってくれて、ソンタクをやって本当によかったと思いました。

――ソンタクは住民の足だけではなく安心感も支えているのですね。この試みがメディアでも話題となり、呼び水となってさらに新たな動きも生まれているそうですが……。

 ソンタクの話題がニュースとして報じられ、多くの人に丹波山村の存在を知ってもらった結果、大手メーカーの新規事業部や、シニアベンチャー、大学や官庁などから、さまざまな相談や協働のアイデアを持ちかけられるようになりました。

 昨年5月からは介護事業を手がけるベンチャー企業と丹波山村が協働。住民の半数以上が高齢者である丹波山村向けに健康づくりに役立つ体操の動画を制作してもらい、村内のケーブルテレビで配信しています。今春からはその親会社である調剤薬局チェーンが運営する都内の薬局10店舗で、丹波山村の特産品である「舞茸だし」などの特別販売も始まりました。全国に420店舗以上ありますので販売網が広がったらと夢も膨らんでいます(笑)。

 連携する7つの村の特産品をブランド化して駅ビルでイベント販売する話や、企業向けのワーケーションで7村の温泉施設を周遊するパスなど、「g7サミット」のネットワークを活用するビジネスのアイデアも出始めています。

新庄村「有機愛ガモ米」の生産者

木工品づくりが盛んな桧枝岐村

ソバやイワナも桧枝岐村の特産


 こうした動きを見ていると、村民の高齢化や人口減少といった村の課題を含む7つの小さな村のコトやモノを私たちが発信すれば、7つの村が持つ「場」としての魅力や可能性に気づいた都市部の人たちが新たなアイデアをもたらしてくれることがわかりました。小さな村であっても外に向かって開き、外部の力を借りることでさまざまな課題解決を、さらに言えば、小さな村と都市部の双方の課題解決を図れる可能性があると感じています。

――話を聞いていると、それが「小さなこと」を逆手にとった好循環なのだと実感します。東京・蒲田に開設した「小さな村g7」のヘッドオフィスとショップは、そうしたアイデアを小さな村につなげる場というわけですね。

小さな村g7ギフトショップ(グランデュオ蒲田)

 丹波山村が事業主体となり、JR蒲田駅にある「グランデュオ蒲田」(JR東日本商業開発)とNPO法人「小さな村総合研究所」の協働として、7つの村の特産品を集めた「小さな村g7ギフトショップ」を昨年4月に開設しました。開店早々にコロナ禍で休業を余儀なくされましたが、6月からの再開後は特産品を買い求めに来てくれるお客さんも増えて「いずれは現地に行ってみたい」という声も聞かれます。
 
 実は丹波山村と蒲田駅のある大田区は、多摩川の源流と河口として歴史的にも深いつながりがあります。100年前に、丹波山村が源流域の森を守ることで東京の水道水を支えました。いわば東京の近代化、都市化を支えたんです。現在は、丹波山村の山林のうちの7割を東京都が管理しています。

雪の丹波山村。豊かな森と水が都市を支えている


 こうした小さな村と都市との関わりや忘れ去られた歴史を次の世代に伝えていくためにも、多摩川の河口域である大田区は情報発信にふさわしい場所だと思います。ここから丹波山村をはじめとする7つの小さな村の魅力を広く情報発信して、都市部の地域課題やソーシャルベンチャーに挑む企業の取組みにもつながっていけば、と考えています。(つづく)

――話を聞いていて驚くのは、アイデアから実現までのスピード感。そこに「小さな村だからこそ可能な意思決定の早さがある」と小村さんは言います。まるで負けていた弱小チームが逆転ホームランを放ち、あ然とする強豪チームを軽やかに抜き去るような小気味よさ……。最終回は小さな村が進む未来について聞きます。

(写真提供:NPO法人小さな村総合研究所・小村幸司、構成:白田敦子)
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【こむら・こうじ】
熊本県生まれ。長崎大学経済学部を卒業後、旧三菱銀行勤務からテレビディレクターに転身するも、東京での暮らしや働き方に疑問を持ち、東南アジアの旅を経て「小さな村」と出会う。2014 年から3年間、山梨県丹波山村で総務省が制度化した「地域おこし協力隊」として同村に移住し、地域活性化や住民支援に取り組む。任期満了後は、村民有志11人とNPO 法人「小さな村総合研究所」を設立。小さな村が抱える課題を「都市との交流」によって双方の解決に導くことをテーマに活動している。2020年4月、地域活性化応援隊の中核を担う専門家制度である内閣府・地域活性化伝道師に選ばれる。小さな村g7東京オフィス&ショップ代表を兼任。
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