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伝統の世界を飛び越える 能×現代音楽アーティスト
青木涼子
第2回 現代音楽とのコラボレーション
 7世紀にわたる歴史を持つ能の世界に飛び込み、現代音楽とのコラボレーションなど常に新たな挑戦を続けている能×現代音楽アーティスト・青木涼子さん。東京藝術大学で能の家の出身者たちに囲まれ、能楽界の重鎮を師とあおぎながらも、自らの興味・関心は、「伝統文化をいかに現代に生かしていくのか」という課題に向き合うことだと確信したといいます。その思いから渡英した青木さんは、現代音楽と出合い、能とのコラボレーションに取り組んでいきます。

写真:前田光代、ヘアメイク:Chika Tadokoro
 日本にいたときには能はもちろん好きでしたが、自分にとって「これだ!」と思える舞台芸術になかなか出合えませんでした。それが、ロンドンへ行ってヨーロッパに目を向けてみると、好きなものがたくさんあったのです。なぜなのでしょうか? ヨーロッパにはクラシック音楽という強固な伝統がありますが、それを土台にして現代音楽がある。伝統と新しいものが別々に存在するのではなく、同じ線上にあるということに気づきました。「私はこういうことがやりたいんだ!」と実感しました。

――日本でも、すでに1960年代から70年代にかけて、現代音楽と舞のコラボレーションや、謡を電子加工した新しい音楽、また演劇作品に能楽師が参加するなど、能の枠にはまらない斬新な舞台が作り上げられてきた。

 中心となって取り組んでいたのが、観世流シテ方の観世寿夫さんで、演出家の鈴木忠志さんとお仕事をなさったりして、当時は評判を呼びました。でも、いま私が同じことをしたとしても何も新しくない。どうせやるなら、これまでほとんど作られてこなかった「謡」のための曲を作りたい。音楽の部分で、能の新たな可能性を探りたいと思うようになりました。

 能には650年の歴史があり、そのほとんどが男性によって上演されてきたものですから、男性の身体に合うように作られています。能面をかけるのも女性に変身するため。謡の音の高さも全般的に低めで、女性の役でも男性の声のままで謡います。それは女性の能楽師が演じる際も同じ。男性のやり方をそのまま踏襲しているのです。
 男性のために作られているものなので、女性にとってはなかなか難しい面があります。能の伝統的な歌唱法を踏まえつつも、女性にも可能性があるような新しい音楽があればと思っていたのですが、具体的な方法はわかりませんでした。

――それが、作曲家の湯浅譲二さんの『雪は降る』を謡ったとき、「大きな示唆を受けた」と青木さんは振り返る。

 この曲は日本舞踊の公演のために作られたもので、1972年の初演時には観世寿夫さんの謡を録音したものをテープで流し、それに現代音楽のアンサンブルを加えて演奏したそうです。2007年に湯浅さんのポートレートコンサートがあり、その中でこの曲を復活させることになりました。若手演奏家の一人として私にも声がかかり、コンサートの舞台で初めて謡をやらせていただきました。それまでは音楽に合わせて舞うことはしていましたが、謡をやったのは初めての経験。これを突き詰めたら、面白いかもしれないと考えるようになりました。

「ペーテル・エトヴェシュの室内楽」(2014)で『Harakiri』を日本初演(写真提供:青木涼子)


 作曲家の細川俊夫さんとの出会いも大きいですね。現代音楽とコラボレーションをやりたいと思い始めたころに知人の紹介でお会いして、いろいろ教えてもらっただけでなく、作曲家を紹介していただくなどして、私の世界が広がっていきました。

 「謡と現代音楽を融合させたい」という思いは固まったものの、当初はどんな曲を作ればいいのか全くわからず、手探りの状況が続きました。
 それでも2010年からは毎年、国際的に活躍する若手作曲家に謡を素材にした作品を依頼して発表するトーク&コンサート「Noh×Contemporary Music」シリーズを開いています。これは演奏を披露するだけでなく、どのように考えて曲を作ったのかを作曲家自身に説明してもらい、観客との質疑応答を通して考えていこうという実験的な試みです。作曲家の国籍は、日本、ドイツ、フランス、イタリア、ギリシャなどさまざま。1年間に5人の作曲家に曲を書いてもらい、3年間で15の謡のための曲が完成しました。

写真:前田光代、ヘアメイク:Chika Tadokoro    
 最初は、これまでのように舞のための曲づくりだと勘違いした作曲家もいましたが、「そうではなく、謡のために新しい曲を書いてください」とお願いしました。
 謡にはピッチ(音高)がなく、「序破急」と呼ばれるリズムを口伝によって身体に覚えこませたうえで、それをお囃子との兼ね合いで変化させていきます。演奏の指示が五線譜に細かく記載されている西洋音楽に比べると、即興的な要素が多いと言えるかもしれません。音楽の成り立ち方が全く違うので、「コラボレーションするなんて邪道だ」「旋律を歌うのは謡じゃない」と言われたこともあります。

 でもそういう反応は承知のうえで、まずはやってみることにしました。作曲家の考えたとおりに謡ってみることで、想像をこえるような何かが生まれるかもしれないと思ったのです。実際にやってみると、日本人の作曲家は能を日本の伝統として捉えているので、初めのうちは触れてはいけない“聖域”という感覚があったようです。でも西洋の作曲家はそこに踏み込んでいき、私を一つの特徴ある声、一つの楽器として捉える。それはすごく面白かったですね。

――まったく新しいものを始めるより、確固たる伝統の中で新たな挑戦をすることのほうが困難は大きい。それを、「15曲に取り組んだことで私自身ができる範囲がわかってきたし、いろいろな試練を与えられながら乗り越えることで、数多くの経験を積むことができた」と淡々と語る青木さん。細い体のどこにそんなエネルギーがあるのだろう。最終回となる次回は、数々の試みに秘められた青木さんの思いや、これからの抱負を伺います。

(構成・編集部、取材協力:ギャラリー册 http://www.satsu.jp/

【青木涼子さんのホームページアドレス】
http://ryokoaoki.net/
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【あおき・りょうこ】
大分県生まれ。東京藝術大学音楽学部邦楽科能楽専攻卒業(観世流シテ方専攻)。同大学院音楽研究科修士課程修了。現代音楽の作曲家や音楽家と共同で新たな「能」の世界を生み出す試みを実践し、国内外で高い評価を得ている。
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