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美しいくらし
東京ぶらり老舗散歩 江戸文化研究家
安原眞琴
第3回 文豪の道から根津神社へ②
根津神社と3000株のツツジ山

 夏目漱石の旧居跡〈猫の家〉を右に見ながら道を進むと、交差点に出ます。〈日本医科大学〉があるのですぐに分かるでしょう。直交する道も、もちろん〈坂道〉になっていますので、そこをちょっと下りますと、右手に「根津神社」の鳥居があらわれます。ここは神社の裏門なので、この坂を〈根津裏門坂〉と言います。

 境内は広く、木々も生い茂っていて、都会とは思われない風情があります。それと言うのも、五代将軍徳川綱吉が整備した、いわゆる〈将軍様ゆかりの神社〉だからです。
綱吉の兄である綱重(つなしげ)の屋敷があった場所で、その綱重の息子が綱吉の養子となり、将軍の跡継ぎ、つまり六代将軍家宣(いえのぶ)になることが決まったときに、将軍の誕生地を神社にしてお祝いしたのです。

 社殿は、日光東照宮などと同じ〈権現造り〉です。大きな社殿の前には、立派な〈狛犬の石像〉と〈銅製の燈籠〉が一対ずつ置かれています。それらを含めた社殿をぐるりと取り囲んでいるのは、〈唐門〉を中心とした〈透塀〉(すかしべい)です。あまり有名ではないかもしれませんが、とても荘厳で重厚な神社です。

根津神社の境内社・乙姫稲荷神社
 社殿の脇には小さな堀のような池があり、それを境にして向こう側は、山の斜面になっています。3000株のツツジは、その斜面いっぱいにが植えられています。下から眺める全景も圧巻ですが、山に登ってツツジの中を散歩するのもオススメです。
 〈ツツジ山〉には、京都の〈伏見稲荷大社〉さながらの〈千本鳥居〉もあります。ツツジだけでも美しいのに、鳥居のトンネルもくぐることができるので、知らないうちに幻想的な世界にいざなわれてしまうでしょう。

 これらの鳥居は、境内社の1つ「乙女稲荷神社」に奉納されたものです。趣のある朱のお社(やしろ)は、ツツジ山の中腹にあります。扉の中の神さまの姿は見えませんが、どうやら奥深い穴があるそうです。
 見どころ満載の神社で、境内にはその他にも、歴史を感じさせる〈駒込稲荷神社〉や〈三猿の石像〉〈庚申塚〉などもあります。

本物の和食に出会える老舗
 歩いているうちにお腹がすいてきたのではないでしょうか? 裏門から入った根津神社を、正門から出て、前の道を左折すると不忍通りに出ますので、それを渡りましょう。
 そこはもう上野台地なので、すぐ先に急な坂道が迫っていますが、ご安心ください。もう登ることはありません。手前に〈芋甚〉(いもじん)という老舗の甘味処があるので、そこを右折しましょう。今川焼ならぬ〈昭和焼〉や、懐かしい味の〈アイス最中〉で有名です。

谷中 魚善
 道を曲がると、ようやく〈谷根千〉らしい路地になります。今は暗渠になっていますが、〈藍染川〉が流れていた道で、俗に「蛇道」と呼ばれています。
 その路地を抜けると根津の町に出ます。目の前の〈善光寺坂〉(現・言問通り)を少し登って右折すると、また路地があります。目的の老舗は、その左側にあります。
非常にオシャレなお店で、狭い路地の雰囲気と相俟って、ニューヨークかヨーロッパに来たかのような錯覚におちいります。
 実は、100年以上続く老舗の和食屋さんで、3代目のご主人が切り盛りしています。そのお母さんの、洒脱な会話で大人気だった名物女将が2代目で、もうお店には出ていらっしゃいませんが、95歳の今もお元気とのことです。

築地で仕入れた旬の素材を使った季節料理はどれも絶品
 もとは料理屋でしたが、その後お座敷を椅子席に変え、さらに2016年9月に、オシャレに大変身しました。3代目が試行錯誤の末に、「ニューヨークの和食屋さんのイメージで」とデザイナーにお願いして完成させたそうです。カウンターから椅子、壁に至るまでこだわりが詰まっています。
 もちろん料理にはかねてから定評があり、特に魚料理の美味しさは抜群でしたが、リニューアル後も味は変わらないどころか、グレードアップしています。「料理人は変わらないからね」と3代目。
 築地で仕入れた旬の素材を使った季節料理はどれも絶品。料理屋時代から培ってきた一手間も二手間もかけた料理の技に、リニューアルに際して創意工夫も加わりました。
 〈西洋のスマートさ〉と〈日本のおもてなしの心〉が見事に調和した、本物の和食に出会えるお店です。どうぞ、お酒とともに、じっくりと時間をかけて、味と時空をお楽しみください。

【谷中 魚善】
東京都台東区谷中1-2-10
電話03-3821-4351
[営業時間]
【平日】
夜18:00~25:00(23:00L.O.)
【土日祝】
昼11:30~15:00(13:30L.O.)
夜18:00~24:00(23:00L.O.)

[定休日]
水曜

【makoto office 安原眞琴公式サイト】
http://www.makotooffice.net/

【イラストと地図:鈴木 透(すずき・とおる)】
1965年福島県生まれ。「釣りキチ三平」などを制作する矢口プロダクションを経てフリー。
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【やすはら・まこと】
1967年東京都生まれ。文学博士。専門は日本の中世・近世の文学、美術、文化、女性史。吉原文化の最後の継承者を5年間取材したドキュメンタリー映画「最後の吉原芸者 四代目みな子姐さん―吉原最後の証言記録―」を2013年に発表。立教大学・法政大学・大正大学・東武カルチュアスクールなどで講師を務め、天台宗総合研究センター、日本時代劇研究所などの研究員でもある。NHKカルチャーラジオ「歴史再発見 芸者が支えた江戸の芸」を2016年に担当。著書に『「扇の草子」の研究――遊びの芸文』(ぺりかん社)、『超初心者のための落語入門』(主婦と生活社)、『東京の老舗を食べる』(亜紀書房)などがある。
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