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子どものこれから
ママとパパには内緒だよ ミュージシャン×版画家
石川浩司×蟹江 杏
最終回:後編 未来の4代目 あおちゃん (文・蟹江 杏)

※WEB連載原稿に加筆してまとめた単行本『あんずとないしょ話』が2017年5月22日に発売されます(発行:東海教育研究所、発売:東海大学出版部)。



今回は、私のアトリエから徒歩10分。
柴又駅、寅さん像の真ん前にある「春」って居酒屋さんのお孫さん、あおちゃんのお話を聞きました。
あおちゃんはお兄ちゃんと学校が終わるとお店に帰ってきて、お母さんとお店で過ごした後、夜にお家に帰ります。
「春」は、2代目ママさん(あおちゃんにとってはおばあちゃんですが、ミラクルな若さの美人女将!)と、あおちゃんのスタイル抜群のお母さん(3代目ママさん)が営んでいます。
とても気さくでよい店なので、私もときどきお邪魔しています。
あおちゃんが帰ってくると、すでに赤ら顔の常連さんたちが当たり前のように、「おかえり〜」と声をかけます。
あおちゃんも、とっても元気に笑顔で応えます。

初詣客で賑わう正月は店頭にも立つ
彼女がご飯を食べたり宿題をするのも店のカウンターの中です。
いわば「春」は、あおちゃんにとってはお家の中と同じ感覚。
そして、お客さまがいるのも生活の中で当たり前のことのようです。
合間で、彼女は店のお手伝いもします。
とても大きな明るい声でいらしゃいませ、ありがとうございました、が言えるし、注文を聞いて、ママやお母さんに伝えることもできます。
さらに、オススメは? なんて聞くと、
「渥美清さんの食べていた 納豆オムレツです。すごくおいしいんですよ!」
なんて、ちゃんと教えてくれるし、ときにはお客さんの冗談に間髪入れずにノリツッコミまでしちゃいます。
子どもが居酒屋でお手伝いなんて、大丈夫なのか? と思う方もいるかもしれませんが、すでに9歳にして、お家のお仕事に誇りを持ち、
「将来は4代目の私が後を継ぎます!」ときっぱり答えるあおちゃん。
誰がなんといおうと、幼い心でお店を愛する気持ちが伝わってきます。

私と彼女の実家の職種は違いますが、実は育ち方に共通点があります。
前にもここで書きましたが、私の実家は代々、花の市場を営んでいます。
お花と聞くときれいな印象がありますが、セリ場なので実際はお魚市場同様、荒々しい男の現場です。
敷地内に社員寮があり、中学、高校出たての社員さんたちが住んでいて、夕食は、私も彼らと一緒に食べていました。
ご想像通り社員とはいえ年ごろの男の子たちが集まってする会話は、女の子の話題や流行りの遊びの話、さらにはちょっとエッチな内容もあり、そこで私はすっかり耳年増になりました。
表には出しませんでしたが、
あおちゃんとよい勝負ができるくらいのおませ女子だったかもしれません。
けれど、自宅と両親の職場が同じこともあり、セリに出る花をお花屋さんに買っていただくためにお取り引きさんや生産者さんへ頭を下げ、ときには矢面に立って、365日休日なんてない状態で働く父の姿を間近で見て育ったことは、今の私の仕事の仕方に大きな影響を与えています。

版画:蟹江 杏

私が仕事で迷ったときに思い出すのは、経営者なのに優しすぎる父の決してカッコいいとはいえない仕事ぶりです。それを思い出すと、自ずとどうすべきかがはっきりします。
そんなとき、親の働く姿をまじかで見れた環境に感謝します。

私が親の家業を継ぐという選択はせず、こうして画業の道へ進んだように、あおちゃんも将来どうなるかはわかりません。
でも、あの賢そうなお目々でジッとママとお母さんの働く姿を見ています。
学校や塾では絶対教えてもらえない「人が社会で働くこと」がどういうことなのかが、彼女の身体に染み込んで、決して忘れることはないはずです。
私が花市場の光景を思い出すように、あおちゃんも大人になって社会に出て、めげそうになったとき、きっと、お店のカウンターの中を思い出せばなんでも乗り越えられるだろうなと思いました。

あおいちゃんを囲んで2代目ママさん(左)と3代目ママさん

この文章を書きながら、あおちゃんの可愛い笑顔を思い出したら、今日も「春」に一杯引っ掛けに行きたくなちゃった。。。飲みすぎ注意ですね〜。
きっと常連さんもこうして毎日お店に吸い寄せられてしまうんだろうな〜。
あおちゃんは看板娘。やっぱり、4代目、お店には欠かせないかもしれません。

【石川浩司のひとりでアッハッハー】
http://ukyup.sr44.info/
【蟹江杏さんのホームページアドレス】
http://atelieranz.jp/
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【いしかわこうじ×かにえあんず】
◆石川浩司◆1961年東京都にて逆子生まれ。神奈川県・群馬県育ち。バンド「たま」にてランニング姿でパーカッション、ボーカル担当。90年に「さよなら人類」でメジャーデビュー。同曲はヒットチャート初登場1位となり、レコード大賞新人賞などを受賞。2003年に解散後はソロで「出前ライブ」などの弾き語りおよびバンド「ホルモン鉄道」「パスカルズ」などで活動中。旅行記やエッセイなどの著作も多数ある。また今年4月には、10代女子2人とのユニット「えんがわ」としてアイドルデビューも飾った。

◆蟹江 杏◆東京都生まれ。ロンドンにて版画を学ぶ。NPO法人3.11こども文庫理事長。全国の百貨店や画廊で展覧会を行うかたわら、新宿区クリエーターズフェスタなどの都市型アートイベントにおいて子どもアートプログラムのプロデュースなどを手がける。東日本大震災の被災地の子どもたちに絵本や画材を届ける活動や、文部科学省復興教育支援事業としての講師やコーディネーターも務めている。
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