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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第10回“あるもの探し”で地域と共に育む醤油(下)
 東日本大震災が起きた当日のテレビに映っていたのは、八木澤商店を訪ねて見知った陸前高田の風景とは全く異なる映像でした。

どっしりした土蔵が印象的な震災前の八木澤商店
 あのときのことを、「想像をこえると、笑いしか出てこなかった」と河野さんは言います。一方で、「工場長は『原料を満タンにしていたのに流されてしまってもったいない』とか話している。いやいや、それどころじゃないでしょ! と冷静に対応していた自分もいました」とも。

 そして、誰かが「やるぞ」と言わないといけないと、そのときにはもう再建を決心していたといいます。当時は専務だった河野さんは、「自分たちが絶対に復活させるから」と、社長交代をお父上に直訴。翌日には従業員を集めて、「誰一人として解雇しない」と宣言したそうです。

新設した一関の工場では震災後2年で製造再開
 とはいえ、原料はおろか蔵もすべて流されてしまい、何もできることがありません。そのような状況で、八木澤商店の皆がやったのは配達。「1週間すると避難所には物資が集まってきますが、家が残った人たちの元には届いていませんでした」。そこで、醤油の代わりに支援物資をトラックに載せ、各家庭を回ったのです。


 同時にまた河野さんたちは、地元の仲間の会社も倒産させまいと奮闘。仮設の商店街をオープンさせようと、ある仲間は見取り図だけ持って営業許可書をもらうために動き回り、ある仲間は3日間で東北を駆け巡って商品を集めてきたそうです。「支援物資が集まってくるのに、買う人がいるのか」と不安の声もあったそうですが、仮説の商店街は大にぎわいに。
 人は、自分の意志で買いたい――。河野さんは、そのことを強く実感したそうです。

 その後、本社を陸前高田に残して、一山越えた一関市の小学校跡地に工場の建設を開始。一人の従業員も解雇せず、2013年から醤油の出荷を再開させました。

従業員を一人も解雇せず醤油づくりを再開した河野社長
 最近、河野さんはこんな話を聞かせてくれました。「“震災のおかげ”と言えるようになってきたんです。ないものねだりではなく、“あるもの探し”をすれば、できることは無数にあるということに気づきました。そして何より、当たり前に商売ができるありがたさを実感するんです」

 震災の前も、その後も、河野さんの元気のよさと豪快さは変わりません。地域と共にあるというスタンスも変わらずに、醤油づくりに取り組む。河野さんを見ていると、ずっとこれからもそうなのだと確信せずにはいられないのです。

☆今月の醤油 丸むらさき(岩手県 八木澤醤油)
価格:285円+税 / 原材料:大豆(遺伝子組換えでない)、小麦、食塩
詳細はこちらから↓
http://www.s-kura.com/?pid=7687686

【素材を生かして調和する濃口醤油】

東日本大震災の被害を乗り越え、2013年から自家製醸造醤油の出荷を再開。色は明るく、まろやかな口当たりの濃口醤油は、素材の持ち味を生かしてくれるので、これからの季節は、トウモロコシ炒めがぴったり。トウモロコシの皮をむき、ラップに包んで電子レンジで上下を返して1分30秒ずつ加熱、冷めたら包丁で実をこそげ落とし、フライパンで少しこげるように焼いたあと、醤油を少量たらすと香ばしい香りが広がる。この濃口醤油はほかの素材と調和しやすいため、みじん切りのショウガと酒、みりんとともに煮詰め、枝豆とシラスを加えたご飯にまぜるのもオススメ。これ1本で夏バテ知らずの食卓に。
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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