チョコレートの輸入販売を営むさつたにさんが意を決して向かった先は、世界各国のカカオ豆農園。山や谷を越えてやっとたどり着いた現地で見たものとは? Bean to Barが抱えるさまざまな問題に迫ります。
写真:編集部
――さつたにさんはカカオ豆の生産者と積極的に交流しています。山深い異国のカカオ豆農園まで赴く理由はなんだったのでしょう。 2007年ごろから独学で欧州のチョコレートマーケットの視察を続けていました。2013年にBean to Barの輸入販売業を始めることになり、そのメーカーが集まる会議などに参加することに。そこで教わったのが、カカオ豆栽培を取り巻く深刻な社会問題。メーカーの多くがそれらと真剣に向き合いながらをチョコレートづくりをしていたのです。
Bean to Barに出会った当初は、これまで味わったことがないような豊かな風味に衝撃を受けたのですが、おいしさだけを追求するものとは一線を画したメーカー独自の取り組みを知り、生産地に足を運んで自分の目で確かめたいと思いました。
――Bean to Barが、カカオ豆栽培の背景にあるさまざまな問題に目を向けるきっかけになったのですね。実際、現地に入られてどんな印象を受けましたか? 異国に住む私たちが日常的にチョコレートを楽しんでいる一方で、生産地では気候変動の影響による農園被害、低賃金の重労働、栽培に関する技術教育の不足など、個人レベルでは解決できない問題を多く抱えていました。
そうした現実を知ってしまった以上、見て見ぬふりはできません。とはいえ、私が輸入する量では農園で働く人に経済的なインパクトを与えることは難しい。では何ができるだろう……。
考えた一つが、消費者の声をフィードバッグすることでした。自分たちのカカオ豆でつくられたチョコレートが遠い日本で喜ばれていることを、彼らにきちんと伝えよう。そうすれば労働のモチベーションが上がってカカオ豆の品質が向上、価値や労働の対価に見合った適正価格で取り引きされる。収入の安定につながるとも思いました。
――カカオ豆生産者とチョコレート消費者がつながれば、プラスに働くことがあると考えたのですね。では、農園で働く人は日本人のリアルな声を聞いてどういう反応だったのでしょうか? チョコレートを気に入って買ってくださった方の写真や、農園で働く彼らの様子を紹介した日本の記事を現地に持って行くと、興味津々で食い入るように見てくれます。これまで“名もなきカカオ豆”として流通していたものが、「〇〇農園の○○さんのカカオ豆」と明記されることもあって、誇りに思ってくれているようです。
それから、よいカカオ豆をつくりたいという意欲も感じられるようになりました。彼らのカカオ豆でつくった商品と、別の国のカカオ豆でつくった商品を食べ比べてもらうと、こちらが質問攻めに合うほどの勢いでとにかく研究熱心です。山を越えて川を下り何日もかけて会いに行くかいがあります(笑)。
――農園といっても私たちが想像もつなかいような奥地……。言葉も文化も全く異なる人たちと一からやり取りするのは苦労も多いことでしょう。 これまで南米やアジアを中心に26カ国訪れています。会話は基本的には英語で、現地の言語を少し、あとはゼスチャーとかアイコンタクトとか。カカオ豆というお互いの共通テーマがあるので、言葉は通じなくても信頼関係があればなんとかなるものです。独特の民族衣装を着た先住民といっても彼らの文明は意外と進んでいて、携帯電話から近況報告をメールで送ってくれることもあるんですよ。
カカオをつくっている人の顔が見えて、商品になるまでの工程がとてもクリアで、搾取されている人がいないチョコレートを販売したいと常々思っているのですが、こうした現地でのコミュニケーションが生産者の後押しになればうれしいですね。(つづく)
時代は“名もなきカカオ豆”からプレミアムなカカオ豆へ。生産者自慢のカカオ豆によって、これからも個性あふれるチョコレートが楽しめそうです。次回(最終回)は、各国の名品が集結するチョコレートの世界大会について伺います。
(写真提供・さつなにかなこ、構成・狭間由恵)
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