7月から8月にかけ、オーヴェルニュ地方は一面に黄色が広がります。この景色は我が地方の風物詩。丘の上から眼下を眺めると、まるで波を打つかのようにひまわりの花がうねりながら咲いています。ひまわりは誰でも知っている有名な花。フィンセント・ファン・ゴッホの世界的に有名な《ひまわり》にも描かれていますが、ポール・ゴーギャンとの共同生活を送る際、部屋に飾ろうとして制作したといわれます。
明るい南仏の太陽の下でも光を受け輝くように咲くひまわり。プロヴァンスではラベンダー畑の横にひまわり畑があることが多く、紫と黄色の2色の帯のようになって咲いている姿をよく見かけます。
毎年、この季節になると、楽しみにひまわり畑を撮影していますが、この景色をブログなどに載せると「こんなにひまわりばかり植えているのはなんのためですか?」と質問がきます。ひまわりは、菜種、オリーブとともに、ヨーロッパにおける三大食用油の一つであり、食用や飼料にもなります。そのため、純粋に農作物として育てられており、観光のため植えられているわけではありません。
観光客以外、私のほかに写真を撮っている人は一人もいませんし、ましてやわざわざ車で見学に来る人も皆無です。なにしろ、そこかしこに咲いているわけですから、フランス人たちにとって単なる夏のひとコマなのでしょう。そんな実用的な花ですが、よく、いつも元気で明るい人のことを「ひまわりのような人だね」と形容することがあります。
しかし、ギリシャ神話では、とても悲しい物語があるのです。
――海神の娘である海の精クリュティエは、太陽神アポロンにひと目惚れをします。毎日空を見上げては、彼の姿を追い続けていました。そこまで想いを寄せられていたアポロンは、当然悪い気はせず、彼女を誘惑した挙げ句、すぐに別の女性の元へ。クリュティエは絶望し、捨てられてから9日間泣き続け、いつまでも彼の姿を探し、空を見上げています。日が経つにつれ、彼女の足は細い棒のようになり、やがて根となり、髪は黄色へと変化していきました。
そう、彼女はひまわりとなったのです。ひまわりの花言葉「あなただけを見つめる」には、そんな由来があったのだと思うと、なんだか切なくもなりますね。それでも、太陽に向かって、ひとたび花を開けば、昆虫たちのパラダイス。我が家の養蜂場のあたりには、毎年多くのひまわり畑が現れ、蜂たちは忙しそうに飛び回っています。そのため、我が家の夏の蜂蜜はひまわりの味なのです。
さて、この大量のひまわりは咲いた後も長い間、そのまま放置されています。枯れた花をいつまでも収穫しないことが、とても不思議だったのですが、適切な水分量(9パーセントから11パーセント)になるまで待っていることを知りました。フランスでは、なんと、ひまわりの最適な収穫日を予測する無料のツールまであるんですよ。本当に農業国なのだとあらためて感じながら、今年の夏のひまわり畑を楽しみに待っています。(おわり)
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