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子どものこれから
わが子を守るスポーツペアレンツ学 スポーツペアレンツジャパン代表
村田一恵
第2回 万が一の事態にも慌てないために
 予兆もなく発症する心肺停止。見た目での判断が難しい脳しんとう。第1回ではスポーツ中のけがと症状を学びました。そこで今回は、緊急事態が目の前で起こったそのときに手順よく、迅速に、正確に行動するための「対応計画」と「応急手当4つの基本」を教えてもらいます。

緊急時の対応計画を準備しよう

図版提供:村田一恵
 今まで元気にプレーしていた子どもが突然倒れた! そんなとき皆さんはどう対応しますか? 症状によっては一刻を争うこともあります。パニックになって対処が遅れると重大な事故につながりかねません。そうならないためにぜひ準備しておいてほしいのが、EAP(緊急時対応計画)です。
 これは万が一の事態にも慌てず対応できるよう、必要事項を事前に書いておく計画表のようなもの。1枚の紙でも構いませんのでサンプル=右写真=を参考に、自分たちのチームに合わせてオリジナルのものを作ってみてください。その際、あれもこれもとたくさんの情報を書いてしまうと、いざというときにどこを見ていいのかわからなくなってしまいます。緊急時に必要な情報以外はあまり入れずに、ぱっと見て誰でもひと目でわかるようなシンプルなものがいいですね。

 EAPはどんな形式でも構わないのですが、必ず記載してほしいものが大きく分けて3つあります。それは以下のとおりです。 

?一次救命の流れ(別紙で1枚用意)

図版提供:村田一恵
 子どもの緊急事態に慌てないための行動計画です。意識・呼吸ともにない場合はすぐに119番。救急車が来るまでの間は胸骨圧迫(心臓マッサージ)と、AEDで除細動(電気ショックを与え、心臓を正常なリズムに戻す)を行います。意識・呼吸がある場合は、次に頭部外傷の有無をチェックしていく……といった流れを図のフローチャートのようにまとめておきましょう。一次救命の方法はチームの保護者全員が把握していることが理想です。胸骨圧迫の手順やAEDの使い方は、最寄りの消防署で開催している救命救急講習で教えてもらうこともできます。事前に調べた内容を持ち寄って保護者とコーチで勉強会を開くなど、みんなで知識を共有できるといいですね。

?「救急医療紹介電話番号」と「休日診療歯科紹介番号」
 緊急時に近隣の病院を紹介してくれる情報センターの電話番号です。子どもたちの練習や試合は、休日や夜間が多いですよね。119番するほどではないけれど病院に連れて行きたいときや、転んだりぶつけたりして歯や口の中を負傷したときなどに、この2つの情報センターの電話番号を知っておけば慌てることがありません。電話番号は地域によって異なるので、間違いのないよう調べておきましょう。

?AEDの設置場所
 子どものスポーツ現場から最も近いAEDの設置場所を記載しておきます。学校で活動しているチームであれば、学校の「どこ」にあるのでしょうか? 校舎? それとも体育館ですか? 場所がわかっても、休日や夜間に鍵がかかっていて取り出せなければ意味がありません。その点もきちんと確認しておきましょう。万が一に備えて現場から3分以内、せめて5分以内で取りに行くことができるAED設置場所を必ず確認し、記載しておきます。遠征など普段と違う場所に行くときも、そのつど確認が必要です。

 以上の3つは必ず記載し、万が一に備えましょう。これ以外にも必須ではないのですが記載したほうがいいものとして、保護者の携帯電話の番号やそれ以外の緊急連絡先があります。今は共働きの家庭も多いので、書いておくといざというときに役立ちます。また、情報を共有するためにも一斉メール配信サービスを上手に利用しましょう。

早めの対応と継続的なケアを
 EAPを準備するとともに、けがの正しい対処法についても知っておく必要があります。たいしたことはないだろうと放っておいたり、間違った処置をしてしまうと症状が悪化し、治りにくくなってしまうことがあるからです。そうならないためにも、捻挫や打撲、骨折などスポーツ外傷における基本的な応急手当「RICE(Rest・Icing・Compression・Elevation)」を覚えておきましょう。

イラスト:マツムラま


・Rest(休息・安静)
 けがをしたらプレーを中断して患部を動かさないようにし、安静にします。

・Icing(冷却)
 けがをしている部位の約2倍の氷と、子どもであればコップ1杯くらいの水をビニール袋に入れて口を閉じます。それを患部に当てて、関節の動きを制限するバンデージテープで10〜15分固定します。子どもの皮膚は薄いので、氷を当てる前にアンダーラップと呼ばれる薄いテーピング(または薄いハンカチなど)をひと巻きしましょう。

・Compression(圧迫)
 Icingで感覚がなくなってきたら氷を外し、バンデージで少し圧をかけながら患部を1〜2時間固定します。
 IcingとCompressionは、家に帰った後も交互に繰り返し行いましょう。それを2〜3日続けると症状は軽減していくはずです。

・Elevation(挙上)
 主に下半身のけがにおいて、心臓より患部を高くすることで腫れの増長を防ぐ効果があります。

 RICEの基本を知っておけば、突発的なけがの対応にも慌てることはありません。次回(第3回)にお話しする「救急箱に入れておくもの」で詳しく説明しますが、子どものスポーツ現場には氷やバンデージを必ず用意しておきましょう。またその場だけではなく、家に帰ってからも保護者が根気よく手当てを続けてあげて、早めに治していくことが大切です。

(構成:鈴木桃子、企画:芦名千恵)

【「スポーツペアレンツジャパン」のホームページアドレス】
http://www.sports-parents-japan.com/


取材を終えて
 インタビュアーである私の言葉の足りなさをフォローするかのように、優しく丁寧に答えてくれた村田さん。スポーツを頑張る子どもたちの「安全」を守りたい! その思いを熱く語る姿がとても印象的でした。周りの大人がほんの少し意識を変えることで、子どものスポーツ環境はよりよいものになっていく……。一人でも多くの人に村田さんの活動を知ってもらい、その思いが伝わるようにと願っています。

※この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース15期生の修了制作として、受講生が企画立案から構成、取材、撮影、編集、校正までを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets

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【むらた・かずえ】
埼玉県出身。1997年、米マーズヒル大(スポーツ医学専攻)卒。3児の母。横浜市スポーツ医科学センターに勤務し、川崎フロンターレの選手のトレーニングサポートや早稲田大学ラグビー部のアシスタントトレーナーなども務める。その後、自身の子どもの地域スポーツ参加をきっかけに、日本の子どもたちのスポーツ環境におけるさまざまな問題を実感。トレーナー、母親としての経験を生かし、2013年にスポーツに積極的に取り組む子どもをもつ親(スポーツペアレンツ)向けの情報提供団体として「スポーツペアレンツジャパン」を設立。子どもたちの安全なスポーツ環境構築についての情報発信や保護者向けセミナーを中心に活動中。
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