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子どものこれから
地域で育む子どもの言葉 フリーアナウンサー
山根基世
第3回 地域をつなげる人づくり
 今年4月、山根基世さんが主宰・講師を務める「朗読指導者養成講座」が東京でスタートした。朗読がうまくなりたい人ではなく、朗読を通じて地域のつながりをつくる意志がある人を募ったところ、30人の定員に対して全国から240人の応募があり、現在月1回の講座が開催されている。第3回は山根さんが目指す言葉を育てる取り組みと地域づくりについてうかがいました。


――2012年、山根さんは愛知県半田市にある「新美南吉記念館」から、地元出身の児童文学作家・新美南吉の生誕100年を翌年に迎えるのに際し、記念事業として朗読会を開きたいという相談を受けた。もともと地域で子どもの言葉を育てたいと考えていた山根さんは、アナウンサー仲間と「みんなでごんぎつねプロジェクト」を提案。記念館と協働で地域の大人や子ども、先生たちと準備を始めた。これが山根さんの「地域で子どもの言葉を育てる」最初のプロジェクトになった。

写真提供:山根基世
 朗読の発表会は2013年7月を予定していましたので、その半年前の1月から毎月2回、地元の皆さんとともに勉強会を始めました。半田市内の13の小学校から学年の異なる児童が2人ずつ、地元で30年以上活動を続けている朗読グループ「きりんの会」のメンバー、そして小学校の先生とNHKのアナウンサーが参加し、発声練習や朗読の基本、新美南吉の代表作でもある『ごんぎつね』について理解を深めました。少人数のグループになり、意味のわからない言葉を洗い出し、調べる。ゆかりの場所をみんなで訪ねたりしました。

 このプロジェクトの最終目的は参加者全員で作品を朗読することでしたが、上手に読むことが大事なのではなく、同じ地域の異なる年齢の住民が朗読を通じて学び合い、言葉を交わすことに意味がある、と私は皆さんに伝えていました。半年間、大人と子どもが語る時間と場を共有することで、大人はあらためて自らの地域を振り返り、子どもが何を考え、悩んだりしているかを知る。子どもは大人たちの会話を聞き、話すことで、言葉を学ぶ。私はその成果を実感することができました。

 今年もまた、半田市の地域の人々が子どもを対象に読み聞かせの会を開催しています。1回だけではなく、関係者がつながって、意志を持って活動を続けてくれている。それが私の狙いでもあったので本当にうれしいですね。
 去年のお正月には、参加した子どもの一人が「僕は言葉を教える学校の先生になろうと思います」という年賀状を送ってくれたりもしました。

 地域で生まれた文学作品などの朗読をきっかけに、大人も子どもも地域の風土を語れるようになる。そうすると、生まれた土地に誇りを持って学ぶこともできますよね。このようなプロジェクトを全国に広げていきたいと思っています。

――「みんなでごんぎつねプロジェクト」では、山根さん自らも現地に何度も赴いて、活動を推進。7月の本番では大成功を収めた。それから1年半、今年4月にスタートした朗読指導者養成講座では、朗読を通じて「地域のつながりをつくることができる人」を育てたいと話す。

 私が取り組んでいるのは、子どもの言葉を育てるということと、地域づくりとをつなげることです。現代の子どもたちは、親と先生以外の大人の言葉を聞く機会がほとんどありません。人間は周囲の人の言葉を聞くことによって、言葉を得ていきます。オオカミに育てられた少女の話は有名ですが、言語形成期になるべく多様な人の言葉を聞いていくことが必要なのです。

 必ずしも美しい、よい言葉だけを聞かせなくてもいいのです。「大人ってこんなにずるいこともするのか」と知ることも必要です(笑)。昔は冠婚葬祭のたびに一堂に会して、その場でいろいろな会話が繰り広げられていました。言葉を通じて人間についても知ったわけです。言葉を学ぶということは、人間を知り、そこで言葉がどう動くのかを知ること。人間の関係と言葉はセットになっていることを学ぶ場がありました。
 長い目で見れば、子どもの言葉を育てることだけではなく、人間を育てる場が地域に必要なのだと思います。

――山根さんの講座には全国から応募が殺到して大人気。朗読の経験がないと受講は難しいのだろうか・・・。

写真提供:山根基世
 そんなことはありませんよ。地域のつながりを取り戻そう、子どもたちの言葉を一緒に育てていこうという気持ちがある方ならいつでも大歓迎です。
 たとえば、『スイミー』や『さよならをいえるまで』などの絵本を読むときは、朗読者はどんな気持ちを大事にしたいのか、この本をどう捉えて、子どもたちに何を感じてほしいのかを考えてもらいます。一人で読むのとは違い、皆の話し合いからいろいろな発想が生まれたり、気づきがあったり、読み方が深まったりします。初めての人も大丈夫ですよ。

――朗読をきっかけに子どもの言葉や感情を育み、地域をつなげる。そういった「場」をつくる人になるためにはどのような点に気をつけたらいいのか。講座ではその点についても教えている。

 地域の核になってもらうために、私は必要な力が2つあると思っています。一つは朗読の力。人の心に届く朗読ができる、ある程度高い朗読の力を持っていないと、その人についていこうという気持ちになれませんよね。
 もう一つはリーダーシップです。アナウンス室長のときに私が感じたように、リーダーシップには伝える言葉が必要です。なぜ、私たちはこれをやるのか。子どもを地域で育てるということはどういう意味があるのか。その思いを語り、朗読の上で気づいたことも、周りの人たちを傷つけずに的確に伝えることができる人でなければ務まらないと思います。
 そのような点からも、講座ではリーダーシップについても学ぶ機会をつくっています。具体的には30人を5つのチームに分けて、交代でリーダーを担当。リーダーになった人には、チームの朗読方法をみんなで話し合い、意見をまとめて発表することを体験してもらっています。

――受講生は地域に帰ると、山根さんの教えをもとに朗読の場づくりを実践。それはとても心強いことだ。

 本当に真面目で素晴らしい方々です。多発する事件や地域の現状を目にして、自分たちの手で子どもたちを守らなければいけないと危機感を持っている人がいる。そのために、朗読を通じて地域のつながりを作ろうとしてくれている人がいる。この人たちがいるからまだ大丈夫だと、私も勇気をもらっています。

――講座の開催を通じて、「地域をつなげる人を育てる」ことの大切さに手ごたえを感じている山根さん。その思いは参加者に伝わり、各地でかたちになりつつあります。最終回は、私たち一人ひとりにできる「言葉を学び、育てること」について教えてもらいます。


※人物撮影:渡邉誠
(構成:横山佳代子、企画:大橋弘依、編集:小田中雅子、佐藤博美)

【山根基世オフィシャルサイト】
http://www.yamane-motoyo.com/


※この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース15期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets


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【やまねもとよ】
1948年山口県生まれ。元NHKアナウンサー。ニュース、美術や旅番組、ラジオ番組のほか、大型シリーズのナレーションを務める。2005年、女性として初のアナウンス室長に就任。2007年に退職。現在は子どもの言葉を育てる活動を展開。2015年から朗読指導者養成講座を開講している。『こころの声を「聴く力」』ほか、著書多数。
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