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美しいくらし
フランス小さな村の教会巡り トラベルライター
坂井彰代
第2回 ポンタヴェン「トレマロ礼拝堂」(下)

ゴーギャンの絵のモデルとされるキリスト像

梁にはユーモラスなレリーフも

 礼拝堂の中ほどに掲げられているのは、ゴーギャンの名画『黄色いキリスト』のモデルとされる木像。絵は、アメリカのオルブライト=ノックス美術館にありますが、パリのオルセー美術館にも『「黄色いキリスト」のある自画像』という作品があり、こちらは昨年、東京の三菱一号館美術館で開かれた「オルセーのナビ派」展に出品されるため、日本にやってきました。あのキリストと、まさか丸ノ内で再会できるとは! 思いがけない幸運に駆けつけ、絵の前に立つとアジサイに彩られたあの礼拝堂が目に浮かび、像と初めて会った日に思いを馳せました。

 ゴーギャンの代表作のひとつともされる『黄色いキリスト』。そのモデルとなった「選ばれし」像はどれほどすごいんだろう、と期待して訪れたなら、肩透かしをくうかもしれません。トレマロ礼拝堂でこちらを見下ろしている像は、あまりにも慎ましいのです。前回、紹介したヴェズレー「サント・マドレーヌ・バジリカ聖堂」で見たようなパワフルなイメージではなく、弱々しくて線の細いキリスト。ルネッサンスの絵に描かれたような美形でもありません。
 でも、硬い木の椅子に座って見上げていると、なぜか心が安らぎました。長い旅の後半に出会ったからかもしれません。それはあたかも、ひどく疲れているときに、いろいろアドバイスをくれる人よりも、ただ黙ってそばにいてくれる友達がありがたかったりする感覚でしょうか。ゴーギャンは、どんな気持ちでこの像を見つめていたのでしょうね。

 奥の祭壇を見ると、やはりアジサイの花が飾られています。花屋で買ったのではなく、いかにも庭先の花を無造作にいけた様子。それがまた、絵になっている。この礼拝堂なら、並木道に咲く野の花を添えても似合いそうです。
 見上げると、外からは石造りに見えた礼拝堂の天井は、板張りになっているのがわかりました。船底がひっくり返ったかのような造りですが、素材の一部に木が使われているだけで、ほんのりと温もりを感じます。
 梁に潜んだユーモラスなレリーフも見つけました。股の下から顔を出してアクロバティックなポーズをとっていたり、葉っぱをくわえてアカンベエをしていたり。木の梁に装飾があるのは、日本の神社のよう。それも、木の温もりに加えて居心地のよさを感じた理由かもしれません。


ゴーギャンが絵を描いた場所にはレリーフが設置されている

 さあ、心も体もリフレッシュしたところで、ポンタヴェンの村を少し散策してみましょうか。昔ながらの水車風景が残るアヴェン川に沿って歩くと、ゴーギャンが絵を描いた場所にパネルが置かれています。今の風景と見比べれば、ちょっとしたロケ地巡り気分に。
 せっかくブルターニュに来たのだから、ご当地っぽいおみやげも買いたいものです。なにしろブルターニュはフランスの地方のなかでも、とりわけその個性が際立つ場所。その理由は、6世紀にイギリスから移住してきたケルト人が築いた「小ブリテン」が、ブルターニュのルーツだから。この地に住む人々は自己紹介をするとき、「私はブルトン人です」と語るほど郷土愛が強く、ケルトのアイデンティティを大切にしています。「トリスケル」と呼ばれる、ブルターニュのシンボルをあしらったアクセサリーや雑貨もよく見かけました。

「トリスケル」をあしらったアクセサリー

シードル専用のカップ「ボル」

 バターをたっぷり使った伝統的なクッキー「ガレット」もこの地の名物。なかには、ゴーギャンの絵をロゴに使ったブランドもあります。このロゴに変えてから売上げが伸びたといいますから、西洋文明から距離を置くために最後はタヒチに移住したゴーギャンも、意図せずしてお菓子の宣伝に一役買っているようです。
 さらにぶらぶら歩いていると、甘いものよりお酒のほうが好きな私にぴったりのおみやげが。「ボル」と呼ばれるシードル専用のカップです。ビンを利用したスタンドも迷わず購入。このさわやかなリンゴの発泡酒があれば、まだまだ厳しい日本の残暑も乗り切れるような気がしています。

(写真:伊藤智郎)
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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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