× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
きれいをつくる
バラの香りで“幸せ”に ロザリアン
蓬田勝之 x 村上 敏
第2回 香りのないバラは笑わぬ美人?
 「バラの中に伏し、バラの中で飲み、バラの中で暮らすことが最高のぜいたく」という言葉が残されているように、バラは古代から人々を魅了してきました。バラの持つ背景を知ると、ますます興味をかき立てられるかもしれません。

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『バラの香りの美学』を好評発売中です(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。Web連載「香りの科学~バラは百薬の長~」はこちらをご覧ください。


――人類は7000年も昔からバラの香りを祭祀や生活に取り入れてきたといわれていますが、日本人とバラとの付き合いが深まったのはいつごろですか?

蓬田 日本にバラの品種が入ってくるようになったのは明治ぐらいでしょうか。西洋化が始まり、何でも吸収しようという時期です。「日光」の和名で知られるグルス・アン・デプリッツや、「金華山」の名前で親しまれたレディ・ヒリンドンは、明治時代から日本で栽培されているバラで、今でも人気の高い品種です。双方とも香りの名花としても知られています。ただし、当時は1株何万円もするような高価な代物でしたから、買えるのは特権階級だけ。一般に広まったのはやはり第二次世界大戦後だと思います。

レディ・ヒリンドン
村上 バラはもともとヨーロッパで民間薬的な役割を担う作物として栽培され、その次に、香料用の作物として栽培されてきた歴史があります。世の中の暮らしが豊かになるにつれて、観賞用として愛でられるようになっていったと考えられています。
 中国のバラが18世紀になってヨーロッパに渡ったことも、多くの観賞バラが栽培されるようになった誘因の一つでしょう。それまでヨーロッパのバラは初夏にしか開花しませんでしたが、中国のバラの中には四季咲き性の品種があり、色や形、そして香りもそれまでのバラとは違うことが人々の興味を引いたのだと思われます。

――そのようにして集められた野生バラを交配し、品種改良していく中で、“香り”はどのような位置づけだったのですか?

村上 19世紀半ばから人工交配の技術が確立され、モダンローズ(現代バラ)が作出されるようになりました。ヨーロッパ系のバラと中国系のバラを掛け合わせていくことで、色や形、香りのバリエーションも複雑に広がっていったのです。香りに関しては、おおむね花が大きいほど香りが強く、花が小さくなるほど微香になっていく傾向があります。

蓬田 形と色を中心に交配され、香りをおろそかにしたまま品種改良が進められていた時代もありました。19世紀末にモダンローズの象徴であるハイブリット・ティー・ローズが生まれてから、バラの世界はビビットカラーの大輪系のバラに傾倒していきました。ところが大輪は香りが高いと耐病性に劣るとされ、品種改良の際にバラにとって大切な芳香が重要視されなくなっていったのです。

――バラの香りにそんな危機があったとは知りませんでした。魅力的な品種で病気に強く、しかも香りがいいバラを生み出すのはそれだけ大変なことなのですね。

蓬田 バラはやはり形・色・香りの三拍子がそろってこそ完璧。アメリカバラ協会が「香りのないバラは、笑わぬ美人のようだ」と評したように、再び香りに注目する人が増えてきたのは喜ばしい限りです。

村上 現在では品種改良が進み、花が小さくても香りが強いものも増えてきました。今や、全世界で2万種類をこえるモダンローズが存在しているのですから驚きますね。

――次回は、バラの香りとの上手な付き合い方を教えてもらいます。


【香りを楽しめて、初心者でも育てやすいバラ品種】
村上さんのおすすめベスト3!


 「バラが好き」という人は世の中に大勢いますが、その魅力を味わえるのは自分で育ててこそ――と話す村上さん。香りを楽しめて、初心者でも育てやすい「バラ品種」のベスト3を教えてもらいました。今回は第2位のバラを紹介します。

写真提供:京成バラ園
第2位 「アライブ」

【特徴】元宝塚トップスターの瀬奈じゅんさんに捧げられた赤系のバラ。育てやすく、美しく、芳しい、三拍子そろった品種で、レモンバーベナとアプリコットのフレッシュな香りは、香水の町・グラース(フランス)の調香師から「フルーティ・ノート」と表現された。一本植え、また、ほかのバラ、多年生植物や、灌木などとの混植にも向き、耐病性も際立っている。世界各地のコンクールで多数受賞。

【村上さんのおすすめポイント】
ある程度ほったらかしでもよく育ち、香りが素晴らしいのが特徴です。花が大きく香りがよいバラは、すぐに咲き終わってしまうものが多いのですが、アライブは花保ちもよく、香りは典型的なダマスクモダンの香りで、バラらしいコクと深みのある甘さが感じられます。匂いを嗅ぐと心が穏やかになり、落ち着くと思います。

(構成・宮嶋尚美、人物撮影・永田まさお)
ページの先頭へもどる
【よもぎだ・かつゆき x むらかみさとし】
蓬田勝之(パフューマリー・ケミスト)
1947年秋田県生まれ。資生堂リサーチセンター香料開発室参与を経て、2010年から蓬田バラの香り研究所長。世界で初めてバラの香りをタイプ別に分類した香料分析のエキスパート。著書に『薔薇のパルファム』(求龍堂)などがある。
村上 敏(京成バラ園チーフアドバイザー)
1967年東京都生まれ。京成バラ園芸に入社後、“ミスター・ローズ”と称された故・鈴木省三氏らとともに育種に携わった後、卸、海外窓口、通信販売、商品開発を経て、現在はガーデン部に所属。NHKテレビ「趣味の園芸」の講師も務めている。
新刊案内