× close

お問い合せ

かもめの本棚に関するお問い合せは、下記メールアドレスで受けつけております。
kamome@tokaiedu.co.jp

かもめの本棚 online
トップページ かもめの本棚とは コンテンツ一覧 イベント・キャンペーン 新刊・既刊案内 お問い合せ
TOKYO銀座めぐり
イラストレーター(文と貼り絵)
きりたにかほり
第5回 のどかな街、上板橋南口銀座
東武東上線上板橋駅。
南口の階段を下りて、川越街道方面に伸びるのが
上板橋南口銀座商店街。
広い道幅に古い公園、のんびりつづく小さなお店が印象的でした。
偶然みつけた銭湯にも入りました。



7月の終わり、蒸し暑い午後。
ひさしぶりの東武東上線に揺られ、
上板橋南口銀座商店街をめざしました。

編集さんと待ち合わせた上板橋駅の南口は
人はいるものの、やや静かな印象。

街へと続く広い階段を下りながら
どこが始まりかしらときょろきょろして見つけました。

高さ5メートルはあろうかという立派な門。

「上板橋南口銀座」

わくわくする始まりです。



大きな門をくぐり、
ぬるい風に背中を押されるようにゆっくり歩くと、
空をシュッシュと割くように
電線が数本伸びていることに気づきました。
すべての線が、当たり前に
それぞれの電柱へつながれていることに愁いを感じます。

数本目の電柱の先、
白い屋根の本屋さんを通り過ぎるころ、
向かい側、ガラス張りのシャープな雰囲気のお店に出会いました。
ドアには「栗どら焼き、売り切れました」の貼り紙。
そして店内に見えるのは、和菓子とカラフルなケーキ。

……ケーキ?

白く細長い建物は、青いファザードが印象的で
まるでブティックかのように見えていましたし、
加えて、貼り紙の文字は「どら焼き完売」。

本当にケーキなの?

姿を確かめるべく店内に入ると、
ふんわり甘い香りが漂って、おいしそうなケーキたちがたしかに並んでいます。
フルーツを使った品がひときわ輝いているようでした。

これは帰りに必ず買いましょうと、
編集さんとふたり、うきうきしながら品定めをして
店を後にしました。

待っててね、わたしのフルーツロールケーキ。



甘い希望を胸に、歩みを進めると、
赤い屋根のお洋服屋さんが現れました。

路上に並べられたハンガーラックには、洋服やカバンがたくさん。
しかも手頃な価格帯で品数豊富。
好みのものを探す楽しみがつのります。


「似合う?変じゃない?」

店の前に立っていると、
鮮やかな色のスカートを持ったご婦人に話しかけられました。

「大丈夫よー」
「派手じゃない?」
「ぜんぜん!」
「これはーー?」

気づけば、編集さん、わたし、通りすがりのご婦人。
3人で相談しながら、
それぞれ自分の欲しい洋服を選んでいました。

お買い物タイム突入です。


ふと顔を上げて
かわいい挿絵の商品ポップが目に入りました。

向かいの通りのお店も、同じポップでしたから、
同じお店なのだと気づきました。

「この挿絵、かわいいですね」

洋服選びを続けながら、それを指差し
おもむろに、店員さんに話しかけると、
にやっと笑って、描いているのはあの人よと教えてくれました。

視線の先を辿ると、
テキパキ商品を整理している女性が。
上向きのまつげが魅力的です。


そういえば、商品ポップに描かれたキャラクターは、
どれもおめめがきらきら、まつげは上を向いていて、
彼女とおなじくたいへんキュートでした。

わたしは結局、紫色のワンピースを買い求め、
描き手の女性に「絵、かわいかったです」と伝えて
先へ向かいました。



ひとつめの通りをぴゅんと歩き終える頃、


「五本けやきがありますよ、行ってみましょう」


と、編集さんに声をかけられました。

なんでしょう、五本けやき?


今までの細い通りを出て、一段と太い通りにぶつかると、
横断歩道の真ん中に大きな木がそびえています。

どうやらこれが五本けやきのようです。
信号を待って、中州にわたると、説明が書いてありました。
昭和初期、当時の村長が川越街道の拡幅工事の際、
屋敷の林の一部を残すことを条件に自らの土地を提供。
その中の五本が現在に残って、
「五本けやき」と呼ばれているそうです。

街の歴史を感じます。



道を戻って銀座めぐりを続けていると、
木々が生い茂る静かな公園を発見。

入り口の石に「七軒家公園」と刻まれています。

広い公園に一歩踏み入れると、こどもたちのはしゃぐ声がして
その先にこどもたち向けのプールがあるとわかりました。
小さなプールの周りには満開のひまわりが。
なかなか風情があります。

公園の中心には舞台と灯籠がしつらえられていました。
夏祭りの夜が近いようです。



こどもたちの歓声を背中で聞きながら公園を後にし、
のどかな気分で、太くわかれる横道を右に左にうろうろ。

たくさん歩きましたが、どの道のはじまりも、
商店街の入り口と同じ高い門があるので、
どこまでが商店街なのかわかりやすかったです。


何本目かの通りを歩いているとき、
ねんど雑貨屋さんに出会いました。
ファンシーな雑貨のなかでも夏休みの工作教室で使うという
ねんどでできた小さなパンが魅力的でした。

お許しを得て何枚か写真をとらせていただき、
かわいい!たのしい!とひとしきりはしゃぎました。



あんなにたのしい気分でお店を出たにもかかわらず、
外は相変わらず逃げ場のない暑さ。

少しでも、と涼を求めて日陰を探しつつ
うなだれて歩いていると
看板の「寿湯」という光る文字が目に飛び込んできました。


「銭湯!」

「行きましょうよ」

「名案です」

というわけで
この日の最後は、めでたい名前の銭湯へ。


大きな湯船、広い風呂で汗を流して、
身も心もすっきりさっぱり。


来た道を戻って
ロールケーキを手みやげに街を発ちました。



今度はどら焼きを買いに訪れたいです。


〈次回は向島橘銀座を予定しています。どんな銀座かしら、お楽しみに。〉

※きりたにさんのホームページ「たいようのみやこ」
http://taiyonomiyako.com/index.html


ページの先頭へもどる
【きりたに・かほり】
1984年秋田県生まれの香川県育ち。熊本県立大学卒業後に上京し、都内制作会社にデザイナーとして勤務。現在は「世界をあたためたい」と絵を描き、関東を中心にイラストの制作や似顔絵屋さんなど行っている。
新刊案内