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子どものこれから
大学生の食と健康を考える 女子栄養大学短期大学部学部長
岩間範子
第1回 朝食を食べない若者が多すぎる
 大学生の子を持つ親にとって、食事や健康はいちばんの心配事ではないでしょうか。入学式から4カ月が過ぎ、新しい環境に慣れ始めたころにもう一度気をつけたいのが食生活の乱れです。夏季休暇が終わる9月は、生活リズムを立て直すチャンス。そこで今回から6回にわたり、大学生の親と子のための栄養の知識やひとり暮らしの自炊術、外食時やコンビニを利用する際のポイントなどを女子栄養大学短期大学部の岩間範子さんに教えてもらいます。

大学入学後の生活環境の変化が一因
 若者の“食と健康”を考えたとき、まず気になるのが食事、特に朝食を食べない人が多いということです。これは厚生労働省の国民健康・栄養調査からもわかりますが、男女ともに高校入学後の15歳以降から朝食の欠食率が増え始め、20代で最も多くなっています=表1参照。中学生ぐらいまでは、親から「朝ごはんを食べなさい」とうるさく言われて渋々食べていたのかもしれませんが、高校生になるころには親の言葉に耳を貸さない子どもが増え、大学生になって一人暮らしをするようになると、面倒くさいし、料理のノウハウもないからやらなくなる――そんなところではないでしょうか。

【表1】平成20年度・厚生労働省の国民健康・栄養調査から

 さらに、高校までは規則正しい時間割にもとづいた学校生活を送る必要があったため、毎日決まった時間に登校しなければなりませんでしたが、自分で履修科目が選べる大学では毎朝早く行く必要もありません。そんなこともあって、ゆっくり起きて朝昼兼用の食事をしたり、夜遅くまで飲み食いをしているために朝は食欲がなくて食べない大学生が多い。大学入学を境にした生活環境の変化が、朝食を食べない若者を増やしている要因の一つではないかと考えています。

親の“食”への無関心が子どもに影響を与えている
 若者だけでなく、社会全体で見ても朝食を食べない人が多くなっているのも大きな問題です。先ほどの表?をあらためて見ると、朝食の欠食率が昭和61年、平成8年、平成20年と、年を経るごとにすべての年代で増加しているのがわかります。つまり、子どもたちの親世代も食にあまり関心がない人が増えているのです。親が「朝食は食べなくてもいい」「おなかがいっぱいになれば、いつ、どんな料理でもいい」という生活をしていれば、それを見て育った子どもたちも同じようになるのは間違いありません。

働く女性は男性以上に忙しい
 食の多様化の背景には、男女雇用機会均等法のもとで男性と同レベルもしくはそれ以上に働いている女性が増えていることがあると考えられます。30代以降の若い世代では“イクメン”などと呼ばれるように、子育てや家事に積極的にかかわる男性が増えているとはいえ、残念ながら「掃除や洗濯は手伝ってもいいけれど、料理は女性の仕事」と思っている男性がまだまだ多いのが現実です。会社勤めをしていれば、家に帰れるのは早くても午後6時、7時以降。残業や出張でさらに遅くなることもあります。仕事で疲れ果ててやっとの思いで家に帰り着くと、子どもがおなかを空かせて待っている……。

 そんな状況では簡単手抜き料理や、スーパーやデパ地下の惣菜やお弁当といった中食、さらには外食になってしまうのも仕方がないことです。私自身も同じ女性として、すべて手作りでなければならないとは思っていません。
 ですが、その際には必ず、栄養バランスを考えたメニュー選びを心がけてほしいですね。出来合いのものは肉料理や脂っこい料理がどうしても多くなってしまうので、副菜などでバランスをとる必要があります。そのためには、食に対する知識と関心を親御さん自身が持ち続けることが大切だと思います。

栄養バランスを考えたメニュー選びを学ばせる
 料理好きな子は別として、勉強やサークル、アルバイトに夢中になる大学生の子どもに「毎日、手料理を食べなさい」というのは、まるで現実離れをしていることを親御さんもよくわかっているはずです。今の時代、スーパーやコンビニで惣菜やお弁当が手軽に入手できますし、大学の近くには学生向けの安い定食屋さんもあるでしょう。つまり、毎日の食事を自分で作らなくてもいいのです。

イラスト:高尾斉
 この現状を踏まえてまず心がけてもらいたいのが、「何を選んで食べればいいのか」ということを実生活の中で子どもに教えていくことです。その第1歩として、親子で一緒に食卓を囲みながら「この料理に使われている食材にはこんな栄養があるのよ」「魚は肉とは違った栄養があるのよ」「野菜は体の中でこんな働きがあるのよ」といった話を、日ごろから積極的にしてほしいと思っています。これによって栄養バランスに優れた食卓のイメージを養わせ、子どもが一人暮らしを始めたときに中食や外食を選ぶ際のノウハウが自然と身につくはずです。


 そしてもう一つ大切なのが、料理の作り方と材料に関する知識を養わせることです。実際に作らなくても、料理に関する雑誌やレシピ本を読むだけでもいいのです。「この料理にはこういう材料が入っているんだ」「こうやって作っているんだ」ということが頭の中で事前にわかれば、出来合いの料理を選ぶ際の目安になるはずです。

(構成・編集部)


【かもめ編集部から】
 「親が『朝食は食べなくてもいい』という生活をしていれば、それを見て育った子どもたちも同じようになる」という岩間さんの言葉が身にしみました。まさに「親の背を見て子は育つ」。次回は20代女性の痩せ願望の実態と危険性を紹介します。


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【いわま・のりこ】
1947年生まれ。女子栄養大学卒業。博士(栄養学)。管理栄養士。専門分野は栄養教育・公衆栄養。荒川区の行政と飲食店と連携した外食のヘルシーメニュー「あらかわ満点メニュー」の開発など、栄養や健康への知識と理解を深めるための活動にも積極的に携わっている。著書に『わかりやすい栄養学』(ヌーベルヒロカワ)、『食育えほん』(ポプラ社)など。
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