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美しいくらし
小さな村だからできること NPO法人小さな村総合研究所・代表理事
小村幸司
第1回 日本の小さな村ってどんな場所?
 花の都・パリだけではないフランスの魅力を、個性的な輝きを放つ小さな村の紹介を通して伝えてきた「かもめの本棚」の書籍「フランスの村シリーズ」。足元を見直す機会が多いこのごろ、さて日本では? と目を転じてみたら見つけました! 小さなことを逆手にとって村の情報発信を展開する「小さな村g7サミット」という取り組みです。どんな村がどのような活動をしているのでしょう? バックアップサポートを担うNPO法人小さな村総合研究所の代表理事を務める小村幸司さんにインタビュー。3回にわたり「小さな村だからできること」について聞きます。

――北海道から九州までの島しょ部を除く日本の各地域でいちばん小さな7つの村がタッグを組んで開催した「小さな村g7サミット」。どのような村が参加しているのでしょう?

 北海道は音威子府村、東北は檜枝岐村(福島県)、関東は丹波山村(山梨県)、近畿は北山村(和歌山県)、中国は新庄村(岡山県)、四国は大川村(高知県)、九州は五木村(熊本県)の7村。いずれも人口400~1000人程度の小さな村です。

音威子府村のそば畑と生産者

雪の檜枝岐村


 このサミットの目的は、小さな村同士が互いの地域課題を共有し、課題に対する小さな試みを情報交換しながら、全国に向けて情報発信しようというものです。第1回目は2016年5月、「移住」をテーマに丹波山村で開催。その後は各村を会場に巡回し、「都市との交流」や「小さな村でできる教育」など小さな村が直面するテーマを掲げ、これまでに4回開催してきました。

桜並木が美しい新庄村

清流日本一の川辺川が流れる五木村


――そのサミットをきっかけに設立された「小さな村総合研究所」の拠点は丹波山村です。小村さんが丹波山村とかかわりを持ったきっかけはどのようなものだったのでしょう?

 そもそもは、25年近く東京で暮らしていた私が「働き方や暮らし方を見直したい」と2014年に丹波山村に移住したことにさかのぼります。2011年の東日本大震災を経て、その後も何も変わらない東京一極集中や満員の通勤電車に疑問を感じ、それまで睡眠をおざなりにして働いた仕事中心の生活を一度変えてみたいと思ったのです。そこで、人口減少や高齢化の著しい地方を活性化する総務省の制度「地域おこし協力隊」に参加。どうせなら募集している自治体の中で一番小さな村に住んでみたいと探し出したのが、丹波山村でした。

初夏の丹波山村

 暮らしてみると新鮮に感じることばかり。私は朝8時半から夕方5時15分まで役場の臨時職員として勤務していたのですが、村のほとんどの人が5時半を過ぎると働いていない(笑)。いちばん驚いたのは、役場の人たちが毎日欠かさず昼食時には家に帰ること。つまり1日3食、家族そろって食べるんですよ。子どもの入学式や卒業式に職場を休むのは当たり前だし、小学校の運動会などの学校行事には地域の人がこぞって参加します。

――そういえば、かつて小学校の運動会は地域の一大イベントでした。昔の日本の風景がリアルタイムで残っているんですね。

 そうなんですよ。村の日常にたくさんの驚きを発見する中で、関東以外の小さな村のことも知りたいと考えるようになり、北海道から九州までの各地域で人口がいちばん少ない村を訪ね歩きました。そして、その働き方や暮らし方に魅了されたのです。どの村も個性的で、もちろん違いはあるのですが、どこか懐かしい一昔前の暮らしぶり。そのことをかつての私のように都市で暮らす人たちにぜひ伝えたいと思うようになりました。

 たとえば高知県大川村を訪ねたときは、多くの小中学生がいて驚きました。人口570人ほどの丹波山村は14歳以下の人口が30人弱。それが大川村の場合、当時の人口400人弱に対して40人近くの小中学生がいて、元気な姿が目につきました。聞くと、彼らは全国からの山村留学生で、中には大人になってから大川村に本格的に移住する人たちもいるというのです。それと、新鮮だったのは村の防災無線で村議会の様子を生中継していること。都会ではあり得ないでしょう。
 また、和歌山県北山村は人口が450人ほどですが、「じゃばら」という柑橘の特産品が大人気で一億円以上の売り上げがありました。それには「株式会社北山」とニックネームが付くほど民間会社のような意識をもった役場職員の存在があったのです。

子どもの姿も多い大川村の村民運動会

北山村のじゃばら生産者たち


 どちらの村も丹波山村よりもっと小さい。それなのに、地域課題に果敢に取組む姿をみて、正直「悔しい」と思ったのです。それでハッと気づきました。そうか、小さな方が、相手に与える刺激は大きいのだな、と。小兵力士の活躍が周りの力士を奮起させるようなものです。小さな村が連携して地域課題に取り組む元気な姿を見せれば、きっと周りの村や町も元気になる。ひょっとしたら日本の未来が変わっていくのではないかとさえ思えたのです。

第1回「g7サミット」の様子

 丹波山村の村長に小さな村同士が連携するアイデアを話してから2年かけて、2016年に丹波山村で初開催できたのが「小さな村g7サミット」でした。
 サミットをきっかけに、半年後に設立したのがNPO法人小さな村総合研究所です。公共性を持ちつつスピード感を持って地域課題に取り組むためには、行政と民間の間で動く存在がどうしても必要だと感じ、村民有志11名でNPOの活動を始めました。(つづく)

――大文字のG7は言わずと知れた主要7カ国の首脳会議ですが、小文字のg7には日本の7つの小さな村の心意気が表れているのだそうです。次回は「小さな村g7」の中核でもある丹波山村の活動にクローズアップします。

(写真提供:NPO法人小さな村総合研究所・小村幸司、構成:白田敦子)
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【こむら・こうじ】
熊本県生まれ。長崎大学経済学部を卒業後、旧三菱銀行勤務からテレビディレクターに転身するも、東京での暮らしや働き方に疑問を持ち、東南アジアの旅を経て「小さな村」と出会う。2014 年から3年間、山梨県丹波山村で総務省が制度化した「地域おこし協力隊」として同村に移住し、地域活性化や住民支援に取り組む。任期満了後は、村民有志11人とNPO 法人「小さな村総合研究所」を設立。小さな村が抱える課題を「都市との交流」によって双方の解決に導くことをテーマに活動している。2020年4月、地域活性化応援隊の中核を担う専門家制度である内閣府・地域活性化伝道師に選ばれる。小さな村g7東京オフィス&ショップ代表を兼任。
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