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美しいくらし
東京ぶらり老舗散歩 江戸文化研究家
安原眞琴
第4回 5月のお江戸日本橋へ②
再開発と時空の地層

 いよいよお江戸日本橋のメインストリート〈中央通り〉に出てみましょう。さすが都心の心臓部だけあって、まばゆいばかりの最新ビルが林立しています。三越の通りをはさんだ向かい側には、近年完成した高層の店舗兼商業ビル、〈コレド室町1〉〈コレド室町2〉〈コレド室町3〉が建っています。
 〈日本橋〉の橋の反対側には、これらよりも先に完成した〈コレド日本橋〉があり、三井本館の隣には〈日本橋三井タワー〉も建っています。
 これらのビルは、まとめて「三井ショッピングパークアーバン」と呼ばれています。このように現在、日本橋地区全体のリノベーションがはかられていて、まだ工事中のエリアも何ヵ所か残っています。

 この地区の再開発の特徴は、今と昔を交差させる工夫が、随所にちりばめられているところでしょう。たとえば、各ビルの入口に大きな暖簾を掛けて〈粋〉を演出をしていたり、ビルの合間に〈福徳神社〉が再建されたりしています。

再開発で再建された福徳神社
 ところで、天候が変りやすい春は、都心の散歩がオススメです。急に雨が降ってきても、すぐにどこかのビルに入って、ウィンドウショッピングや食事を楽しみながら雨宿りができるからです。三井タワーには〈三井記念美術館〉もあるので、美術鑑賞をすることだってできます。
 もちろんビルの中には、老舗も入っています。鰹節屋の〈にんべん〉はコレド室町1、果物屋の〈千疋屋〉は三井タワーに、それぞれあります。でも、「ビルよりも昔ながらの店舗の方が好き」という方もいらっしゃるかもしれませんね。そんな方は、三越デパートの向かいの〈むろまち小路〉に行くとよいでしょう。書画用品店の〈有便堂〉や蒲鉾屋の〈神茂〉といった老舗が、軒を連ねています。

 近くには〈三浦按針の屋敷跡〉の石碑も建っています。ただし、とても見付けにくいので、目を凝らして探してみてください。〈三浦〉は日本人ではなく、徳川家康の時代に日本に漂着したイギリス人航海士で、本名を〈ウィリアム・アダムス〉と言います。三浦と共に漂着した〈ヤン・ヨーステン〉の屋敷も近所にありました。東京駅前を〈八重洲〉と言いますが、これはヤン・ヨーステンを漢字に直したものです。日本橋は江戸時代から〈国際都市〉でもあったのですね。

明治2年創業の室町砂場
 天ざる・天もり蕎麦の元祖
 そろそろご飯の時間にしましょう。中央通りを神田方面に少し進みますと、〈室町三丁目〉の交差点に出ます。ここから先は、まだ開発されていない場所で、どこか懐かしい路地がたくさん残っています。
 今から行く老舗の蕎麦屋「室町砂場」も、大通りから一本入ったところにあります。この通り自体、車の往来の激しい表通りとは違ってとても静かで、なんだか落ち着きます。

 〈砂場〉は、東京で最も古いお蕎麦屋さんの屋号の一つです。起源は豊臣秀吉の時代にまでさかのぼると言われています。屋号は、大阪城築城中の資材置き場〈砂場〉近くに出店したことに由来するそうです。

 室町砂場の創業は、明治2年(1869)。名物は、何といっても〈天ざる・天もり蕎麦〉です。でも、普通の天ぷら蕎麦を想像してはいけません。注文も、〈もり〉か〈ざる〉と言ってたのみます。
 すると、それらのつめたいお蕎麦に、かき揚げの入った温かい汁が付いて出てきます。いわば〈つけ麺〉のように、冷たいお蕎麦を温かい汁に付けて食べるのです。〈ざる〉と〈もり〉の違いにもご注意ください。〈ざる〉は白い更科で、〈もり〉は黒みのある蕎麦のことです。

 天ざる・天もり蕎麦は、三代目の時に、「暑い夏にも天ぷらを美味しく食べてもらおう」と考案されたそうです。そのお蕎麦には、「これぞ砂場」とうならせる最高の喉越しと風味があります。かき揚げには、海老と貝柱がふんだんに入っていて、それだけでもすこぶる美味しいのですが、汁と蕎麦との相性が、これまた抜群です。
 また、注文から出てくるまでの時間が早いのも、蕎麦がせっかちな江戸っ子のファストフードだったことが思い合わされて、「これも江戸文化の1つだなぁ」などと、納得したり嬉しい気持ちにさせられたりします。

看板メニューは元祖の天ざる・天もり蕎麦
  季節の料理も豊富なので、2階のお座敷を予約されてもよいでしょう。〈椅子席〉と〈小上がり〉のある1階は、1人から4人の間で、おしゃべりしながらサッと食べて出るのに向いています。せっかく行くのだから、もっと楽しみたいという方は、数人そろって、2階でじっくり、お酒を呑みながら季節料理を食べ、シメをお蕎麦にするのがよいかもしれません。

 散歩は、歩くだけではなく、どこで何を食べようか考えたり、景色を楽しんだり、時には横道にそれて買い物をしてみたりと、ラフなところも楽しいものです。どうぞ今月も、そんな〈ぶらり散歩〉をお楽しみください。


【室町砂場】
東京都中央区日本橋室町4-1-13
電話03-3241-4038
[営業時間]
【平日】
11:30~21:00(20:30L.O.)
【土】
11:30~16:00(15:30L.O.)

[定休日]
日曜・祝日


【makoto office 安原眞琴公式サイト】
http://www.makotooffice.net/

【イラストと地図:鈴木 透(すずき・とおる)】
1965年福島県生まれ。「釣りキチ三平」などを制作する矢口プロダクションを経てフリー。
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【やすはら・まこと】
1967年東京都生まれ。文学博士。専門は日本の中世・近世の文学、美術、文化、女性史。吉原文化の最後の継承者を5年間取材したドキュメンタリー映画「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」を2013年に発表。立教大学・法政大学・大正大学・東武カルチュアスクールなどで講師を務め、天台宗総合研究センター、日本時代劇研究所などの研究員でもある。NHKカルチャーラジオ「歴史再発見 芸者が支えた江戸の芸」を2016年に担当。著書に『「扇の草子」の研究――遊びの芸文』(ぺりかん社)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社)、『東京の老舗を食べる』(亜紀書房)などがある。
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