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食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第7回 たどり着いた白醤油の原点とは(下)
 出迎えてくれた社長の蜷川洋一さんが、この小学校の校舎を利用した蔵についての経緯を説明してくれました。
 話は平成の初めにさかのぼります。「昔の白醤油は違った気がする」という先代のひとことから、白醤油づくりの見直しが始まったといいます。製法なのか原料なのか、先代のわずかな記憶を頼りにした昔の白醤油探し。麹と仕込水の割合を通常の1対2から1対1に変えてみると、収量は少なくなるもののしっかりした味になる。でも、そうすると白醤油の特徴である淡い琥珀色が濃くなってしまい、色の基準が白醤油ではなくなってしまう。色が濃くなる要因は原料の大豆に起因する部分が多いので、大豆の量を減らしていき、最後には一切使わないように……。そんな試行錯誤を繰り返す中、行き着いたのは、よい水を探すこと。そこでたどり着いたのが、この地だったというわけです。

木桶をのぞき、しろたまりの熟成具合を確かめる蜷川社長

「いつも頭の中は水のことばかりでした」と振り返る蜷川社長。人に会ってまず質問するのは水、水、水。するとある町の助役さんから、「あるよ!」と思いがけない回答が。その水を求めて現地に同行すると、行く手は深い山道。本当にこの先に町はあるのだろうか? 不安を抱えつつ車を走らせると、頂上を過ぎて少しのところに集落を一望できるポイントがありました。
「この風景にやられてしまいました。ここで醤油をつくりたいと思ってしまったんですよ!(笑)」と蜷川社長は言います。

 良質な水が見つかったら、それを本社工場に運び込もうという当初の予定から一転、この地で醤油をつくることに。ちょうど廃校になった小学校の建物を借りられることになりましたが、思いがけない障壁が……。それは、地元の方の理解を得ることでした。車で90分も離れた会社が、こんな山深い地で醤油工場をつくる。地元の方からすれば、「なぜ?」となるのは当然のことだと思います。「絶対に怪しい! 何かよからぬことを企んでいるのではないか」と、何度話し合いをしても進展しなかったのだとか。そこで、マイクロバスを仕立てて地元の方を本社工場の見学に招待。すると、「本当に醤油をつくってる!」と、一気に話が進み始めたそうです。

熟成中のしろたまり。原料に大豆は使っていない
 木桶の並ぶ仕込蔵の見学を終えて外に出ると、ご近所さんが蜷川社長を見つけて「ちょっと寄っていきなよ」と手招き。私も一緒にコタツを囲み、醸造所の設置に反対していた当時の様子を伺おうとすると、「今は日東醸造が誇りなんよ。もっと多くの人に知らせたい。あなたは醤油を売っているんだろ? だったら日東醸造を世界に紹介してくれよ!」。いつの間にかご近所さんが日東醸造の営業マン状態になり、どんどん話に熱を帯びていきます。蜷川社長が恥ずかしさのピークに達したように「そろそろ……」と口にするも、一切お構いなし。日東醸造自慢の話は続きました。

 今では毎年、この足助工場で日東醸造の顧客、社員、取引先、それに地元の人たちが集まってお祭りが開かれています。地域にとっても大切な存在となっている日東醸造。その理念は2016年に開催された第7回全国醤油サミットでも存分に実感することになるのですが、この話はまた別の機会にさせていただこうと思います。

☆今月の醤油 しろたまり(愛知県 日東醸造)
価格:381円+税/原材料:小麦、食塩、焼酎
詳細はこちらから↓
http://www.s-kura.com/?pid=56441654

【素材の色と風味を生かす№1】
昔の白醤油を追求した結果、仕込み水を半分にして原料から大豆を抜いて製造している。卵2個にしろたまりを大さじ2分の1、砂糖を大さじ1入れた卵焼きはきれいな黄色でふっくらと焼き上がる。ほうれん草を入れたり、薄焼きにして酢飯とキュウリを巻いて「卵巻き」にしたり。「白醤油を使ったことがない」という人も臆することなかれ。キュウリやトマトにさっとかけるもよし、乱切りにしたキュウリやニンジンとともにビニール袋に入れてよくもんで浅漬けにするもよし、簡単においしく楽しめる1本だ。
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【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
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