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美しいくらし
木と言葉と人をつなげて SMALL WOOD TOKYO代表
安田知代
第2回 「敷くだけフローリング」で林業の活性化を
 東京産の木材の魅力を多くの人に知ってもらおうと「SMALL WOOD TOKYO」を立ち上げ、DIYで無垢の木の床材が仕上げられる「敷くだけフローリング」を開発した安田知代さん。建築家でも商品開発者でもなく、実は編集者兼ライターです。輸入材に押され、国産材の需要が減ったことで手を入れられなくなってしまった森の木は、細かったり節がたくさんあったり……。東京の森で大量に伐られているこのような木材を安田さんたちは「SMALL WOOD」と呼び、丁寧に商品化しています。

――「敷くだけフローリング」は「SMALL WOOD TOKYO」の看板商品。無垢材のフローリングがまるでカーペットのように簡単に敷けるのが特徴だ。

 製品はすべて「多摩産材認証材」で作っています。多摩地域の適正に管理された森林で生成した木材であり、生産から製材、販売まですべての流通過程を明らかにできます。「敷くだけフローリング」はスギとヒノキの2種類。現在は東京都森林組合の檜原加工所で製造しています。

 多摩地域で伐られた木は東京で唯一の原木市場「多摩木材センター」に集められ、競りにかけられます。私たちが「SMALL WOOD TOKYO」で使っている木は、そこで仕入れた丸太を東京都森林組合が一貫して製材、乾燥、加工をしています。だから、国内外の遠隔地から運ばれてくる木材と比べ、輸送にかかる環境の負荷は最小限。地産地消で東京の地場産業を支えることに貢献します。

――知りませんでした……。「多摩産材を扱ってン十年」といった風格で、複雑な木材の流れをサラサラわかりやすく説明してくれる安田さん。それにしても、もともと編集者だった彼女が、どうやって特殊な慣行や知識が求められる木材のプロになったのだろう。 

 取材と同じなんですよ(笑)。例えば築地の魚市場に行けば、ああ、魚ってこうして競りにかけられて売っているんだな、と思うじゃないですか。現場に「ドーン!」とまずは行ってみて、自分の目で見て、感じてみる。そこで疑問に思ったら専門家に聞いてみる。「こういうところなんだ、すごいなぁ」と感動したら、多くの人に伝えたくなる。それだけのことですよ。

――「敷くだけフローリング」は品質だけでなく、素人でもDIYで簡単に敷けるのも特徴。「敷きかたマニュアル」と題されたパンフレットには準備する道具まで写真入りで紹介されていて、基本の敷き方から応用編、事例まで、初めてDIYに挑戦するユーザーにもわかりやすく伝えようとしている。よくある「トリセツ」とは一線を画していて、ここでも編集者としての手腕が生きている。

 最初は長いものだと180cmの床材も使っていたことがあります。でも、それだと素人には扱いにくいし、宅急便でお届けできない。そのような問題をクリアするために試行錯誤を重ねて製材所とも相談しながら、最終的に120cm、90cm、60cmの3種類の長さを基本にすることに落ち着きました。

 細かったり短かったり節が多かったりする「SMALL WOOD」でも、この長さなら真っ直ぐな材が取れる。中くらいの長さや短いものを混ぜることで歩留まりもかなりよくなったと、製材所も喜んでくれました。試験的にやってみたら、それがもうピッタリ! 部屋の広さや形に合わせて設計するのも楽になったし、お客さまが敷くときも楽だし、施工後にスキが生じても調整しやすくなったんですよ。
 
 「敷くだけフローリング」を利用するお客さまの家は、戸建てもあればマンションもある。リビングや寝室、あるいはキッチンやトイレ……フローリングを敷く部屋はさまざまです。新築の家でも、新建材に対する化学物質過敏症やお子さんのアレルギーを気にして敷く方もいます。

――施工例はこれまでに80件、約1230畳(2015年11月現在)。大々的な広告は出したことがないが、ブログやフェイスブックなどを通して「敷くだけフローリング」に興味を持つ人が徐々に増えてきた。「スギとヒノキと、それぞれの特徴は?」と聞くと、「じゃあ、ちょっと裸足になって歩いてみませんか?」と安田さん。ショールームには両方の材が敷かれているので、お言葉に甘えて裸足で歩いてみた。ヒノキはヒンヤリ、スルスル。スギは温かい。

 そうです、そうなんですよ! どちらもいいでしょ? よく例えるのは、ヒノキは絹豆腐、スギは木綿豆腐。掃除も楽だし、傷が付いても、水をこぼしても大丈夫です。無垢の木って、ツヤツヤしているでしょう? もともと油分があり、仕上げにカンナがけしてあるので、表面が自然のコーティングをされているようなものなんです。「お手入れが簡単」というのは、「敷くだけフローリング」の大きなアピールポイントです。

 合板は傷が付いたり汚れたりすると劣化してしまいますが、自然の木は経年変化が味になる。何より、温もりがあります。それというのも、私たちが使っている材は中低温で乾かしたもの。最近は無垢材をパネル状にした製品などもありますが、高温乾燥だとパサついた感じで、あまり温もりもありません。その代わり、私たちの製品と比べると廉価です。「敷くだけフローリング」について、お客さまから「どうして高いの?」と聞かれることもありますが、そのときには「コンビニのパンは安いけれど、天然酵母のパン屋さんは高い。それと同じことなんですよ」とお伝えしています。加工の段階からきちんと時間をかけ、最終的な加工まで丁寧に手をかけているものと、高温乾燥で大量生産的に加工されているものとは違うということなんです。

――「座っても寝転んでも、触れたところから温かくなる」「素足が心地よく、水拭きするといい香りがして掃除が楽しい」「節から木の生命力が伝わってきて、一点もののよさがある」などなど、「敷くだけフローリング」を実際に体験した人たちの評価は高い。そのよさをもっと多くの人に知ってもらいたいと、安田さんの思いは強くなるばかりだ。

 人工林は、いわば木の畑。植えたら伐って使い、代金はその加工に携わる人や畑を作っている人たちに戻るのが当然です。でも、その循環がきちんとできていない。おじいちゃん世代が懸命に植えてくれた苗が大きな木に育っている今、まずその木を使うことがよい循環を作り出すための一歩だと考えています。

――スギの学名であるCryptomeria japonica(クリプトメリア・ジャポニカ)には、「隠れた日本の財産」との意味があるそうだ。昔から日本人と深いかかわりを持ち、大切にされてきたスギやヒノキの価値を再発見し、つながる人たちが幸せになれる活動を続ける安田さん。最終回では、その目が見つめる“ちょっと先の仕事のやり方”について教えてもらいます。

【SMALL WOOD TOKYOのホームページアドレス】
http://www.smallwood.tokyo/
(構成・白田敦子)
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【やすだ・ともよ】
1964年北海道生まれ。学習院大学フランス文学科、パリ第七大学現代文学科卒業。ライター・編集者として雑誌記事の執筆、企業の環境報告書・CSR報告書、地域の本づくりなどに携わった後、未来世代へのプラスの種を蒔いていくことを決意。2012年に仲間と会社を設立し、東京のスギ・ヒノキをつかった木製品ブランド「SMALL WOOD TOKYO」を立ち上げ、森の再生を目指す。人工林の状況や無垢の木の心地よさを伝える木育ワークショップも考案し、ショールームや出前講座で広めている。メイン商品「敷くだけフローリング」は、2014年に多摩信用金庫主催「多摩ブルー・グリーン賞」の特別賞を受賞。
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