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子どものこれから
大学生の食と健康を考える 女子栄養大学短期大学部学部長
岩間範子
第2回 20代女性の約2割が痩せすぎ!?
痩せすぎでも「自分は太っている」
 前回、朝食を食べない若者が多いというお話をしましたが、若者の食と健康をめぐる問題でもう一つ表面化しているのが、若い女性、特に20代女性の“痩せ願望”です。厚生労働省の国民健康・栄養調査によると、20代女性の約2割が痩せすぎだという結果が出ています=表1参照。痩せ願望の低年齢化も進んでいて、ベネッセ教育総合研究所の「第2回子ども生活実態基本調査」で「ダイエットのために食べる量を減らしている」と答えた子どもは、中学生女子では2004年に11.8%だったのが5年後の2009年には17.2%と5.4ポイントの増加、高校生女子では19.1%から27.8%と8.7ポイントも増加しています。

【表1】平成21年度・厚生労働省の国民健康・栄養調査から

 日本肥満学会の基準では、身長から見た体重の割合を示す体格指数であるBMI(Body mass index)が18.5未満だと「低体重」、すなわち“痩せすぎ”であると定められています=表2参照。栄養指導の授業で学生たちにBMIを算出させ、自分の体形をどのように思うかと質問すると、普通の体形もしくは痩せているのにもかかわらず、太っていると思い込んでいる学生が半数ぐらいいます。つまり、自分の勝手なイメージとして「自分は太っている」「もっとスリムなほうがいい」と思い込んでいる女性が多いのです。


若い女性にメタボの心配は無用
 痩せていても太っていると思い込んでいる女性が多いのに対し、男性、特に30代以降の男性はちょっと太り気味の傾向にあります。国民健康・栄養調査では女性の5人に1人に対し、男性はなんと約2人に1人がメタボリックシンドローム(予備軍を含む)だという結果が出ています。メタボで大事なのは、いかに体重を減らすかということ。世間一般に叫ばれている「痩せなきゃ!」という言葉は、実は太り気味の男性、特に中年の男性に向けられたものなのです。

 痩せ気味の女性や高齢者は、きちんとした食生活をしないとかえって健康を損ねてしまいます。もちろん太りすぎはダメですが、痩せ過ぎていることも健康にとってはあまりよくないことです。適正の体重がいかに健康に大事かということを、しっかり認識してほしいですね。

 特に女性は「次世代を担う子どもを産む」という大切な役割があります。思春期になると女性ホルモンが出て乳房がふっくらし、体脂肪が増え、妊娠・出産に対応できる体が作られていきます。これが、いわゆる“ポチャリして女の子らしい体形”なんです。でも今までスリムだったのが、中学生ぐらいになったらなんとなくポチャポチャしてくることで「昨年の私と違う」と誤解してしまい、「痩せなきゃ!」という間違った方向に走ってしまっているような気がします。

痩せた母親から生まれた子どもには生活習慣病のリスクも
 痩せすぎの女性が子どもを産む場合、生まれてくる赤ちゃんの将来に大きな健康リスクをもたらす危険性があります。痩せすぎの母親のおなかの中にいる赤ちゃんは十分な栄養をもらえないため、栄養的に貧弱な状態で生まれてしまうことが多いのです。経済的に豊かで食料事情に恵まれた国であるにもかかわらず、出生時に体重が2500g未満の低出生体重児の日本における出産率が、世界の先進国に比べて極めて高いことが問題になっています。
 

イラスト:高尾斉
 こういった状態で産まれてくる赤ちゃんは母親の胎内で十分に栄養をもらえなかったため、常に飢餓状態にさらされています。そのため、貪欲に栄養を摂取して自分の体にため込もうという指令が脳にインプットされていて、通常体重で産まれた人よりも20年、30年後に肥満や糖尿病などの生活習慣病になるリスクが高くなると言われ始めています。

 このことに関する日本のデータはまだはっきりとは出ていませんが、生まれてくる子どもの将来を守るためにも、母親になる前、すなわち中学生から20代にかけてはしっかり食べて、しっかりとした体を作ることが、女性にとっては特に大事だということをもっと多くの人に気づいてもらいたいですね。

極端なダイエットで骨密度も低下する
 「スリム=食べない」という選択をして極端なダイエットをする女性もいますが、骨密度が人生の中で最も高くなるのは小学生の後半から20歳ぐらいまでの間で、ピークは中学生ぐらいです。カルシウムは20歳すぎぐらいまで体に中にため込むことができますが、それ以降になると骨が完成されてしまい、あまりためることができません。

 この大切な時期にダイエットをするとカルシウムを十分に摂取することができず、歳をとって骨密度の低下を起こしやすい。骨粗しょう症になってしまうことが多いのです。若い人たちには、30年、40年後の自分の体を今、作っているのだという自覚をしっかり持ってほしいですね。ちなみに、ダイエットの回数が多いほど骨密度が低いというデータもありますが、20歳すぎには骨が完成してしまうため、それ以降にダイエットをしても骨自体にはあまり大きな影響はありません。

(構成・編集部)

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【いわま・のりこ】
1947年生まれ。女子栄養大学卒業。博士(栄養学)。管理栄養士。専門分野は栄養教育・公衆栄養。荒川区の行政と飲食店と連携した外食のヘルシーメニュー「あらかわ満点メニュー」の開発など、栄養や健康への知識と理解を深めるための活動にも積極的に携わっている。著書に『わかりやすい栄養学』(ヌーベルヒロカワ)、『食育えほん』(ポプラ社)など。
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