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きれいをつくる
バラの香りで“幸せ”に ロザリアン
蓬田勝之 x 村上 敏
第1回 香りも大事な要素です
 「かもめの本棚」の連載から生まれた単行本の第3弾『バラの香りの美学』(蓬田バラの香り研究所著)が、5月13日に発売されます。これを記念し、知っているようで知らない“バラの香りの世界”について、同研究所長でパフューマリー・ケミストの蓬田勝之さんと京成バラ園チーフアドバイザーの村上敏さんに語り合ってもらいました。

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『バラの香りの美学』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。Web連載「香りの科学~バラは百薬の長~」はこちらをご覧ください。


蓬田勝之さん(左)と村上敏さん(「京成バラ園」にて)



――バラといえば咲き誇る姿形の美しさを思い浮かべますが、香りも大事な要素です。もしも香りが備わっていなかったら、私たちはこれほどバラの花を愛でることはなかったかもしれません。まずはそれぞれの立場から、バラの香りの魅力について教えてください。

村上 京成バラ園では、野生種(原種)から最新品種まで1500種1万株のバラを育てていますが、品種によって香りが一つひとつ違うのが魅力だと思っています。その目安になるのが花の色合いです。黄色系のバラは柑橘系のさわやかな香り、ピンク系のバラはいわゆるバラっぽい甘く華やかな香りが特徴です。その中間色であるアプリコット系のバラは、黄色系とピンク系の香りがバランスよく混ざり、複雑さもありますが香りの広がりもあります。

蓬田 品種の違いだけでなく、同じバラでも時間帯や開花の状態によっても香りはかなり変わります。そこがまたバラ好きにはたまらない魅力です。

村上 バラ園に足を運んで生花の香りを実際に嗅いでみると、その奥深さに驚くことでしょう。ロザリアン(バラ愛好家)がさまざまな種類のバラを育てるのも、香りの違いがあればこそ。見て楽しむだけでなく、香りの違いを楽しめると何倍も得した気分になりますし、心豊かになります。

蓬田 パフューマリー・ケミスト(香りの科学者)とは育種家と調香師の間に立ち、より科学的な立場からバラの香りの表現を追求して香り作品の可能性を広げるのが役割です。そのため、私はこれまで40年以上にわたって1000種類をこえるバラの香りの要素を研究し、500以上もの香り成分を解析してきました。
 現在では香りの99.9%が解明されていますが、そこまでわかっているにもかかわらず、科学的に香りを再現しても本物のバラの香りには到達できません。まだ解明されていない残り0.1%の中に、さらに500種類ぐらいのごく微量な成分が隠されていると考えられているのです。

――バラの香りが奥深く複雑に感じられるのは、未知の成分が香り全体を下支えしているからなのですね。

写真提供:京成バラ園
村上 甘い香りや柑橘系、フルーツ系、さわやかなティー系など、香りの種類は多種多様ですが、男性の私でもバラの香りを嗅ぐと幸せな気持ちになります(笑)。バラの香りを語るうえでは、その“幸せ感”が大事なのではないでしょうか。

蓬田 バラの香りを嗅ぐことによって、人間の生理・心理によい影響を与えることも知られています。私が在籍していた資生堂の研究チームが発見したモダンローズ(現代バラ)に含まれている化学物質・ジメトキシメチルベンゼン(ティーローズエレメントと命名)には、ラベンダーをこえるリラックス効果のほかに、安眠効果やストレスの軽減、免疫力の向上、スキンケア効果などがあることが明らかになっています。
 香りが肌にいいなんて意外かもしれませんが、ティーローズエレメントのリラックス作用が皮膚の自己再生能力をサポートし、肌の回復を促進させるのです。「最近、ストレスがたまって肌が荒れているな」と感じたら、バラの香りを嗅いでみるのもおすすめです。

――近年の研究によりわかってきたティーローズエレメントの効果については、『バラの香りの美学』のほか、連載第2回「バラの香りでリラックスする」でも詳しく紹介しています。次回は、バラの香りとともに私たちが歩んできた歴史についてのお話です。


【香りを楽しめて、初心者でも育てやすいバラ品種】
 村上さんのおすすめベスト3!


「バラが好き」という人は世の中に大勢いますが、その魅力を味わえるのは自分で育ててこそ――と話す村上さん。香りを楽しめて、初心者でも育てやすい「バラ品種」のベスト3を教えてもらいました。今回は第3位のバラを紹介します。

写真提供:京成バラ園
第3位 「薫乃(かおるの)」

【特徴】ソフトベージュの花がしとやかに咲く様子が美しいバラ。ダマスク系とティー系が混合したような素晴らしい香りを持つ。フルーティで華やかさのある“幸せな香り”。葉は淡緑色で、花色とのコントラストが美しい。花名の「薫乃」は、芳しい香りとその花姿の美しさから名づけられた。

【村上さんのおすすめポイント】「薫乃」は、京成バラ園の中で一番香りがいいバラだと自負しています。育てるのに多少の手間はかかりますが、その分、香りで応えてくれる――育てる価値のあるバラだと思います。フローラル、フルーティが複雑に混ざっているのですが、その香りをひと言で表すなら、“心が浮き立つ香り”。おしつけがましくなく、さわやかで、嗅ぐだけでハッピーな気分になります。ちょっと落ち込んだときに嗅ぐと、軽く慰めてくれるようにも感じます(笑)。

(構成・宮嶋尚美、人物撮影・永田まさお)
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【よもぎだ・かつゆき x むらかみさとし】
蓬田勝之(パフューマリー・ケミスト)
1947年秋田県生まれ。資生堂リサーチセンター香料開発室参与を経て、2010年から蓬田バラの香り研究所長。世界で初めてバラの香りをタイプ別に分類した香料分析のエキスパート。著書に『薔薇のパルファム』(求龍堂)などがある。
村上 敏(京成バラ園チーフアドバイザー)
1967年東京都生まれ。京成バラ園芸に入社後、“ミスター・ローズ”と称された故・鈴木省三氏らとともに育種に携わった後、卸、海外窓口、通信販売、商品開発を経て、現在はガーデン部に所属。NHKテレビ「趣味の園芸」の講師も務めている。
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