× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 新刊・既刊案内 お問い合せ
食べるしあわせ
職人醤油のつくり方 「職人醤油」代表
高橋万太郎
第6回 自社醸造を復活させた若き蔵人の挑戦(下)
 全国各地の醤油蔵を巡っていると、「城くんって知っているかい?」と聞かれます。普通、他の蔵が話題に上がることは少ないのに、なぜかさまざまな生産者の口から「城 慶典」という名前が出てくる。 
 実は城さん、東京農業大学醸造学科の学生時代は長期の休みのたびに各地の醤油蔵に出向き、泊まりこみで醤油づくりの手伝いをしていたのです。醸造の蔵には、同業者は中に入れない、入ろうとしないという暗黙のルールがあるように感じますが、学生となると話は別。「城くんは、うちで醤油つくっていたんだよ」という蔵元は各地にあり、城さんの人柄もあいまって皆が師匠や親のようなまなざしで城さんの挑戦を見守っているのです。

上:大きく底がメッシュ状の麹蓋を使うオリジナルの仕込み
下:諸味の熟成具合を確かめる

 城さんが初めて仕込みをする年、手伝いに行かせてもらいました。すべてが手探りの状態で、城さんは小麦を炒る釜のような大きな道具から掃除に使う箒まで、多様な道具をそろえるために奔走していました。「これ見てください」と抱えてきたのが、麹づくりをするための麹蓋という道具です。一般的なものは片手で持てるほどですが、城さんのものは抱えないと持てないほどに大きい。しかも、底の部分はメッシュ状になっています。

 「均一に温度管理するにはこの形がいいと思ったんです。もともとはある醤油蔵で見せていただいたもの。昔はメッシュ素材がなかったので使えなかったのかもしれませんが、過剰な発熱をコントロールするには理にかなっていると感じました。自分がするならぜひこの方式にしたかったのです」

 各地の蔵のつくりを体験する中で、昔からの伝統製法がどのようなものかを知り、醸造学的にどのような裏づけがあるのかを考える。さらにその部分をより磨くために、現代の技術をもってして何か工夫ができないか――。このようなスタンスが城さんの醤油づくりには貫かれているように感じます。

 先の麹蓋も、先方の蔵元に城さんが相談をしたところ、喜んで実物を1枚送ってくれたそうです。こんなふうに、今までのやり方を変えることに消極的になりがちな職人たちも、城さんの頼みごとだと積極的に協力しています。

初めての圧搾には修業した岡本醤油のメンバーも駆けつけた
 初めて仕込みをすることの最大のデメリットは、どのような味になるかわからないことです。長年にわたり仕込みを続けている蔵には、この原料でこのように仕込みをするとおおよそこんなふうに発酵を経て、このような味わいになるという一連の経験知があります。その予測された動きと実際との差があると、その原因を突き詰めて対策を講じる。しかし、城さんの場合はその基準になるものがありません。

 逆にいうと、決まった形がないので毎年味が変わることが前提になります。同業者の職人は「それはまねできない」といいます。醤油の味が変わると、例えば飲食店向けに出荷していると場合には迷惑をかけることにもなりかねません。料理への味つけが変わり、ほかの調味料とのバランスも壊してしまいます。同じ品質のものをつくり続けることは大切なことであり、一方、大きく味を変えることはとても難しい挑戦でもあります。

 城さんの場合は、毎年変わることが前提。だから大胆に塩の産地をガラッと変えたり、麹菌の種類を変えたり、仕込みのときに大豆を細かく刻んでみたりと、いつもアグレッシブに試行錯誤をしています。

 「実際に手がけるほどに改善点は見えてくる。経験が浅い分、修正できるところはどんどん修正していくつもりです。来年の搾りは必ず今年よりも良いものにします!」
 そう力強く語る城さん。来年は今年より、もっとうまい――。城さんの搾る「生成り」は、進化を続けます。

☆今月の醤油 生成り、さいしこみ(福岡県 ミツル醤油醸造元)
価格:600円+税 / 原材料:大豆、小麦、食塩
詳細はこちらから↓
http://www.s-kura.com/?pid=96823699

【年々進化する「生成り、」今年はどんな味?】

福岡県糸島市産の大豆、小麦、塩を使い、甘みのある醤油が好まれる九州でシンプルな醤油造りに挑戦する若き造り手の渾身の一滴「生成り、」。こいくち、うすくち、さいしこみの3種類があり、中でも春にオススメなのが「生成り、さいしこみ」を使った「菜の花の肉巻き」だ。薄切り肉に軽く小麦粉を振ってから菜の花を巻き、フライパンできつね色になるまで焼いたら醤油をまわしかける。ビタミンCや鉄分・カルシウムなどの栄養もいっぱい!
ページの先頭へもどる
【たかはし・まんたろう】
1980年群馬県生まれ。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は、一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100mlの小瓶で販売する「職人醤油」を運営。これまでに全国の400以上の醤油蔵を訪問した。
記事一覧
新刊案内