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かもめアカデミー
伝統の継承者 文楽太夫
豊竹咲寿大夫
第4回 文楽を気軽に楽しむ
  文楽は、お客様の側にしきたりがあるわけではありません。伝統芸能とはいえチケット代もそれほど高くはありません。大阪の国立文楽劇場の公演には幕見席もあり、500〜1500円という、映画と同じ、もしくはそれよりも安い値段で観ることができます。今回は豊竹咲寿大夫さんにこの夏の公演予定を紹介していただきながら、初心者でも楽しめる文楽の鑑賞のポイントを指南していただきます。

(c)藤本礼奈
 初めて文楽を見に行く人にお勧めしたいのは、あらかじめあらすじを読んでから劇場に足を運ぶこと。舞台の構造や、語っている人が太夫で、その横にいるのが三味線弾きで……といった役割は観に来てくださればすぐわかるので、そんなに勉強して行かなくても大丈夫です。ただ、やはり言葉だけは昔のものなので、初めはわかりにくいかもしれません。掛詞なども凝っていて味わい深いので、簡単なストーリーを把握していたほうがより深く、作品世界に没頭していただけることでしょう。文楽というのは、結末を知っても楽しめる芸能なのです。

 演目はさまざまです。時代物だとカッコいい武将などが登場しますし、町人を描いた世話物は言葉も比較的現代に近く、三面記事のような内容が美しい言葉で語られるので、ドラマのような感覚で観ていただけると思います。一度観て、たとえば「長くてしんどい」と感じられたとしても、ほかの演目は合うかもしれませんので、気長に楽しんでもらえればうれしいですね。

古典から新作まで、幅広い演目を

 文楽の公演は、1、4、6、7〜8、11月に大阪の国立文楽劇場で、2、5、9、12月に東京の国立劇場小劇場で行われます。これが“本公演”で、2〜3週間続きます。それ以外の期間に、地方公演や海外公演などが入ります。大阪の国立文楽劇場で7月19日に開幕した夏休み公演(〜8月4日)では、第1部に「親子劇場」として、落語作家の小佐田定雄さんの新作『かみなり太鼓』と私も子どものころに観た『西遊記』を、第2部では「名作劇場」として没後290年の近松門左衛門が書いた『平家女護島(へいけにょごのしま)』と『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』の2作を上演します。

 私は第2部の『鑓の権三重帷子(やりのごんざかさねかたびら)』に出演しています。妻敵討(めがたきうち)※をする主君に仕える甚内という役をさせていただくのですが、迷いをみせる主君に決意を促す長いせりふがあります。このせりふを下郎らしく言わなければならず、これまでやらせていただいたことのない新たな役どころで、毎日考えながら挑戦していこうと思っています。また、第3部は「サマーレイトショー」として『女殺油地獄(おんなころしあぶらのじごく)』を上演します。『女殺〜』は今でいったらバイトがお金欲しさに向かいの店主を殺してしまうようなお話。何度か映像にもなっていて、堤真一さんが主演された映画や、松田優作さんが主演されたテレビ版も有名ですので、そちらをご覧になってから舞台を観るとわかりやすいかもしれませんね。

(c)藤本礼奈
 このほか、私は出演しませんが、8月には京都劇場で三谷幸喜さんが作・演出をなさった『其礼也心中(それなりしんじゅう)』も上演されます。また、9月には東京の国立劇場で、シェイクスピアの『ヘンリー四世』と『ウィンザーの陽気な女房たち』を文楽にした、『不破留寿之太夫(ふぁるすのたいふ)』も初演されます。古風なイメージの文楽ですが、こうして見ていくと、新作が結構あることがおわかりいただけるのではないでしょうか。過去には若者の間で人気のあるボーカロイド※のキャラクター初音ミクと文楽人形とのコラボレーションもありましたし、今年7月にロンドンで「ボーカロイド」と文楽人形のコラボレーションから生まれた映像作品「ボーカロイドオペラ『葵上』with 文楽人形」がプレミア上映され、秋には日本でも公開される予定です。

 新作への批判はありますが、古典とともに新しいものを上演するのも大事だと思います。私自身、物語が好きなので、いつか新作をやることができたらいいですね。ただ、そのためにはまず、きちんと芸の基礎を習得しなければならないと肝に銘じています。今年10月の地方公演では、夜の部の解説と、『釣女』の美女の役で出演します。東北にも行きますので、ぜひお近くの人は観にいらしてください。


※妻敵討(めがたきうち):姦通をした姦夫を本夫が殺害すること。中世においては敵討,妻敵討と併称されて盛んに行われた。

※ボーカロイド:音声合成・デスクトップミュージック(DTM)用のボーカル音源のこと。初音ミクはその女性キャラクターの名前。

次回は最終回。師匠や先輩方に囲まれて過ごす日常や思いを、お話しします。


(構成・高橋彩子)

【文楽豆知識】

右上:尻ひき 右下:おとし 左:床本 (c)藤本礼奈

太夫7つ道具

装束や舞台にかかわるものにこだわったり、大切に手を入れたりする。腹帯、尻ひき、おとし、見台(けんだい)、床本(ゆかほん)が太夫の7つ道具と言われる。

おとし
人により大きさや重さはさまざま。腹への力の入れ具合や姿勢の確認、体の重心を下げたり肩衣のずれを防ぐなどの役割がある。

床本
太夫の命。丸本と呼ばれる原本から自分で書き写し、自分でとじて作っている。師匠から代々伝わる“朱”も宝物。

見台
舞台で床本を載せている見台は太夫が個人で所有しているもの。太夫の好みによって扇子の色が異なる。


◆豊竹咲寿大夫さんブログ
http://ameblo.jp/sakiju/

※参考文献:『豊竹咲甫大夫と文楽へ行こう』(豊竹咲甫大夫著 旬報社)



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【とよたけ・さきじゅだゆう】
1989年大阪府生まれ。2002年豊竹咲大夫に入門、文楽協会研究生となる。2003年豊竹咲寿大夫と名のる。2005年7月国立文楽劇場で初舞台。
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