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アンチエイジングの教科書
東海大学特任教授
石井直明
第3回 アンチエイジングもゲノムの時代 ㊦

遺伝子の働き具合を変えるもの


 ゲノムという“生命の設計図”に書き込まれた遺伝子の情報が、その人の個性を決める――つまり、太りやすいのか太りにくいのか、インナーマッスル(体の深部にある筋肉)が発達しやすいのか、アウターマッスル(体の表面の筋肉)が発達しやすいのかなど、すべては遺伝子次第……。前回(第3回)の「アンチエイジングもゲノムの時代 ㊤」は、そんな話でした。
 なんだか身もふたもない気持ちになってしまいそうですが、それだけではないところにこそ、人体の不思議と私たちの努力のやりがい、希望の光があるというもの。確かに持って生まれた遺伝子を変えることはできませんが、やりようによって、つまり毎日の過ごし方によっては、遺伝子の働き具合を変えることが可能なのです。

 遺伝子の働き方の変化は、「エピジェネティクス(後遺伝)」と呼ばれます。では、その変化をもたらすものはなんなのでしょうか。答えを考えるにあたり、これまでの内容をおさらいしておきましょう。
 私たちの体は、日々食べているものを材料につくられており、健康づくりのためには一人ひとりの体質に合ったバランスのよい食事は欠かせません。そして、どのような食材を、いつ、どのくらい食べるかによって、体内環境は変わってきます。遺伝子の働き具合に大きな影響を与えるのは、そうした体内環境の変化。つまり、エピジェネティクスを左右するのは日々の食事なのです。

 生活習慣病を例にとるとわかりやすいでしょう。生活習慣病とは、文字どおり生活習慣が原因で発症する病気のこと。食べ過ぎや運動不足が続くとやがて肥満を招き、メタボリックシンドロームへ、さらに糖尿病や脂質異常症へとつながっていきます。塩分をとりすぎれば高血圧になり、肥満と塩分のとりすぎが重なると腎臓病のリスクが上がります。食塩のとりすぎはまた、男性の胃がん発症リスクを上げることもわかっています。

螺旋状のDNA模型を手に説明する石井直明先生

 ところが、同じような生活習慣なのに、これらの病気になる人とならない人がいます。なぜでしょう。
 まずは、生活習慣病になりやすい遺伝子の有無ですがそのような遺伝子を持ってなくても、悪い生活習慣を長年続けていれば生活習慣病を発症します。
 その反対も然りで、生活習慣病になりやすい遺伝子を持っていても、よい生活習慣が身についていれば生涯健康に過ごすことは可能です。
 生活習慣病予防の基本は食事と運動ですが、とりわけ重要なのが食事です。遺伝子の特徴に合う食事、つまり自分の体質に合う食事を心がけることで体内環境が変わり、生活習慣病発症にかかわる遺伝子の働きにブレーキがかかる――これがエピジェネティクスの仕組みなのです。

遺伝子に働きかけるアンチエイジング新時代


 アンチエイジングにかかわる遺伝子の働き具合をよくするのも、生活習慣病と同じように日々の食生活の改善がもっとも効果的かつ近道です。もし、アンチエイジングを阻む遺伝子を持っていたとしても、毎日、自分に必要な栄養素を過不足なく満たす食事を続けていれば体内環境が変わり、美と若さを手に入れることができます。

 最近は、アンチエイジングにかかわる遺伝子検査が数万円で受けられるようになり、その結果をもとに効率的なアンチエイジングの食事や運動プログラムを個別的に考えることも可能になってきました。遺伝子検査までしなくても、第2回「何をどれだけ食べればよいかは一人ひとり違う」で説明したように、体重、体組成、一般的な血液検査データ、血圧を指標にして体内環境を整えていくことができます。

 ゲノム研究はこの10数年で急速に進み、がんの治療ではすでにゲノム医療が実用化されています。遺伝子情報に基づいてその人に最適な医療を提供するゲノム医療は、究極のオーダーメイド医療です。同じようにアンチエイジングも、遺伝子レベルの個人差に基づくパーソナルな「ゲノムアンチエイジング」の時代がすでに訪れているのです。(つづく)

構成・天野敦子
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【いしい・なおあき】
医学博士。1951年神奈川県生まれ。東海大学医学部教授を経て2018年より同大健康学部特任教授。専門は老化学、分子生物学、健康医科学。30年以上にわたり老化のメカニズムを研究し、世界で初めて老化と活性酸素の関係を解明。テレビや雑誌などでも幅広く活躍する。著書に『専門医がやさしく教える老化判定&アンチエイジング』『分子レベルで見る老化』『アンチエイジング読本』ほか。
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