「人を雇うことは雇用を生み、社会に役立つこと。つまり社会貢献だ」と以前から考えていた白駒さんは、2012年に起業し、「株式会社ことほぎ」を設立。現在、講演活動や執筆活動を通して、日本の歴史や文化の素晴らしさを国内外に広く発信する活動を精力的に展開しています。最終回ではそんな白駒さんに、仕事に対する心構えを教えてもらいました。好きでも苦しい
今の若い人は、趣味や好きなことを仕事にしたいと考えている人が多いようです。ですが、お金をもらう以上は、プロでなければならないということを忘れてほしくはありません。また、どんなに好きなことでもそれが仕事になった瞬間、必ず苦しいことが起こります。
たとえば、NHKで黒田官兵衛をテーマにした大河ドラマが放映される前年に、出版社から官兵衛についての執筆を依頼されたときのことです。それまで私は官兵衛があまり好きではありませんでした。でもプロである以上、その人物が好きではないからと断るわけにはいきません。そこで、なんとか官兵衛のいいところが見つかるエピソードに出会えないかと、実にさまざまな資料を探して読み込みました。
その結果、「優れた才能を持ちながら天下を獲れずに、一大名として人生を終えた不運な男」と一般に評されている官兵衛が、実は“自分の歴史における役割”を完璧に果たした「日本史上最も幸せな男」だったと、気づくことができたのです。
苦しいこともやり遂げれば、充実感や達成感を得ることができます。好き嫌いだけで仕事を選ぶのはもったいないと思います。
3回はチャレンジしよう 与えられた環境を受け入れ、“今”を精いっぱい生きることが大切だと思いますが、残念ながら人には向き不向き(適性)や能力の差があります。どんなに一生懸命に頑張っても、うまくいかないことがあります。
『古事記』や『日本書紀』を通して日本の神話に触れると、3回くらい挑戦すると道が開けてくるお話がいくつも出てきます。逆に言うと、3回頑張ってもうまくいかないのなら、その環境は自分には合わないのだと考えてもよいのかもしれません。一生懸命あきらめないのも大事ですが、頑張りすぎて病気になったら大変です。あきらめないで努力することと、どこかであきらめるという見極めのバランスが人生には大事なのではないでしょうか。
人が喜ぶと自分もうれしい
自分の仕事で人が喜んでくれたら、どんな人でも幸せに感じるはずです。
信長のぞうりを懐に入れて温めた豊臣秀吉の話は有名ですが、そのときの秀吉は天下取りなど考えてはいなかったと思うのです。貧しい農民の子として生まれた秀吉が、いきなり天下取りを夢見ていたとは、とても思えません。秀吉は望ましい未来を手に入れるために一生懸命働いたのではなく、農民の自分を雇ってくれた信長に感謝し、信長の恩に報いるために、心をこめて目の前の仕事に打ち込んだのだと思います。きっと秀吉は、自分の仕事で信長が喜んでくれるだけで、幸せを感じていたに違いありません。
どんな仕事も精いっぱい ここまでお話ししてきたように、「自分が好きなこと」「自分の能力」「人に喜んでもらえること」――この3つの集合体の接点を仕事にできたら、一番幸せだと思います。ただ、すべての人がそれを仕事にできるとは限りません。そんな巡り合わせになったとしても、あるいはどんな理不尽な環境に置かれたとしても、感謝の気持ちを持って人に喜んでもらえるよう精いっぱいのことをするという覚悟が大切だと思います。
その覚悟をもって、心を込めて仕事をすれば、もしかしたらその仕事が天職になるかもしれませんし、一生懸命に働く姿を見ていた誰かが、新たな縁を運んでくれるかもしれません。とにかく与えられた環境を受け入れ、感謝し、ご縁をいただいた人たちを笑顔にするために、自分にできる精いっぱいのことをやり続けること。そうすれば、必ず人生は開けていくはずです。
私も、仕事をいただくたびにご縁に感謝し、自分にできる精いっぱいのことをして、皆さまに喜んでいただけるよう生きてきたつもりです。これからも、先人たちが歴史に刻んできた日本人という生き方を全うして、いつか死を迎える時に最高の自分でいられるように、日々成長し続けたいと思います。
取材を終えて 白駒さんは、着物がとてもお似合いの笑顔のすてきな女性。「結婚・出産と仕事の両立を難しいと感じている人も多いけれど、『意外と両立できますよ』と教えてあげたい」と語ってくれました。すべてのことに全力投球し、人生の困難を経験した方ならではの、自信と優しさにあふれたアドバイス。取材を担当した私自身も、自分の生き方を見直すきっかけを与えてもらいました。
(構成:大谷涼美代、人物撮影:岩本薫子、風景撮影:馬場邦恵、編集:柏木真由子、北口博子)
*この記事は、株式会社リビングくらしHOW研究所が運営するライター・エディター養成講座「LETS」アドバンスコース17期生の修了制作として、受講生が取材、撮影、編集、校正などを実践で学びながら取り組んだものです。
【ライター・エディター養成講座「LETS」のホームページアドレス】
http://seminar.kurashihow.co.jp/lets