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美しいくらし
フランス小さな村の教会巡り トラベルライター
坂井彰代
第2回 ポンタヴェン「トレマロ礼拝堂」(上)
 フランスで最も人気のある教会は、パリのノートルダム大聖堂。年間1300万人もの訪問者を迎えているそうです。換算すると毎日3万人以上が訪れるわけですから、ここがフランスの教会初体験、という方も多いのではないでしょうか。
 素晴らしい教会がいくつもあるフランスでは、パリを離れてどの町に行っても観光名所には必ずといっていいほど教会が入っています。そうなると、「また教会?」と、ちょっと食傷気味になってしまうかもしれません。
 その気持ち、わかります!
 “教会好き”を自認する私でさえ、世界遺産レベルの大聖堂を5つも続けて見るようなことになったら、「少し休憩したい」と思いますから。

水車のあるポンタヴェンの村

 今回ご紹介するポンタヴェンのトレマロ礼拝堂は、ちょうどそんな気分のときに訪ねた教会。フランスの西の端っこにあるブルターニュ地方、「果て」を意味する「フィニステール」という県にあり、着いたときはとんでもなく遠いところに来たという気持ちになりました。

 美術が好きな人なら、「ポンタヴェン」の名前は耳にしたことがあるかもしれません。昔は水車と民家があるだけの静かな村でしたが、19世紀後半にポール・ゴーギャンをはじめとする画家たちが活動の拠点としたことで、その名が知られるようになりました。印象派の手法から離れ、遠近法や陰影を使わずに平面的な色面とくっきりとした輪郭で描いた彼らのグループは、その名も「ポンタヴェン派」と呼ばれています。村には今も画家たちが住んでいるようで、絵を展示したギャラリーもちらほら。いかにも「芸術村」といった趣です。

トレマロ礼拝堂

 礼拝堂は、ポンタヴェンの中心部から1キロほど離れた村はずれにあります。「愛の森」というロマンチックな名前で呼ばれる森の近く、表示にしたがって進んでいくと、並木道の向こうに現れました。

 おや、なんだか不思議な形をしていますよ。三角形の教会!? 傍らには、アジサイが見事な花を咲かせています。日本では梅雨のころに咲くイメージですが、真夏のブルターニュでは、あちらこちらで美しいアジサイロードに出合います。雨が多いのか、この地方の石は真夏でもどこかしっとりとした印象があり、アジサイがとても似合うのです。
 礼拝堂に近づくと、見えていたのは教会の後部だということがわかりました。田舎の教会は気まぐれに閉まっていることがあるので、開いていることを願いながら正面に回ると、幸い脇の扉が開いていました。どうやら門前払いを食らわずにすんだようで、ほっとして中に入ると……。

礼拝堂内部。左手の梁にキリスト像が

 迎えてくれたのは、ひっそりとして薄暗い空間。地面にくっつきそうなくらい大きな屋根が覆いかぶさっているので、窓が小さいせいかもしれません。これではよく見えないし、何となく心細くなったそのとき、「礼拝堂を照らしてください」と書かれた表示が目に入りました。まさに「救いの手」が差し伸べられたかのよう。投入口からコインを入れてスイッチを押すと、照明がつくという仕掛けになっていて、いくら入れるかはその人にゆだねられています。
 1ユーロコインを投入してスイッチをオン。少し明るくなった礼拝堂を見上げると、ほっそりとしたキリストの木像が浮かび上がりました。
(つづく)

(写真:伊藤智郎)
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【さかい・あきよ】
徳島県生まれ。上智大学文学部卒業。オフィス・ギア主宰。「地球の歩き方」シリーズ(ダイヤモンド社)の『フランス』『パリ&近郊の町』などの取材・執筆・編集を初版時より担当。取材のため年に3~4回、渡仏している。著書に『パリ・カフェ・ストーリー』(東京書籍)、『パリ・メトロ散歩』(同)がある。
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