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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第8回 揺るがぬ信念が支える“田舎の香ばしさ”(下)
 「新しい木槽タンクのお披露目をする」とご案内をいただいたのは、2016年6月のこと。訪ねると、「やあやあ、久しぶりだね」と大久保さん。時間になると関係者らしき人たちがちらほら集まりだして、あいさつもそこそこに案内されたのは、もともと玄関のあったところです。その場所にすっかり新しい建物ができていて、大きな引き戸の扉部分にはしっかりと漆が塗られていました。

寝転ぶように設置されている巨大な木槽タンク
 扉を開けると皆の「お~!」という感嘆の声が聞こえてきました。見ると、大きな木槽タンクが寝転んでいます。これは、前代未聞ともいえる設置の仕方。1万リットルの木槽タンクが2つ、これもまたきれいに漆が塗られています。
 これは諸味(もろみ)の発酵タンク。縦型の桶やプラスチックタンクが一般的で、攪拌することで中の諸味をかき混ぜ、発酵や熟成の管理をします。この攪拌作業が、人手と体力を必要とする大変な作業。さらに大久保さんは、空気による攪拌だと過剰に混ぜすぎてしまうと感じていたとのこと。そこで考案したのが、諸味を混ぜるのではなくて動かすというこれまた創意工夫にあふれる方法でした。

 木槽タンクの中には大きなスクリューが入っていて、5馬力のモーターがゆっくり動きます。中の諸味はその動きに乗ってぐるりと1回転。タンクの中は諸味が満たされている状態なので、空気と接触する面積も最小限になります。しかも、メンテナンスが楽で人手も不要。まさに一石三鳥ともいえる仕組みです。

 この木槽タンクを手がけたのは日本木槽木管株式会社。この試みを大久保さんから打診されたのは、なんと8年前のことだったといいます。そのときは、通常は縦に備え付けているものを横にするのは無理だと断り続けていたそうです。横にすると下側に過重がかかり、上部の板と板の間が空いてしまい、漏れの原因になります。「品質を保証できないものは手がけるわけにいかない」という理由から断っていたものの、大久保さんの熱意に押され、試作品をつくっては議論を重ねて、とうとう完成の日を迎えたのだそうです。

創業は1905年(明治38年)
 「漆はいいもんだよ」と大久保さん。「昔ね、木のお風呂もしばらく使い続けると黒いカビが出てくるわけさ。それが嫌なもんで漆を塗ったところ、これが調子いいんだよね。時間がたっても水から嫌な臭いがしないんだ」
 そんな体験から、木槽タンクの内側にも外側にもしっかりと漆を塗っています。「学問的なことじゃなくて、感覚的によいものだと感じているんだ。だって、木でつくられた建物は百年たってもメンテナンスをしていれば使い続けることができるでしょ。鉄でつくった建物は40年もたてば老朽化だなんていわれてしまう。自然なほうがいいじゃない。漆は木の樹液でしょ。それを木に塗って戻しているわけだよね」

 大久保さんはいつも変わらない。ベースになる考え方は変えずに、常に新しい何かを形にし続けている。そんな姿を見たくて、また次の訪問が楽しみで仕方なくなってしまうのです。

☆今月の醤油 甘露醤油(長野県 大久保醸造)
価格:571円+税 / 原材料:生しょうゆ、大豆、小麦、食塩、米
詳細はこちらから↓
http://www.s-kura.com/?pid=10835962

【濃厚で香りが美しく、発酵の奥深さを実感できる】

1年間醸造した諸味に再び醤油麹を加え、さらに米糀を加えるため、濃厚でありながら香りが抜群に美しく、発酵の奥深さを実感できる。マグロなどの赤身のお刺身はもちろん、アジフライにソース代わりにかけてもおいしい。さらに、シフォンケーキの隠し味にしたり、アイスにかけてキャラメル風味を楽しんだりするのもオススメ。この1本をきっかけに醤油の世界に魅了される人も多い。
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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