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美しいくらし
東京ぶらり老舗散歩 江戸文化研究家
安原眞琴
第7回 浅草通りの今、昔②
かっぱ橋道具街を歩く

 では、仏壇通りを浅草方面に進みましょう。先ほどの〈松が谷一丁目〉の交差点を越えると、〈菊屋橋〉の交差点に出ます。ここを左折すると〈かっぱ橋道具街〉になります。仏壇通りとは打って変わって、ここは〈食〉に関する問屋街です。目印は、交差点に建つ〈ニイミ洋食器店〉のビルの屋上にある、巨大な顔だけのコック像、通称〈ジャンボコック〉です。

菊屋橋交差点の目印はジャンボコック!
 この通りでは、揃わないものはないほどの、さまざまな道具が売られています。テーブルウェアはもちろん、大型調理機械から、食品用の包装関連商品、レジスターやユニフォーム、看板、提灯、メニューといった専門店に、本物そっくりの食品サンプルのお店まであり、見ているだけで飽きません。

 古地図を見ると、江戸時代にはこの通りに〈新堀川〉が流れていたことが分かります。先ほどの交差点の名称〈菊屋橋〉は、川に架かっていた橋の名前だったのです。もちろん〈かっぱ橋〉も、橋の名前に由来します。ただし、なぜ〈かっぱ〉なのかについては、2つの説があります。1つは、近くにたくさん雨具の合羽屋があったから、もう1つは、妖怪の河童にちなむ、というものです。

かっぱ橋道具街には、今も河童伝説が息づいている
 その河童のお話を簡単にまとめてみましょう。江戸後期の文化年間(1804~17)の頃でした。合羽屋の喜八、通称合羽川太郎が、水はけの悪いこの地に新たな掘をつくろうと私財を投じましたが、なかなか上手くいきません。そこへ河童が現れて手伝ってくれ、無事に完成させることができました。

 今でもかっぱ橋道具街には、〈河童伝説〉が息づいています。喜八は没後、近くの菩提寺〈曹源寺〉に葬られました。なお、ここも明暦の大火で移転してきたお寺です。
その後、曹源寺は、喜八と河童の功績をたたえて〈河童寺〉と呼ばれるようになりました。そして、なんと寺宝には〈河童の手のミイラ〉もあり、河童への信仰が今も変わらずに寄せられているのです。

江戸っ子の夏の味といえば!
 かっぱ橋道具街の〈合羽橋〉の交差点に、直行する通りがあります。これを〈かっぱ橋本通り〉と言います。上野と浅草を結ぶ最も古い幹線道で、寛永寺の宮様の御成道でもあったと言われていますが、その後〈言問通り〉や〈仏壇通り〉などの広い道路ができたので、今ではメインストリートではなく商店街として賑わっています。

慶応年間創業の飯田屋
 この道を浅草方面に曲がって少し行くと、左側に木造のどっしりとした構えの老舗が見えます。ここが目的地の〈どぜう飯田屋〉です。「どぜう」とは「どじょう」のことです。どじょう専門店としては明治36年からですが、飯処としては慶応(1865~68)年間の創業です。四代目と五代目が伝統を守っています。

 豊臣秀吉が食べていたとも言われるどじょうですが、鰻と人気を二分するほど人気を得たのは、江戸のグルメガイド『江戸名物酒飯手引草』によれば、幕末頃からのようです。また、夏負けによいとされていたので、特に夏によく食べられていたようです。今でもどじょう鍋と言えば夏のスタミナ食として東京っ子に人気があります。

 飯田屋のどじょうには、〈マル〉と〈ヌキ〉があります。マルはそのままのどじょう、ヌキは割いたどじょうのことです。初心者は、どちらも楽しめるミックス鍋を注文するとよいでしょう。

長ネギは鉄鍋のどじょうの上へ。老舗ならではの上品な味わいが楽しめる
 平たい鉄鍋に並べられたどじょうの上に、長方形の深い木箱に入ったみじん切りの長ネギを、「これでもか」とこんもり乗せて、グツグツと煮えてきたらいただきます。飯田屋のどじょうは、くさみが全くなく、あっさりと上品な味わいです。老舗ならではの仕入れと下ごしらえによるのでしょう。

 どじょうは、カルシウムとコラーゲンがたっぷりの、美味で健康にもよい料理です。いかにも老舗らしい、清潔感あふれる藤敷の入れ込みの店内がまた、何とも言えず落ち着けて、食欲もそそられます。食べず嫌いの方もいらっしゃるかもしれませんが、だまされたと思ってぜひお試しください。

【どぜう飯田屋】
東京都台東区西浅草3-3-2
電話03-3843-0881
[営業時間]
11:30~21:30(L.O.21:00)
[定休日]
水曜日(祭日・浅草のもの日の場合は前後に振替休)


【makoto office 安原眞琴公式サイト】
http://www.makotooffice.net/

【イラストと地図:鈴木 透(すずき・とおる)】
1965年福島県生まれ。「釣りキチ三平」などを制作する矢口プロダクションを経てフリー。
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【やすはら・まこと】
1967年東京都生まれ。文学博士。専門は日本の中世・近世の文学、美術、文化、女性史。吉原文化の最後の継承者を5年間取材したドキュメンタリー映画「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」を2013年に発表。立教大学・法政大学・大正大学・東武カルチュアスクールなどで講師を務め、天台宗総合研究センター、日本時代劇研究所などの研究員でもある。NHKカルチャーラジオ「歴史再発見 芸者が支えた江戸の芸」を2016年に担当。著書に『「扇の草子」の研究――遊びの芸文』(ぺりかん社)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社)、『東京の老舗を食べる』(亜紀書房)などがある。
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