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子どものこれから
わが子を守るスポーツペアレンツ学 スポーツペアレンツジャパン代表
村田一恵
最終回 後悔しない子どものスポーツサポート
 「チームの健全と安全」は多くの親の望みです。わが子が所属するチーム内に危険を感じる問題が見えたとき、間違いに気づいたとき、指導者にはどのように伝えたらいいのでしょうか? 最終回では、子どものスポーツ活動を支える「親のあり方」を教えてもらいます。

チームへの提言は慎重に
 子どものスポーツチームを見学していて、「あれは危ないな」とか、「これはどうにか改善できないのかな」などと感じたことはありませんか? そうは思ってもチームの雰囲気を気にして言い出せなかったり、「今までやってきたやり方がある」などと言われそうで、問題を見つけてもなかなか指摘できないものです。ましてや新しくチームに加わった子どもの親の場合、指導者や先輩の親に物申すことはできない、という人も多いと思います。

 医師やスポーツトレーナーでも「自分の子どもの所属するチームの指導者には、専門的な意見やアドバイスはしづらい」という話をよく聞きます。その道のプロでさえ発言できないのに、専門家でもない親が何かを提案したり意見することは勇気のいることだと思います。

 よかれと思ってチームに働きかけても、「お前のお母さんうるさいなぁ」とほかの子から言われて、自分の子どもに嫌な思いをさせるかもしれません。かかわり方を間違えると、せっかくの思いや知識が伝わらないこともあります。

 しかし、自分の子どもが所属するスポーツチームが健全で安全であってほしいと思うのが親心です。大人たちの努力で子どものスポーツ事故やけがが防げるのであれば、積極的に働きかけていくことは大切です。

 では、チームの人間関係や雰囲気を壊すことなく、どのような働きかけをするとよいのでしょうか? それには、次に説明する3点を念頭において行動に移すのがいいと私は考えています。

?焦らずゆっくりとかかわっていく
 最初からチーム全体を変えようとするととても難しいと思います。まずは身近なところから働きかけていくのがいいのではないでしょうか。さまざまな年齢の子どもが所属するチームの中には、同じ学年の子どもを持つパパコーチや、親しいママ友達がいると思います。まずはそういった話しやすい人から、自分が危険に感じることを伝えてみたり、応急処置の勉強会に参加することを提案してみるのです。
 同じ学年の親から意識を変えていき、学年が上がったときに下級生の親へと伝えていく。あまり焦らずに慎重に周囲の意識を変えていけばいいのです。徐々に安全への認識が浸透して、それが親からコーチ、監督へとつながっていきます。時間はかかりますが、健全で安全な環境を目指して働きかけていくことが大切です。

?子どもと一緒に学んでいく
 練習や試合のとき、指導者や親は子どもたちから離れた場所にいます。ですから、同じコートやグラウンドで一緒にプレーをしている子どもたちのほうが、互いの体調や様子の変化によく気づいていることが多いのです。仲間の様子がおかしいなと思ったらすぐに指導者に知らせるように、子どもに教えておくといいでしょう。
 普段の生活の中で安全にかかわるさまざまな話を子どもたちとして、知識をつけてあげることも大切です。子どもが小学生までは親の付き添いや送迎、またはお当番の役割などがあってチームにかかわることが多いですが、中学生以上になると自主管理になり、親が登場することは少なくなってきます。ですから小学生時代に親子でスポーツ現場での安全についてしっかり学び、それ以降は子どもが自ら考えて行動できることが望ましい姿です。

?スポーツ事故やけがを未然に防ぐシステムづくり
  “1件の重大な事件や事故は300件以上のヒヤリとハットから”といわれています。みんなで気をつけることによって、問題になってしまうけがや事故を未然に防ぐことができます。ヒヤリとする、ハッとするような状況をチームの中で共有し対応できるように、情報共有システムがあるといいでしょう。
 事故やけがに直接かかわることだけでなく、「施設の老朽化しているところを見つけました」「テーピングの補給をしておきました」「あそこは危ないから子どもたちを近づけないようにしましょう」など、どんなことでもいいのです。さまざまな情報交換ができるシステムを作っておくことがポイントです。一人でできることには限界があるので、多くの親が同じように情報を共有して対応できるのが理想です。

バテない体をつくろう!

 練習や試合の途中で体力がなくなりバテてしまうと、集中力が欠けて事故やけがが起こりやすくなります。スポーツ事故やけがを未然に防ぐためには、普段の生活でも子どもの体調管理に気を配り、規則正しい生活習慣をつけさせることが大事です。バテない体づくりのためには十分な睡眠と食事が必要です。成長期の子どもの場合は、成長に必要な栄養をしっかりととらせるだけでなく、スポーツ活動で消費するエネルギー分の摂取も考えて献立を作ってください。
 朝から夕方まで長時間練習するチームも多いと思います。汗をかくことで水分と塩分が体内から出てしまいますから、水分補給が大切です。なるべく大きめの水筒を持たせましょう。朝食に水分と塩分が一緒にとれる味噌汁を飲ませる――そんなちょっとしたアイデアで塩分補給が簡単にできます。その場合、消化のよい具材を入れて食べさせるといいでしょう。お昼におにぎりを持たせる場合は、塩を少し多めにして作るなどの工夫をしてください。

最悪に備えて最善を尽くす
 私はこれまで「スポーツペアレンツジャパン」の活動の一環で、スポーツ事故やけがの取材を数多くしてきました。そこで感じたのは「練習を終えて無事に帰ってくる」「試合に行って無事に帰ってくる」のは当たり前なのではなく、とてもかけがえのないことなのだということです。 

 不幸なスポーツ事故やけがをどうしたら防げるのか、それを大人が真剣に考えることが大切なのです。何も起こらないだろうではなく、もしかしたら最悪なことが今日起こるかもしれない。そのことを常に頭に入れておけば、親である自分自身が何をするべきかわかってくると思います。

 安心して子どもを練習や試合に送り出したいと思うのは、どの親も同じです。大切な子どもたちが安全に活動できるように環境を整え、いざというときに最善を尽くせるように普段から備えておくことが重要なのではないでしょうか。


【「スポーツペアレンツジャパン」のホームページアドレス】
http://www.sports-parents-japan.com/

取材を終えて
 アメリカの大学でスポーツ医学(アスレチックトレーナー)を学んだ村田さんは、ジュニアスポーツ界の安全向上のために働くパイオニア的存在。専門家としての知識と男の子3人を育てた経験を踏まえたお話は、とてもリアルで実用的でした。「ほとんど利益の出ない社会奉仕のような活動ですが、私の活動が少しでも誰かのためになれば嬉しいと思っています。」と、志を持った明るくパワフルな女性。雑談の中で教えてもらった「チームの子ども全員を試合に出してあげよう」"10 minutes play time for all kids!" という草の根運動も興味深かったです。インタビューを通して、使命と愛情を持って仕事に取り組んでいる姿勢が伝わってきました。

(構成:加藤珠由、企画:芦名千恵)

※この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース15期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets

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【むらた・かずえ】
埼玉県出身。1997年、米マーズヒル大(スポーツ医学専攻)卒。3児の母。横浜市スポーツ医科学センターに勤務し、川崎フロンターレの選手のトレーニングサポートや早稲田大学ラグビー部のアシスタントトレーナーなども務める。その後、自身の子どもの地域スポーツ参加をきっかけに、日本の子どもたちのスポーツ環境におけるさまざまな問題を実感。トレーナー、母親としての経験を生かし、2013年にスポーツに積極的に取り組む子どもをもつ親(スポーツペアレンツ)向けの情報提供団体として「スポーツペアレンツジャパン」を設立。子どもたちの安全なスポーツ環境構築についての情報発信や保護者向けセミナーを中心に活動中。
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