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映画を通して「憲法」を考える 映画監督
松井久子
最終回 思いが人を動かす
 松井久子さんの映画づくりに重要な役割を担っているのが、サポーターの人々です。『ユキエ』に感動した観客やファンが応援団を結成し、『折り梅』の製作費をカンパしたことから始まった支援は、『レオニー』のときに「マイレオニー」という応援組織ができるなど、映画製作を重ねるごとに大きくなっていきました。『何を怖れる』でも、今回の映画でも、製作にかかる費用のすべてをサポーターによる支援で賄っています。多くの人から理解と支援を得るために、どのようにして作品の意義を伝えているのか? その秘訣を教えてもらいました。

――映画などの大きなプロジェクトを実現するために信頼できる協力者を得ることは、決して簡単ではないと思います。しかし、松井さんの元にはいつも支援する人たちが多数集まってきます。

 特別なテクニックもノウハウも一切ありません。サポートしてくれる皆さんは、私の“思いの強さ”を受け止めてくれたのだと思っています。映画を製作するとき、私は毎回「この映画を今つくることが、世の中を大きく動かすまでには至らなくても、今の社会には絶対必要なのだ」という強い思いを持っています。そして、その揺るぎない思いを言葉にして皆さんに伝えてきただけです。
 私だって寄付をお願いするのはつらいですよ。でも、いつも思いの強さのほうが勝ってしまうのです。私は正直者なので、思っていることしか話せないし書けない(笑)。それが結果的に、多くの人の応援をいただいています。「私と一緒に、同じ夢を見たい」と思ってくださるんでしょうね。

――インターネットが発達した現代社会では、人が何を見たいのか、知りたいのかをデータ化し、それに合わせて作品をつくる傾向にあります。

 そのほうがはるかに多くの観客を獲得できると思いますよ。でもマーケティングから得た結果に対して、作り手がどれだけの“思い”を持てるでしょうか?私は決して強くないと信じています。マーケティングによってつくられた映画は、興行的には成功しても一過性のものになりがちです。
 私の唯一の誇りは、『ユキエ』や『折り梅』『レオニー』など、完成してから10年、20年近く経った映画を今でも上映してくれる人と、それを見てくれる人がいるということです。年月を経ても古ぼけた作品にならないのは、作り手の私が本当に伝えたいことを映画にしたからだと思っています。そういう意味において、『何を怖れる』にしても、『憲法の未来 私たちが決める』にしても、きっと時代をこえて歴史的資料になると信じているのです。

――松井さんは映画が完成した後も積極的に各地の上映会場に足を運び、講演会やトークショーに参加されています。

 観客の人々が、上映会場にわざわざ足を運んで、お金を払い、暗い中で2時間余りも集中して映画を見てくださる。そしてその後、一緒に作品について語り合える……。製作者にとって、これほどの喜びがあるでしょうか。それを味わうために映画をつくっているといってもいいくらいです。批判も含めて観客の生の声を聞くことで、映画製作の苦労が報われています。

――次回はどのようなテーマを取り上げようと思っていますか?

今回の映画では、札幌の安積遊歩さん、宇宙さん母子に障害者にとっての日本国憲法を語ってもらう
 製作中は目の前にある作品のことしか考えられません。今は、『憲法の未来 私たちが決める』のことで頭がいっぱいです。毎回、「これが最後の作品になるかもかもしれない」と思いながらつくり続け、気がつけば20年も経ってしまったという感じですね。

 映画製作は大変なことばかりですが、これほど“自分”“自我”を表現できる仕事はないと思っています。私は他人から「これをつくりなさい」「私の言うことを聞きなさい」といわれても絶対にできません。とにかく自我が強いんです(笑)。お金や社会的名誉を得ることを諦めてでも、自分の思いを映画によって表現したい。そんな生き方を貫くほうが私にとってはるかに幸せなのです。


取材を終えて
憲法の未来を決めることは、日本の未来を決めること。そして、それを決めるのは私たち一人ひとりだということを、松井さんの話を通じてあらためて気づかされました。「知らない」「わからない」ままでは大変なことになる。映画『憲法の未来 私たちが決める』を見て、私自身も自分の考えを言葉にできるようにしたい――そんな思いを強く持ちました。
(構成: 正岡淑子)


【映画監督・松井久子さんの公式ホームページ】
http://www.essen.co.jp

【「憲法の未来」facebookページ】
https://www.facebook.com/Kenpounomirai/

【ドキュメンタリー映画「憲法の未来 私たちが決める」オフィシャルサイト】
http://www.syuken.jp
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【まつい・ひさこ】
1946年東京都生まれ。早稲田大学文学部演劇科卒業。雑誌ライターを経て、76年に俳優のプロダクション(有)イフを設立。85年に(株)エッセン・コミュニケーションズを設立し、プロデューサーとしてテレビ番組を多数企画・制作。映画初監督作品『ユキエ』(98年公開)では老いを描き、内外の映画祭で高い評価を得る。第2作『折り梅』(2002年公開)では介護を描き、公開から2年間で100万人の観客を動員。日米合作の第3作映画『レオニー』を10年11月より全国ロードショー上映。15年にはフェミニズムを生きた女性たちを題材としたドキュメンタリー映画『何を怖れる』を公開した。
著書・編著:『ターニングポイント~「折り梅」100万人を紡いだ出会い』(2004年講談社)、『ソリストの思考術 松井久子の生きる力』(2011年六耀社)、『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』(2015年岩波書店)
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