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にっぽん醤油蔵めぐり
「職人醤油」代表
高橋万太郎
第7回 ご近所にも世界にも開かれた蔵(福岡醤油店・三重県)

創業は明治28(1895)年

 「職人醤油」の店頭で、お客さまから「〝ささずめ〟って醤油ありますか?」と聞かれることがあります。または、「〝はしずめ〟って醤油……」ということも。「もしかすると〝はさめず〟ではないですか?」と実物の瓶を見せると、「あぁ、それそれ!」となります。
 商品名の言い間違いランキングがあるとすれば、1位になるのはこの福岡醤油店が手がける「はさめず」に違いありません。
 その名の意味は、最後にご紹介しましょう。

川向啓造社長

 〝忍者の里〟として知られる三重県伊賀市。高速道路をおりて車を走らせていると、今でも本当に忍者が修行していそうな山野が続いています。
 福岡醤油店のある島ヶ原地域に入ると、瓦ぶきの立派な家々が姿を現します。この地域は兼業農家が多く、企業の定年退職をきっかけに家を建てるという伝統があったのだとか。
 その中の一軒で、ひときわ真っ黒な瓦屋根の際立つ建物が福岡醤油店。
 「あそこの家とほぼ同時期に建てたんだけど、瓦の色が全然違うでしょ?」と、川向啓造社長が周囲の家を指差しながら解説してくれます。それによると、屋根瓦が黒いのは醤油造りに欠かせない乳酸菌や酵母菌の影響。つまり、微生物がすみ着いている証拠なのです。


50センチの土壁で囲まれている麹室は、ストーブとヤカンで温度と湿度を管理

キリン圧搾機。現役で活躍しているのは貴重で、文化庁登録有形文化財に指定されている

 店舗に入ると、大きなテーブル。「まぁ、お茶でも」と薦められるままイスにかけると、近くに座っていた年配の女性から話しかけられました。聞くと、奈良県から山をこえてやってきたそうです。「へ~、それは遠くからすごいですね」と伝えると、「やっぱり、ここの醤油がおいしいのよ!」と、ニッコリ。定期的に買いにきていて、帰りは車のトランクに醤油をたくさん入れた段ボール箱を積み込んで帰るのだと話してくれました。
 気づくと、周りのお客さん同士も会話が弾んでいます。ここでは自然とコミュニケーションが生まれるようです。

 一服の後は蔵の中へ。仕込み蔵には木桶が並び、てこの原理で醤油を搾る圧搾機がドンと据えつけられています。巨大な木の棒の先端に重石を吊り下げ、じわじわ醤油を搾ります。その姿がキリンに似ていることから、その名もキリン圧搾機。油圧式の圧搾機が主流の中で、適度な強さで搾れるので大豆の油分が混ざらず、おいしい醤油が搾れます。
 伝統的な設備ながらも現役で活躍しているのは、日本中を探しても福岡醤油店だけではないでしょうか。蔵は木桶とともに県の登録有形文化財に、キリン圧搾機は文化庁登録有形文化財に指定されています。

 さて、冒頭で紹介した看板商品の「はさめず」とは、先代の川向友宏さんが命名したもの。京都の古老から「昔は醤油のことを、箸ではさめない料理という意味で〝はさめず〟と呼んでいた」と聞いたことから、苦心して造り上げた新しい醤油を「はさめず」と名づけたのだそうです。
 変らぬ味と親しみやすさに引かれ、平日でも県内外から多くの人が訪れる福岡醤油店。きっと今日も、お客さん同士がお茶を飲みながらあれこれ話し込んでいることでしょう。


☆この1本でこの料理☆

福岡醤油(三重県)



はさめず

価格:362円+税

「鯛めし」


 タイの刺し身を使った丼。卵黄と、伊賀の豊かな自然の中で育まれる「はさめず」の甘みがピッタリ。薬味はお好みでたっぷりかけてもおいしい。

① 刺し身用のタイを小さめの削ぎ切りにする。薬味の大葉は細切りに
② 卵黄と「はさめず」をよく混ぜ、タイを入れてよくなじませる
③ 温かいご飯を丼によそい、タイを載せ、すりゴマをかける
④ 大葉や刻み海苔をこんもりと載せる


【職人醤油―こだわる人の醤油専門サイト】
http://www.s-shoyu.com/

☆こちらもぜひお読みください☆

連載「職人醤油のつくり方」では、高橋万太郎さんが、100mlの小瓶に入ったこだわりの醤油を扱うユニークな取り組みに至るきっかけとなった職人さんとの出会いや、若き蔵人たちとの交流などを紹介しています。
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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