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美しいくらし
シニア主婦から夢のピアニストに ピアニスト
中野万里子
第2回 本気になれば年齢は関係ない
――「シニア」といわれる年代になってから再びピアノと真剣に向き合い、国際コンクールへの挑戦を決めた中野万里子さん。コンクールでは、テクニックはもちろん、音の美しさ、楽曲の理解、表現力、音楽性など、さまざまな観点から細部にわたって評価される。出場するには相当の覚悟がいるはずだ。

中野さんの勝負カラーはピンク。ステージ衣装はもちろん、部屋もやわらかなピンクで統一(撮影:中村美奈子)

 4歳からピアノを習い始め、ピアニストを目指して京都市内の高校、大学で音楽を学びましたが、結婚後は本格的な演奏活動から離れていました。地域のイベントで演奏したり、伴奏をしたりすることはありましたが、「コンクールで演奏する」というのはそれとは全くの別次元。楽曲を思い通りに表現するために欠かせない脱力の方法を、特に集中して学び直しました。

 著名な先生やピアニストの指導も積極的に受けました。本当は、「癒し系の先生がいいなあ」と思っていたのですが、振り返ってみると、自分が上達できたのは厳しい先生から叱咤激励されたから。きついことを言われるとショックですし腹が立ちますが、私は「なにくそ」と思う性格。スパルタ的な指導をしてもらったのがよかったのでしょう。
 
 厳しいといえば、主人からも結構きついことを言われました。「何度やっても無駄」とか、「今度も絶対ダメ」とか(笑)。でも、それは私の性分を理解したうえでの励ましの言葉だったのだと思って、今では感謝しています。

――負けず嫌いの中野さん。でも練習はつらくなかったのだろうか。

 「1日に最低4時間」と決めて毎日ピアノに向かい、コンクール直前には練習時間が8時間から10時間になることも。腕が痛くなるけれど、決してつらくはなかったですね。集中しているので、はっと気がつくと4時間が経っているという感じ。学生時代にはちょっと練習するのにも、「早く終わらないかな~」と時計をチラチラ見ていましたから、今とはずいぶん違います。それは、「やる気」「本気度」の差なのでしょう。

 自慢をするわけではありませんが、子どものころは苦労せずにすらすらとピアノを弾けました。先生から、「あなたは『ウサギとカメ』の物語に出てくるウサギ。そのままでは地道に頑張るカメに負けてしまうから、常に努力を続けなさい」と言われたほどです。「自分はピアノが弾ける」という自信を持っていましたし、「弾きたい」と思ったからこそ迷わず演奏家を目指したはずなのに、学生時代には「やらされている」という息苦しさがあって、ピアノにのめり込めずにいたんですね。

 当時は与えられた課題を義務的にこなしていましたが、今回のコンクール出場は自分で決めたことだから、結果が出るまで絶対にやり抜こうという気持ちでした。

――コンクール出場に向けて気力は充実。でも演奏するためには体力も必要なはず。失礼ながら年齢による影響は?

ピアノの上に飾られたトロフィー。右は第18回大阪国際音楽コンクールで獲得

 年々、指が回らなくなるだろうと思っていたのに、練習を再開した今はしっかり動きます。これは自分でも意外でした。 学生時代に比べて、譜読み(※)も楽譜を覚えるスピードも落ちましたが、表現力は深まっていると思います。1曲を弾きこなすのに時間はかかりますが、若いころに比べてもテクニックに遜色はないと感じています。やればできるものですね(笑)。でもその根底にあるのはピアノに対する自信。必ず弾けると思うから、練習に何時間を費やしても惜しいとは思わないのです。

 もちろん、どんなに頑張っても苦手なことはありますよね。私は、絵はヘタですし、手芸もケーキ作りもダメ。ほかにもいろいろと試したけれど、どれも上達しませんでした。結局、最後に残ったのがピアノだったのです。

 コンクールに出場するとか、1日に10時間練習するとか、なんでこんなに頑張るのだろうと自分でも不思議なのですが、それは、私にはピアノしかないから。単に「好き」というのはなく、ピアノで何かをやり遂げたい、ピアノを通じて自分自身と戦いたいという思いがあるのです。

――「どんなに時間をかけても惜しくない」。そう言いきれる「何か」を持っている人が、いったいどれくらいいることか……。次回は中野さんのモチベーションアップの秘訣に迫ります。

※譜読み:初めて演奏する楽曲の楽譜を見て、頭の中で演奏してイメージをつかむこと。実際に演奏する前に、ある程度正確に弾けるまで楽譜を読みこむ技術。

(構成・川島省子)

【中野万里子さん出演のコンサート】
 大阪国際音楽コンクール受賞者によるガラ・コンサート
 日時:6月26日(火) 19:00開演(18:30開場)
 会場:兵庫県立芸術文化センター神戸女学院小ホール
 問い合わせ先:大阪国際音楽コンクール事務局
 電話:06-6625-5931 FAX:06-6625-5934 E-メール:osakaimc@gmail.com
 
【中野万里子さんのfacebook】
https://www.facebook.com/mariko.nakano.96780
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【なかの・まりこ】
ピアニストを目指し京都市立芸術大学で学ぶ。卒業後、日本演奏連盟推薦オーディションに合格し、大阪フィルハーモニー交響楽団とラフマニノフのピアノ協奏曲第2番を共演。結婚を機に本格的なピアノの演奏活動から離れて子育てや家事に専念し、シニアになってからコンクールを目指して練習を再開。第41回ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会「A2」第2位ほか、数多くのコンクールでの入賞を経て、2017年10月、最終目標だった大阪国際音楽コンクール「Age-G」「リサイタル」の両コースで第1位、さらにグランプリを獲得。併せて音楽現代賞、セシリア国際音楽コンクール賞を受賞した。受賞記念として18年2月、フランスのカップフェレ音楽祭に招待されて演奏した。
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