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美しいくらし
木と言葉と人をつなげて SMALL WOOD TOKYO代表
安田知代
第1回 「SMALL WOOD」との出合い
 突然ですが、クイズです。東京都の森林面積は都全体の何割でしょう? 答えは、なんと千葉県や埼玉県の森林面積率を上回る約4割。そのうちの7割は多摩地域西部にあり、多くが人工林です。ところが、木材の需要が減ったために人工林は放置され、スギ花粉症の対策で切り倒された木は行き場を失って――。その状況をなんとかしたいと「SMALL WOOD TOKYO」を立ち上げたのは、編集者兼ライターの安田知代さん。東京産の木材の魅力を広めようと、多摩産材を使ったフローリングやボックス、浴槽のフタなどの商品化と販売に取り組んでいます。
 でも、なぜ編集者兼ライターでもある彼女が“木材”の仕事をしているの? そんな疑問を抱きつつ、東京・三鷹にある「SMALL WOOD TOKYO」のショールームを突撃取材。これまでの活動や「編集」という視点から見た木の魅力、森をめぐる課題、これからの働き方などをうかがいました。


――安田さんが代表を務める「SMALL WOOD TOKYO」が目指すのは、荒れてしまった東京の山や森、それに林業を再生すること。そのために、多くの人の生活に木を取り入れてもらおうと、多摩産の木材を使った商品の販売を手がけている。中でも力を入れているのが、無垢の木の床をDIYで仕上げられる「敷くだけフローリング」だ。もともとは、編集者兼ライターの安田さん。それがなぜ、木材を扱う仕事をすることに?

 これまで20年ほど編集とライターの仕事を続けてきて、暮らしている三鷹の魅力を発信する本や、企業の環境報告書などを手がけてきました。地域の宝物を掘り起こしたり、より豊かな未来や環境に配慮したライフスタイルを実現したりするために、自分なりに仕事をしてきたつもりでした。でも、東日本大震災とその後に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故で、「このままの仕事のやり方で、次の世代によりよい未来をつなげていけるのか」と考え込んでしまったのです。
 
 編集者としての仕事は、取材をして情報を集めて、それを取捨選択しながら構成し、ほとんどの場合は見知らぬ読者に向けて記事や本をつくります。でも、もうそれだけでは足りないのではないか――。具体的な“もの”を“見える相手”に届けながら世の中を変えていくことに貢献したいと思うようになったのです。

 では、何をすればいいのかと試行錯誤を重ねていたとき、静岡で森の間伐をしている人たちのワークショップに参加しました。そこで初めて、放置されて荒れ放題の人工林や、伐採されてもなかなか使われない木材が多くあるという現実を知ったのです。同じような問題が東京の森にもあるに違いない――いてもたってもいられなくなっていたところ、仕事仲間を通して多摩地域にある製材所と原木市場を見に行くチャンスが巡ってきたのです。

――その仕事仲間とは、やはり編集者で現在は安田さんと一緒に「SMALL WOOD TOKYO」を運営している小田原澪さん。府中にある工務店のパンフレットを作ることになった小田原さんから、木材の流通や製材の取材に行くと聞いた安田さんは、編集者ならではの好奇心とフットワークの軽さを発揮。取材に同行したのは、2011年の秋のことだった。自分がこれから進むべき道を探そうと模索していた安田さんと、東京産の木材との初めての出合い。そこでもまた、編集者としての取材力を発揮する。

 製材所の人から、国産材で家を建てる人が少ないので木材が売れないと聞いたんです。よくよく聞いてみると、複雑な事情がありました。多摩地域の人工林の多くは急峻な山にあり、高性能の林業機器は使いにくく、木を運び出す手間と経費がかさんで割高になります。しかも、格安な外国産材や、化学合成品の新建材を使うハウスメーカーが多く、無垢材の柱や梁を使う在来工法で家を建てる人は減る一方で、ますます国産材が使われなくなる――という悪循環になっているというのです。
 
 かつて日本の森林では、戦中の必要物資や戦後の復興資材を確保するために大規模な伐採が行われ、多摩の森林でも多くの木が伐採されました。戦後は一転して拡大造林の政策によってスギやヒノキが植林され、多摩の森も約半分が人工林になりました。その木々が成育し、まさに今、豊かな森林資源となっています。ところが割高感や建築工法の変化で国産材の需要が減り、森は放置されて荒れるがままの状態が続いているのです。
 
 人の手が入らなくなった人工林には枝打ちされていない木が繁り、花粉症が問題になり、東京都では2006年から対策事業として多摩地域のスギ・ヒノキを伐り始めました。でも、そうして伐り出される木の多くは、細かったり短かったり節が多かったりと、建築材としては使われにくい。そのような木材をどうしたらよいのか? 低迷している木材の需要を復活させるためには何をしたらよいのか? これらは多摩地域の製材所の大きな悩みでもありました。
 「それなら、伐られた木をどんどん使おう!」。私たちの生活の中に無垢の木を取り入れる機会を広げて販路を増やせば、林業が活性化し、東京の森が元気になっていくと考えたのです。

――まずは、節が多かったり曲がっていたりする材を使って、お皿やまな板など、比較的小さなクラフト製品を作ることから始めた安田さん。とにかく多摩産の無垢材を商品化しようと、小田原さんと力を合わせて「SMALL WOOD TOKYO」を立ち上げたのは2012年の夏のことだ。

 製材所は大きな丸太を製材して、角材や板などを加工する場所です。お皿のように小さな製品を作る機材もないし、手仕事では手間もかかって販売価格が高くなってしまう。工芸品ほどの繊細なものはできないし、製材所の強みも生かせない。しかも売れなかったんです(苦笑)。

 丸いお皿のほかに長いお皿やまな板など試行錯誤しているうちに、製材所の人から、フローリング材は釘を打たなくても側面の凹凸をはめ込むだけでかなり固定されると教えてもらったんです。部屋の縦横の寸法にピッタリ合わせれば、それほどずれずに使えるだろうというので、「それなら、やってみよう!」と。まずは我が家で実験しました。部屋の寸法に合わせて無垢板を切ってもらい、合板の床の上に敷き詰めました。そうしたら、裸足で歩くととても気持ちがいいし、それまで足元が冷たかったのが冬でも温かくなった。木の香りも心地よくて、ものすごく快適だったわけですよ。「これならできる!」と、モニターさんを募って何件か実験的に施工した結果もよい感触を得られたので、2012年の12月にWEBサイトも作り、「敷くだけフローリング」という名称で売り始めました。


――東京の森で大量に伐られている木々に多く含まれる細い木や短い木や節の多い木など、建築材としては活用されにくく疎まれがちな木々。それを安田さんたちは愛情を込めて「SMALL WOOD」と呼び、丁寧に商品化している。次回は、看板商品である「敷くだけフローリング」について紹介しながら、安田さんに木の魅力や森の再生についてうかがいます。

【SMALL WOOD TOKYOのホームページアドレス】
http://www.smallwood.tokyo/

(構成・白田敦子)

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【やすだ・ともよ】
1964年北海道生まれ。学習院大学フランス文学科、パリ第七大学現代文学科卒業。ライター・編集者として雑誌記事の執筆、企業の環境報告書・CSR報告書、地域の本づくりなどに携わった後、未来世代へのプラスの種を蒔いていくことを決意。2012年に仲間と会社を設立し、東京のスギ・ヒノキをつかった木製品ブランド「SMALL WOOD TOKYO」を立ち上げ、森の再生を目指す。人工林の状況や無垢の木の心地よさを伝える木育ワークショップも考案し、ショールームや出前講座で広めている。メイン商品「敷くだけフローリング」は、2014年に多摩信用金庫主催「多摩ブルー・グリーン賞」の特別賞を受賞。
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