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駆け出し忍者のくノ一修行
イラストレーター
いずみ朔庵
忍者修行 其の五 ~能ある忍者は爪を隠す、古文書に秘められた謎の巻㊦~
 忍者関連の文献はその特性ゆえに数が少ないのですが、それでも忍術書の集大成『万川集海(まんせんしゅうかい)※』など有名なものが存在します。
 その理由は、江戸期に入って先祖の由緒として子孫が書き記したり、武術指南書として使われるようになったから。山奥の滝の向こうの洞窟に隠してあるような、門外不出の秘伝の書ではなかったんですね。
 「水蜘蛛」のように実際はどのように使ったのかわからないものや、実用性が怪しいものが存在するのも、忍者が活躍した時代より後に忍術書が書かれていることが関係しているのかもしれません。大学では文献を読み解くだけでなく、忍術書に書かれた忍具を作ったり、忍術を試したりという研究も併せて行なっていくそうです。

 ところで、徳川家康が天下統一を果たし、泰平の世になってから活躍する場を失った忍者たちは、その後どうしたのでしょうか。本職で食べていけなくなった忍者たちはそのまま武士として召抱えられたり、百姓になったりするのですが、「忍者の家系」であることは彼らにとっては誇りだったようで、大切なアイデンティティになっていったようです。

KADOKAWA
1,700円+税

 高尾先生は、2017年に『忍者の末裔~江戸城に勤めた伊賀者たち~』(KADOKAWA)という本を書きました。忍者の血筋の家から発見された古文書をまとめ、わかりやすく解説したものです。
 古文書と言うと何やら難しそうなイメージがありますが、簡単に説明すると「過去に書き残されたあらゆる文献」のことで、歴史に関わるような重要文書だけでなく、ラブレターや日記、家計簿など内容はさまざま。うっかり恥ずかしい内容を世間にバラされてしまった歴史人物もたくさんいます。また、そこに書かれた日常の些細な事を読み解くことで、当時の生活や習慣を知ることも出来るのです。


古文書の読み解きは、原本が痛まないように写真やコピーで行うのだそう

 先生が見つけた古文書は「松下文書」と名付けられました。徳川家康の家臣だった初代からの系図に始まり、先祖は伊賀者(文書中では忍者と同等の意味を持つ)であったという記述、各時代の記録など、忍者というだけでなく、御家人の生活の記録としても貴重な文書なのです。中でも5代目の「菊蔵」さんは筆まめで、先生も思わず感情移入してしまうほどに日々の生活を丁寧に綴っていました。


画:いずみ朔庵



 仕事は休まず、休日出勤も厭わず、しかもそれを日記に記している。今なら完全にブラックですが、その勤勉さが上司に評価され、菊蔵さんは出世をしていきます。先代から受け継いだ仕事は明屋敷(あきやしき、武家屋敷の空き家)の警護でしたが、最終的には大奥の経理を任されるまでになりました。今で言えば「薄給平社員から、まともな給料をもらう経理課長になった」ぐらいでしょうか。書籍化できるほどのインパクトはないけれど、現実にはなかなか出来ないことだと思うのです。

 そんな実直な彼ですが、一時期「御庭御用」という単発の仕事をしています。その内容に関して日記に詳しい記載がないことから、おそらく隠密の仕事だったのではないかと高尾先生は言います。意外な感じがしますが、もしかしたら菊蔵さんの真面目っぷりが「忍び」に向いていたのかもしれませんね。


【まとめ】


 史実の忍者や忍術は確かに“地味”ですが、現実だからこそ、古文書にぽつんと書かれた「御庭御用」の文字に想像を膨らませたり、忍術書に記された事柄を試してみることで本物を感じることが出来るのも、ひとつの楽しみ方だという事を知りました。
 古文書はまだまだ一般家庭で眠っているものも多く、これから忍者の文献もどんどん出てくる可能性があります。高尾先生には他にも古文書の調べ方など色々なお話を伺いましたが、そろそろ時間になりました。本日はどうもありが……え? まだまだしゃべり足りないって? あのう、わたしお腹が空いちゃったんですが、ねぇ先生?(つづく)



※延宝4年(1676年)に伊賀国、藤林保武によって著された忍術書。万川集海は「萬川集海」と表記されたり、「ばんせんしゅうかい」と読まれる事もある。

古文書 Q&A

(監修・高尾善希)


1、自宅から古文書が出て来た。専門家に見てもらうにはどうしたら良い?
最寄りの自治体にある「文化財課」またはそれに類似した課にお尋ねください。文書館などがあればそちらでも対応してもらえます。

2、掛軸が出てきたが、価値のあるものかどうかわからない。それでも見てもらえる?
価値があるかどうかは調査には関係ありませんので、お気軽にご相談ください。

3、古いものなら骨董屋に鑑定してもらってもいいのでは?
骨董屋での判断は「価格価値」なので、歴史的価値、また、そのお宅にとっての価値とは違います。まずは専門家に調査を依頼することをおすすめします。

★★★古文書捨てちゃダメ絶対!!★★★



【朔庵亭 いずみ朔庵イラストレーションギャラリー】
http://www.sakuan.net/

高尾先生の個人ブログ「江戸時代研究の休み時間」
http://takaoyoshiki.cocolog-nifty.com/edojidai/
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【いずみ・さくあん】
歴史や時代物をはじめ、着物や和柄など日本文化に関するイラストを得意とし、時代小説の挿絵や装画などを中心に活動中。担当した装画には、『お文の影』(宮部みゆき)、『ぼんくら同心と徳川の姫』シリーズ(聖龍人)、『恋と歌舞伎と女の事情』(仲野マリ)などがある。和雑貨メーカーへのデザイン提供や江戸解説も行うなど、“江戸が好きすぎるイラストレーター”として活動中だが、実は幼いころから大の忍者好き。2017年には「甲賀流忍者検定」初級に首席で合格し、現在は一人前の忍者になるために修行中。著書に『財布でひも解く江戸あんない~マンガで辿る江戸時代に暮らしと遊び』(誠文堂新光社)がある。
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