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きれいをつくる
映画を通して「憲法」を考える 映画監督
松井久子
第1回 「私たちの問題」という自覚を
 憲法改正の議論が高まる中、松井久子監督の新作ドキュメンタリー映画『憲法の未来 私たちが決める』が4月に公開されます。「国のしくみである憲法を考える映画を製作し、完成後の上映会を通じて皆で憲法について考え、議論する場を設けたい」と話す松井さん。その志を実現するために、映画にかかる費用すべてを市民サポーターらの協力を得て集めるという、何者にも縛られない方法での映画づくりを進めています。そんな松井さんに、憲法や政治をテーマとして扱う難しさ、新作の見どころ、他者を巻き込む力などについて4回にわたって聞きました。

――『ユキエ』、『折り梅』では“老い”と“介護”、『レオニー』では“シングルマザー”、そして『何を怖れる』では“フェミニズム”と、これまで松井さんは主に女性の生き方を描いた映画を製作し、多くの女性から深い共感を得てきました。今回の新作では、それらとは全く異なる「憲法」を取り上げています。

 老いや介護を映画のテーマとして取り上げたのは、当時の私にとってそれらが一番関心のあるテーマだったからです。そのときどき、自分が興味のあることは同世代の女性も関心を持つはず――私にはそんな根拠のない自信があります(笑)。確信といってもいいでしょう。なぜかといえば、私がごく普通の女だからです。同時代を生きる市井の女性たちと同じ立ち位置にいるから、その感覚がわかるのです。

 その一方で、女性監督として「女性映画をつくる」のが自分の使命と思ってきました。20代は雑誌のライター、30代は俳優のマネージメント業、40代のテレビ番組プロデューサーを経て、映画監督としてデビューしたのが50歳を過ぎてから。「自分が身を置く世界で居場所を獲得したい」という気持ちがありました。ところが60歳をこえると、その居場所自体がなくなっていきます。会社に勤めていてもそうでしょう。定年を迎えればリタイアします。私も同じような年齢になり、居場所を求める気持ちが全くなくなりました。ある意味では、前よりもっと自由に創作活動ができる心境になったのです。

京都・嵯峨野の寂庵で。93歳の瀬戸内寂聴さんにも新作のインタビューをしました
 そんなとき、フェミニズムを生きた女たちをテーマにしたドキュメンタリー映画『何を怖れる』(2015年公開)を監督して、「個人的なことは、政治的である」ということを自己確認しました。政治的なこと、社会の仕組みや国のあり方は、私たちの人生や生活につながっています。

 でも、そのことを認識している人がどれだけいるでしょうか? 今、憲法改正が間近に迫っているのかもしれないのに、多くの人は、それが自分の生活や人生とはあまり関係ないと考えていると思うのです。
 そこで、現政権に対する批判や擁護ではなく、ただ単純に「憲法の問題が私たちの問題である」ことを伝えたい、その努力をしたい、と思うようになりました。学生運動が盛んだった1960年代後半に学生時代を迎えた私にとって、政治は常に関心事の一部を占めてきました。そう考えると、今のほうが自らの原点に近いといえるのかもしれません。

――第2回「普通の人々に見てほしい」では、新作『憲法の未来 私たちが決める』に込めた松井さんの思いを語っていただきます。

(構成:正岡淑子)

【映画監督・松井久子さんの公式ホームページ】
http://www.essen.co.jp

【「憲法の未来」facebookページ】
https://www.facebook.com/Kenpounomirai/

【ドキュメンタリー映画「憲法の未来 私たちが決める」オフィシャルサイト】
http://www.syuken.jp
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【まつい・ひさこ】
1946年東京都生まれ。早稲田大学文学部演劇科卒業。雑誌ライターを経て、76年に俳優のプロダクション(有)イフを設立。85年に(株)エッセン・コミュニケーションズを設立し、プロデューサーとしてテレビ番組を多数企画・制作。映画初監督作品『ユキエ』(98年公開)では老いを描き、内外の映画祭で高い評価を得る。第2作『折り梅』(2002年公開)では介護を描き、公開から2年間で100万人の観客を動員。日米合作の第3作映画『レオニー』を10年11月より全国ロードショー上映。15年にはフェミニズムを生きた女性たちを題材としたドキュメンタリー映画『何を怖れる』を公開した。
著書・編著:『ターニングポイント~「折り梅」100万人を紡いだ出会い』(2004年講談社)、『ソリストの思考術 松井久子の生きる力』(2011年六耀社)、『何を怖れる フェミニズムを生きた女たち』(2015年岩波書店)
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